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7人の異世界生存者  作者: 椅子寝
第1章
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ササラの少女

「浮島の情報、あるだけ頂戴。金はある」

「これは王女様。あの浮島っすか…?申し訳ありませんが」

「ないならいいわ」

「へぇ……ところで、外にいらっしゃるのは付き人で?」

「彼は旦那よ。やっと宮殿を出られたの」

「白髪とは珍しい方っすね…ちなみに何ヶ月に?」

「まだ2日目よ。どこの情報屋も知り得ない特ダネなんだから…高くつくわよ」

「新婚ホヤホヤの速報を俺に持ってきてくれたんすか?」

「その代わりに…もう一つ」

「何なりと」

「黒髪の女を捜してるの。名前はナナセ」

「黒髪なんて聞いたこともないっすね。ましてやナナセなんて名前も珍しい…どちらさんで?」

「昔の友達よ」

「なるほどね…仲間にも聞いてみますよ。ただ…黒髪なんていう珍しい方なら人身売買されている可能性もありますね。奴隷商人とかが好みそうだ」

「ありがと」


 …よくわからないが、3時間もぶっ通しで重たい荷物を背負い、歩き続けて到着したササラという町には、テスラの知り合いの情報屋がいるらしく、俺は日なたから逃げるようにそいつの家の外壁にもたれて座り込み、休憩がてら…テスラの用事が済むのを待っていた。その情報屋が顧客以外の顔出しNGってことも俺の外待ちの理由に繋がった。俺の頭上にある窓は閉まっており、さらにはカーテンまでも閉められている。中の様子は…さっぱりだ。


 一方で、首都から3時間も離れた場所ってだけで景観は大きく変化していた。思えば…首都の道のほとんどが石畳だったのに、この町の道はただ草を抜いただけのような土の道。レンガや石なんかで造られた建物が多い首都に比べ、ササラは藁葺きの建物が多い。なんかちょっと離れただけでもう田舎な感じがする。


「ねぇママ、あの人の髪の色、真っ白だよ?」

「こら、あんまり見ないの」


 ついでだが…外で待っていると何かと視線が飛んでくる。やっぱり白髪は目立つのか…髪、染めよっかな?


「あの…ちょっといいですか?」


 遠目で道行く親子を見ていると、何故だか俺に女の子が声をかけてきた。西洋人っぽい顔だからか、年齢の想像はできないが、何となく中学生くらいではないだろうか。使い込んだエプロンとちょっとボロい頭巾を装備しているのを見ると…家事の手伝いをしている町娘、みたいな印象を受けた。両手でりんご入りのバスケットの取っ手を握っているあたりから、お使いの帰りっぽさがあり、その印象をさらに強めた。


「俺に何か用でも?」

「あの…」


 モジモジする女は昔からあんまり得意じゃない。話しかけてきたくせに…言いたいことを言うまでに時間がかかるところなんかが…ちょっとイラっとさせる。言いたいことは早く言え…時間を惜しむ多忙な家庭に育ったのが影響しているのかもしれない。


「珍しい髪の色ですね」

「よく言われるよ」


 俺的には君の頭巾からはみ出た緑色の髪の方が新鮮だが…首都を通過する時にその点は確認済みだ。黒髪と白髪は滅多にいないらしく、その代わりに緑や青、赤なんかが多いらしい。まるでコスプレイベントに参加しているみたいな気分になる。


 俺が適当に言葉を返した途端、女の子はパッと笑顔になり、俺の左隣に腰をおろした。一体何故?


「良かった…怖い人かと思いました」

「はぁ、俺が怖い?」

「はい。だって…見たこともない髪色ですし、目つきが怖かったので…」

「じゃあなんで話しかけてきた?」

「好奇心です」


 この子は俺の見当違いで、モジモジする女ではなく…好奇心旺盛な女の子らしい。多分、疲れ切って目が死んでしまった俺を見て、少しビビりながらではあるが…自分の好奇心に従ったのだろう。


「お兄さん、名前は?」

「カマタ……サードだ」

「サード?」

「ああ。そっちは?」

「私はエリー」


 さっきとは比べものにならないくらいハキハキ話す子だな。


 好奇心に目を光らせているエリーは自分の左側に置いたバスケットからりんごを取り出すと、俺に手渡してきた。そもそもこれ…りんごなのか?


