殺し屋の最期
第3章の始まり始まり~
「ようやく見つけたぞ」
「ああ、カンエイ様の仇め!」
夜の帳に包まれたバーシアの近くにある草原。俺らはやっと…あの女を見つけた。俺らのリーダーを殺し、計画をも崩壊させた人物にだ。
「絶対に許さない。殺してくれる!」
その結果、俺らの組織メイリス=カーチェスさえも崩壊してしまった。圧倒的力を誇ったカンエイ様の死は俺らの内部分裂を引き起こすには充分な衝撃だったのだ。
「くそったれ…よくもエデルたちも!」
だからメイリス=カーチェスの残党衆である俺らは血眼になって元凶の女を探した。女だと断定できたのは…似たような死体の山が他にもいくつか点在していたからだ。その周辺の目撃情報等々から割り出せた。
そして今、俺らはその女が外に出るのを確認し、総勢70名の猛者を率いて包囲した。
「アハハ!ンフフ!どうしたの~?皆さん顔が怖~い」
情報によると…あの女、重度の薬物依存者らしい。麻薬の密売人が路頭に迷っていた女に渡したら…見事に発症したとのこと。
「やろ~!舐めんな~!」
「かかれ~!」
つまりこの女は…今も麻薬の効果で夢か現実かわからない世界を彷徨い続けている。だからとんでもない化け物となったのだ。
先鋒隊20名が突撃を開始。女は依然ヘラヘラと笑っている。さて、お手並み拝見と行こうか。
「我らメイリス=カーチェスに手を出したことを後悔させてやらぁ!」
切り込み隊長ダットの巨大なハンマーが女の頭を…
ガンッ
「もらった…⁉」
振り下ろされたはずのハンマーが途中で止まる。それに1番驚いているのはダット自身だ。
「あ~あ…痛いなぁ」
「てめぇは…一体…」
俺がまばたきをした瞬間、次に見た景色は巨大なハンマーを余裕で振り回す大男のダットが…頭、両腕、両足…バラバラにされた状態で空に打ち上がっていたところだった。
「一瞬にして刻み殺したと言うのか⁉」
誰もが唖然とする中、女は甲高い声で笑い、降り注ぐ血の雨を、まるで普通の雨にはしゃぐ子供のように楽しんでいた。
「アハッ!血の匂い…たまらないわ」
それはもはや俺らに地獄を見せているようだった。
「お前ら!引けぇぇぇええええ!」
俺はまず叫んだ。お手並み拝見どころの相手ではない。
「ウフッ…無駄よ。もうあなたたち全員を地獄に送るって今決めたもの!」
「こ…この気狂いがぁぁぁああああ!」
消えた。そして先鋒隊の全員の首が空に打ち上がる。たった一瞬で…腕利きの殺し屋たちが死んでいく。
「弓を構え!」
「遅いわァ~ハハッ!」
弓を全員が持った瞬間、あっという間に間合いが詰められ、剣に持ち直す前に30名近くが殺された。これもまた消え、遠くにいた俺の目にも映らなかった。
「くそっ!死ねっ!」
殺したことに満足感を得ていた女に足の速いやつが懐へ潜り込み、剣を引き抜くと…女の右腕を切り落とす。
「ざまぁねぇな!」
「きゃぁぁああああ!」
ブシャ!グシュ!グシャ!
そいつの攻撃は止まらず、腹に剣を刺し込むとそのまま押し倒す。そして馬乗りになって、もう1本持っていた剣を抜き、滅多刺しにする。
「痛い痛いやめてぇぇええ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
「やめて…やめ…あぁぁああああ!」
「死ね死ね!失せろぉぉぉぉおおお!」
滅多刺しにしないと恐怖から解放されないのだろう。俺らも…その様子を見ても、どうってことないありふれた光景にしか見えない。あの女に立った一瞬で酷い地獄を見せつけられたのだから。
「ヘハッ!やりましたよ!メイリス=カーチェスを舐めるなクソ女!」
「よ、よくやったぞカイト!」
「カイトは俺らのヒーローだぜ!」
ぐちゃぐちゃの肉片とかした女の死体から離れ、滅多刺しにしたカイトが勝どきを上げた。後方支援として生き残った約20名もそれに続き、剣を空高く突き上げた。犠牲が多い中での勝利に俺らは一瞬だけ…地獄から解放された。
一瞬だけ、だ。
「カイト!後ろだ!」
俺がそれに気づいた時、それに背を向けていたカイト以外の仲間は全員揃って地獄に引きずり下ろされる。
「どうしたんすかガラハンドさん?俺やりま…」
「アハッ?痛かったわ~…どうしようっかな?」
カイトの後ろに立っていたのは…穴だらけの服を着たあの女だった。どういうわけか、滅多刺しにされたはずなのに無傷だ。根本…右腕は切り落とされたはずだし、近くに落ちているのに…なぜ右腕が女には存在する?不死身なのか?もしそうだとしたら…ただの死神じゃないか…
