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17 新たなる情報

 ユウトは目を覚ました。

 いつもと違って辺りがぼんやりと暗い。


(今は朝なのか?)


 時間の感覚が分からない。


(ああ、そうか。ここは外じゃなくて地下の研究所なんだっけ――)


 腕の中で何かがもぞもぞと動いた。

 自分の腕の中でアキラが眠っていたことを思い出した。


「アキラ……?」


 名前を呼んで抱き締めてみた。

 腕に返ってきたのは、もさもさとした感触。

 突如、ユウトの鼻先にしっとりとした物が当たった。

「ペロン」と口元を舐められる。


「……犬……」


 思いの外冷静な声で呟いた。



 ◇◆◇



「あ、ユウトおはよー!」


 キッチンで朝食を作っていたアキラが、いつも通りのテンションで挨拶をしてきた。


「ああ、おはよう」

「あ、お母さんもおはよー! ユウトと一緒に起きて来たんだ」


 ユウトの傍らで大あくびをしている犬に気付いて声を掛ける。


「お母さん? ああ、あの子犬の……でも何でお前の代わりに俺の寝床に入ってたんだ?」

「オレと入れ替わりに部屋に入って行ったから、その時かな? ユウトと寝ると気持ちいいもんねー」

「そうなんですか、お母さん……」


 何だか変な会話になっている。

 ユウトはまだ寝ボケているようだったが――


「ユウトくん……」


 その声に、ユウトはいきなりバチッと目が覚めた。

 教授がニヤニヤ顔で扉の陰からこちらを覗いている。

 ユウトはつかつかと教授に近付くと、足早にキッチンから連れ出した。


「ユウトくん、昨夜はとうとうアキラちゃんと……」

「ちち、違います! 寝たと言っても添い寝だけで! アキラが嫌がったんで無理にするのも、その、何か違うかな……て、あ、いや、何言ってんだ俺!」

「なーんじゃあ、つまらんのー」


 そう言いながらも、慌てふためくユウトを見られて満足そうにしている。


「あの、教授……ホントにただのエロじじいになってきてますよ……」


 どうも自分は教授に遊ばれているような気がしてならなかった。


「でも、収穫はちゃんとありましたよ。一方通行じゃないって分かっただけで今は充分です。少なくとも『男』に戻りたいとは言ってなかったし、少しくらい待ってあげても大丈夫かなと……」

「いやいや、優しいんだか、情けないんだか」

「アキラの気持ちを優先させただけです。何が悪いんですか?」


 ムッとしてユウトが意見すると、意味深に教授が呟いた。


「そんな悠長にして、他の男に取られんといいがのう」

「他って誰が――」


 言いかけて、はっとした。


「まさか、他にも生存者が見つかったんですか?」

「見つかるも何も、君らがここに来る前にも一度だけ他の生存者に会っておるんじゃよ」

「…………はあ!?」


 ユウトは一瞬遅いリアクションを取った。


「ちょっと待って下さい! 何で昨日教えてくれないんですか?」

「すまん、君らに話していいものかどうか悩んでおったんじゃ」

「どうしてです? そんな大事な情報、話してほしいに決まってるじゃないですか」

「そうじゃなあ、とりあえずユウトくんにだけは話しておこうかの」


 そう言って近くにあった椅子に腰掛けると、ユウトにも側に座るよう勧めてきた。



「いい体格をした若い衆じゃった。五つ子とか言っておったのう。それと、女性が一人の六人連れじゃった。名前は確か『キャサリン』とか言ったかの。その女性がまさにアキラちゃんと同じで、元々『男』だったと言うんじゃ」


 いきなりの重大発言にユウトは驚いた。


「そ、それであんなに詳しく説明出来たんですね。できれば俺たちもその人たちに、特にその女性に会いたいんですが」


 今はとにかく情報が欲しい。

 アキラに関することなら尚更だった。


「南へ向かうとか言っておった。彼らも生存者を捜して旅をしていたそうじゃからな」

「それ、いつのことですか」

「一週間程前かのう」

「一週間か。それなら尚更昨日……いや、急げば今からでも追いつけるか?」

「大丈夫じゃろう。衛生が生きておったんで彼らには発信器を携帯させておる。渡り鳥用じゃがな」


 そういうと、モニター画面をユウトに見せた。


 直線距離でいえば、ここから差程遠くはない所に赤い印が点灯している。


「実はこの三、四日、彼らはこの地点で停滞しておる。何かを見つけたのか、もしくは何かあったのか――君達は無論行こうとするだろうが、危険かもしれんと思うと言い出しにくくてな。特にアキラちゃんには……」


「もちろん、アキラは連れて行きません。俺だけで行ってきます。ただ――」


 黙って行ったとしてもアキラは必ず追い掛けてくるだろう。

 説明したとしても、それを納得するとは到底思えない。


(困ったな、どうしよう)


 そんなことを考えていると、ふいにアキラの澄んだ歌声が聴こえてきた。

 料理をしながら歌っているらしい。


「アキラちゃんの歌はいつ聴いてもいいのう。ほれ、植物達も喜んでおる」

「え?」


 よく見渡してみると、研究室中の植物たちがサワサワと音を立てている。


(植物が音に反応するというのは良く聞くけど、こんなに目に見えて分かるものなのか?)


「よし、ユウトくん、今の内に充電じゃ」

「は、充電?」


 よく見ると、巨樹の幹にはコンセントが取り付けてあった。渡されたプラグを差し込むと、



 ギュワッ―――



 一気にバッテリーの充電が完了した。


「ええ! 何だこれ?」

「プラグは幹に取り付けているが、電力自体は土中から取り出しておる。植物が根から微弱の電流を発しているのは知っておるかな。植物の進化によって、その力も強くなっておるようじゃ」

「まさか植物で充電出来る日が来ようとは……」


 ユウトは改めて、未だ秘めたる植物のパワーに圧倒された。


「植物には、未だ解明されていない能力がたくさん備わっておる。視覚、聴覚、触覚、嗅覚すら持っていると言われておるな。もしくは、人間の五感を遙かに超える感覚を幾つも備えているとも」

「聞いたことがあります。植物同士、根でコミュニケーションを取っているとか、人間の言葉も実は理解しているとか」


 植物の能力は未だ未知で、それは人間の想像を絶する物である。

 種によっては、時に心を癒してくれ、食物にもなれば薬にも毒にもなる。

 地球上で、最もタフで最強の生物なのかもしれない。


「アキラちゃんの歌は、それをよりパワーアップさせてくれるんじゃな。ところで、ユウトくんは歌わんのかね?」

「歌いません。授業で仕方なく歌うくらいで、カラオケすら行ったことがないですから」

「そうかー、デュエットなら更にパワーアップするかと思ったんじゃがのう」

「そんなに言うなら教授が……」


 歌えばいい、と言いかけてやめた。


「ん? 何じゃな」

「いえ、忘れて下さい」 


 あまり聴きたくはなかった。

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E★エブリスタ
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