「それはプレゼント。サードさんって旅の人?」

「あんがと。旅の人ってどうして思う?」

「情報屋の家の前で座り込んでいるから」

「なるほどな…正解だ」

「やった~!」


 なんだろ…俺のいた世界にはこんな素直に笑う中学生がいただろうか?さすがにこの純粋さには心が洗われるな…


「ねぇ、お兄さんの旅の話聞かせて」

「始まったばかりなんだ。首都からここに来ただけで、これからだ」

「首都から来たの?」

「あ、ああ」

「じゃあ首都のこと教えてよ」

「隣町なのに首都には行ったことないのか?」


 素朴な疑問だったが、エリーは途端に暗い表情となる。


「私達の町は…農業生産特区に指定されてて、外には出れないの」

「農業生産特区?なんじゃそりゃ?」

「私もわからない。でも皆が外に出ちゃダメって言うから」


 ……テスラに後で聞くとするか。


「だから私、外から来る人の話が好きなの!」


 すぐにパッと明るい表情になったので、つられるように笑ってしまったが…嫌な胸騒ぎがするのを感じた。


「外の話か…そうだな」


 ともあれ…語れるほど首都を見ていないから、俺の口からは何も…


「どんな話が聞きたいんだ?」

「う~んとね…王様の話!街のこととかは他の人に聞いたけど…王様とかの話は聞いたことないの」

「そりゃまぁ…会ったことないからだろうが…」


 確か中肉中背のおっさんだった気がするが…これもまた、語れるだけの知識がない。でもお義父様なんだよな~


「お、じゃあ…シラクサ王女様の話でもいいか?」

「会ったことあるの?」


 一応は嫁さんだしな。


「あの人は俺と同じくらいの背の高さがあってだな…ふわっふわの長い金髪をなびかせ、青く澄んだ瞳はまるで宝石のように美しい!俺が見た中では最高に美人だった。きっと見たら度肝を抜くと思うぞ?」

「本当に!?」

「ああ、もちろんだとも!」


 自分が知らないことへの興味でテンションが上がっていくエリーを見ていると、ついつい饒舌になっちまう。


「だがな~…ただ綺麗な人ってわけでもなくて、結構強気で意地悪なところもあってだな…権威ある方は怖ぇぞ?」

「そうなの?」

「ああ…普通に笑っているだけかと思ったら、綺麗な人は何考えているのかわかったもんじゃない」

「こ、怖いんだね…」

「ま、根はいい方だ。この国を思っているだけあってな」

「へぇ~。この町の人達も王女様のことは大好きよ。1度、この町に遊びに来てくださって…私のママにこのバスケットをくれたんだ!」


 自慢げにバスケットを見せてくる少女…普通に可愛いわ。やっぱり俺のいた世界でこんな純粋な子っていない気がする。


「私はその時いなかったけど、今ではこのバスケットは家宝なの!むへへ~」

「ははは、そりゃいいな。大事にするんだぞ」

「うん!」


 手がエリーの頭の上に伸び、思わず撫でてしまう。大丈夫、犯罪じゃない。いくら俺の心が汚れてるからって!


「お兄さんは…優しい人だね」


 撫でられ、嬉しそうに目を細めたエリーは俺の顔を見て、ニコリと笑う。ああ…!なんと眩しい顔であろうか!


「俺が優しい?そりゃ嬉しいことを言ってくれる」


 さらに撫でてやると、そりゃもう…俺は瞬く間に幸せに包まれた。ロリコンじゃなかったけど、この子にはさすがに顔面が崩壊しそうになる。


「お兄さんに声をかけて良かった。最初は危ない人なのかなって…」


 エリーはヒョイっと立ち上がり、数歩進んだ後、軽い動きで振り返って…俺に最高級な笑みを見せてくれる。


「またエリーと話してね」


 また、ってことは…再びここに訪れることを望んでいると?


「ああ…またな。エリー」


 俺が手を振るとエリーも返してくれた。なんて可愛い子なのだろうか…これが「妹に欲しい」ってやつだな湯川!…生きてたらとても喜んだだろう。犯罪にも走ったかもしれない。


 遠くへ走り去っていくエリーを見えなくなるまで手を振り、彼女がいなくなった空虚な空間にため息を一つ。


「可愛かったな…」

「可愛かったわね」

「ああ…ありゃ可愛い」

「私より?」

「私より…って?あ…」


 あっという間に血の気がスゥ~っと引いていく。制汗剤をつけたような涼しさ…というよりかは冬に全裸で氷とハグしたような冷たさっぽい感じがする。


 恐る恐る声のする方に顔を上げる。俺のもたれていた外壁に取り付けられていた窓が開け放たれており…そこからは…


「こ、これはこれは…笑っておられるが、いかがしました?」


 急に敬語を使ったのはなぜ?


「綺麗な人は何考えているのかわかったものではない、って本当?」

「ええ、本当ですとも」

「じゃあ私の考えていること、わかる?」


 閉まっていたはずの窓から身を乗り出し、まるで鷹が獲物を狙うかのような鋭い目…ではあるが、先ほどの天使ちゃんと同じくらいな満面の笑顔を俺に向けてくるテスラの姿があった。


「いつからそこに?」

「権威ある方は怖ぇぞ?、のあたりから」

「あ、あぁ~…はははは」


 テスラは龍使い。俺の考えていることなんか…筒抜けじゃないか。今更思い出しても…遅いよな~


「で、私の考えていること、わかる?」

「いえ…さっぱり」

「でしょうね。じゃあ私は綺麗な人ってことでいいのかしら?」

 全然、いいと思う!だって俺が見た中では最高に美人だからな!うん!


 テスラは確実に美人だ。ただ…なんでなんだろうか?今はそれ以上に怖い。


「顔…かなり怖いぞ?…もらったけど、これ食う?」

「ええ…もらうわ」


 俺の差し出した果実を受け取ったテスラはピシャリと窓を閉めた。そしてあの果実はエリーにもらったもの。


「エリー…お兄さんを助けてくれたのか」


 彼女を撫でた感触がまだ残っている手をそっと握りしめ…俺は静かに静かに胸に当てた。


 この後、俺が絶叫するのはまた別の話である。

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