表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

24 拉致

「今のは……!」


 アキラの自分を呼ぶ声が聞こえた。

 こんな所でもたもたしてはいられない。


 隠し持っていたサバイバルナイフを素早く出すと、ユウトはネットを下から上へと勢いよく切り裂いた。

 レイもユウトのそんな行動は予想外だったらしい。

 慌てて後ろへ引き下がった。


「いやだ、そんな物騒な物持っていらしたの?」

「お前にそんなことを言われる筋合いなんて無いけどな!」


 そう言い捨てると、アキラがいたであろう方向へと駆け出した。


「ちょっと、あなたたち! 守地くんを止めなさい!」


 黒服で統一された屈強な男たちが飛び出して、ユウトの行く手を遮った。


「なんだこいつら?」


 率直な疑問が過ぎった。


「おい!なんだってこんなやつの言うことを聞いてるんだよ?」


 相手は答えない。


(こんな世界になってまで雇われてるとでもいうのか? 地位も名誉も、金さえも意味のない世界だぞ?)


 このままでは先に行くことすら出来ない。

 早くアキラの元に駆けつけたかった。


 その時、男たちの足下を小さな子犬がすり抜けて来た。

 何やら口にくわえている。


「チビ!」


 ユウトの足下でチビは立ち止まった。


「やっぱり、アキラに何かあったんだな?」


 チビは申し訳なさそうに小さく「キュウ」と鳴いた。


「何だそれ……スタンガン? まさか、アキラはそれで気絶させられて連れ去られたのか?」


 正確には違ったが、意図は伝わった。


「ほら、もうあきらめた方がいいのではなくて?」


 レイが詰め寄ってきていた。


「……ああ、そうか」


 ユウトは何かに気付いたように言うと、レイの腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。


「そのナイフで、私を人質にしようってこと? でも、あなたに人を傷付けることが出来るのかしら?」

「確かに、ナイフで傷付けるのは気が引けるけどな。これなら遠慮無くスイッチを押してやる」


 そう言って、その首筋にスタンガンを押しつける。

 レイの顔が少し強ばった。


「おーい、何やってんだお前。俺もう帰るぞー?」


 のんびりとした男の声が、前方から聞こえてきた。

 その腕には、ぐったりとして気を失っている少女が抱えられている。


「ア、アキラ……!」


 ユウトは動揺を隠しきれずに、レイを掴んだまま思わず身を乗り出した。


「ちょ、ちょっと! お兄様ったら、何勝手なことをおっしゃっているの! 私が足止めをしたお陰でしょう? 早くこっちを何とかして頂戴!」

「あーはいはい」


 キョウは面相くさそうに、ユウトに向かって声を掛けてきた。


「彼さあ、そのスタンガンって俺が捨てたやつだよね。もうバッテリー切れだから使えないよ、それ」

「……余計なことを」


 ユウトは舌打ちした。

 正直それは分かっていたが、威嚇に使うには充分だったのに。

 ユウトはスタンガンをナイフに持ち替えた。


「妹を傷付けられたくなかったら、その娘をこっちに返せ」

「ええ~、それは困るなあ。こんなカワイイ娘、もう絶対手に入らないと思うし。うん、お断りするよ。ああ代わりにソイツはさ、刺すなりなんなり好きにしてくれていいから。じゃ!」


 そう言うと、一人でさっさと引き返していく。


「ちょっと! 何よそれ信じられない! 覚えてらっしゃいヒッキーのくせに!」


 レイは兄を罵倒する。

 妹が妹なら兄も兄だ……ユウトは一瞬思い切り呆れた。

 だが、そんな暇はない。

 ユウトはレイを乱暴に放すと、直ぐさまキョウの後を追い掛けた。

 


 相手との距離はそれなりにあったが、あっちは人一人抱えながら移動している。

 追いつけると思った。

 入り組んだ瓦礫はまるで迷路のようだったが、キョウは思いの外身軽に瓦礫の間をすり抜けていく。


(何だこいつ! ヒッキーじゃなかったのか?)


 障害物で見え隠れする姿を見失わないよう、神経を集中させながらユウトは懸命に追い掛けた。


「もう少し……!」


 そう思った次の瞬間――


「え――?」


 突然、二人の姿が見えなくなった。


「どういうことだ……?」


 そこは周りより少し広い空間が広がっていて、瞬時に隠れられるような場所は無い筈だった。


「アキラ! どこだよアキラ!」


 よく考えると、アキラは気を失っていた。

 叫んだところで返事は無い。


「何処に行ったんだよ、一体……」


 為す術も無く、ユウトは途方に暮れそうになった。


「ワンワン!」


 チビが追い付いてきた。


「チビ……ご、ごめん。つい夢中でお前を置いてきちまった」


 チビは気にする様子もなく、ふんふんとしきりに地面の臭いを嗅ぎ回っている。

 突然ある所に来ると、爪をがりがりと立てて吠え始めた。

 見ると、直径が五センチ程の石が不自然に置かれている。


「これがどうかしたのか?」


 横から蹴ってみたが動かない。

「あれ?」そう思って今度は上から踏み付けてみた。



 がくん!



「うわ!?」


 いきなり足下に穴が開き、ユウトたちは中に落ちて行った。


「いてて、そういうことか――」


 縦穴の先に階段が続いている。

 教授の研究所と、少し作りが似ているように感じた。


「アキラは……本当にここにいるのか?」

「ワン!」


 チビが自信ありげに返事をした。


「お前すっげー頼もしい。ホント天才犬なんじゃないのか?」


 その言葉を聞くと、チビは嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
E★エブリスタ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