「カ、カイト離れろ!」
「逃がすわけないでしょう?」
女の謎の復活に気づくのが遅れたカイトは頭を右手で掴まれ、そのまま地面に引きずり倒される。
「私がされた痛み、味わうでしょ?」
「やめろ…放せ!放せぇ!」
悲しいことに俺らはカイトの元へは駆け寄れない。そんな非力な俺らをよそに、女はカイトの持っていた2本の剣を奪い、自分の血で汚れたその剣を舐める。
「私の血の味…ウフフッ…あなたの血の味はどんな味なの?楽しみね」
「殺せ!早く殺せ!」
カイトの叫びはただただ虚しく、女はカイトの足から滅多刺しにしていく。
「簡単には殺さないわ。ジワジワと痛みつけるの!あなたが私にやっとようにねぇ!どう⁉気持ちいい⁉」
「ぐわぁぁぁああああああ!」
地獄だ…俺らメイリス=カーチェスは死神に取り憑かれたのか?だったら…神にでも懺悔してやるよ。
「もうたくさんだ…地獄はもう見飽きた」
弓を持って死んだ野郎から弓をふんだくり、矢をつがえ、左足を骨ごと切断されたカイトに的を絞る。
「メイリス=カーチェス残党衆リーダー!このガラハンドの名を持って命ずる!全員、森に逃げ、1人でも多くの仲間に伝えろ!死神には手を出すなとな!」
弓はカンエイ様から教えてもらった。
いいかガラハンド?お前は弓の才能はある。しかし射るために必要なのは才能だけじゃない。もちろん技量でも気持ちでもないぞ?一体なんだと思う?
「ガラハンドさん!」
「行けぇお前ら!時間は稼いでやる!」
カンエイ様、あの時の答えがようやくわかった気が致します。ですから…俺に力を。
「当たれ!」
パシュ!
小気味のいい音がなり、矢は風を切り、仲間は野を駆ける。そして矢は苦痛の表情を浮かべるカイトの眉間に、仲間は近くの森に入った。
「ガラ…ハン…ド…さん…」
「カイト…すまないな」
カイトはそれでも笑ってくれた。
そして今もお前の死に気づかず、足を一心不乱に刺し続けていた死神には…俺から引導を渡す。
「この腐れ外道がっ!」
もう1度だけ矢を射ると、寸分違わず死神の左肩にヒットする。そこでようやく死神は状況を把握したらしい。
「あなたが彼の代わりに遊んでくれるの?」
息絶えたカイトを蹴飛ばし、次の矢をつがえる俺との間を一瞬にして詰めた。普通に走っても7秒はかかるはずなのに…!
「チッ!この…!」
「お~そ~いィ~ヒヒッ!」
弓矢を捨て、剣を抜く頃には拳が腹部にめり込む。
「俺をっ…舐めるなよ!」
どうにか倒れず踏ん張った。でも剣は手からこぼれ落ちる。
「やろぉ!」
一瞬の判断で踏ん張る時に踏み出した右足に重心を乗せ、左ストレートを女の顔に入れる。しかし寸前で首を横に動かされ、左手は女の右首筋をかすりながら通過。そのまま前につんのめる俺には綺麗なクロスカウンターが顔面に炸裂した。頭が、身体が、気持ちが…俺を構成するありとあらゆるものが揺れる。
近接戦では勝てない。矢を射る暇もない。剣を拾う時間も惜しい。
「じゃあ奥の手だ」
勝つためなら何でもする。これ即ち、殺すためなら手段を選ばない。
フラつきながら後退した俺は口の中に仕込んでおいた毒針を女の左腕に吹き、猛毒を女の身体に入れる。
「痛い…今度はなぁに?」
毒針を瞬時に抜いたようだが、笑止。あと数十秒で死ぬはずだ。カイトの滅多刺しが効かないなら…毒で内部から痛みつけてやろうじゃないか。
「これもついでだ」
本来は逃走用に使う腰に携帯した煙玉を炸裂させ、時間稼ぎに用いると、かっこよくその場から離れたかったが…地面に手などをつき、地面を這うようにしてさらなる後退を計る。俺の身体はもう限界だ。
「あ…身体が…動か…」
ドサッ
後方で倒れた音がする。やったのか?
「な~んてね」
猛毒でも効果がないなどありえん。しかし煙が晴れた時、確かに女は立っていた。では倒れた音は一体…?
「死神め…」
ヨロヨロ立ち上がり、女の足下に落ちている左腕を見、何となく察した。毒が回る前に、こいつは自分の腕を切り捨てたのだ。どうせまた生えてくると思ったのだろう。実際に左腕は普通に健在していた。
「気味の悪い女だな…」
もう十分時間を稼いだだろう。
「アハッ…よく言われてた」
「だろうな」
「でも~?」
無抵抗な俺は近づいてきた女に押し倒される。俺には小さな女をどかす力さえ…残ってはいない。
「そんな私に優しくしてくれた人がいるのよ?」
「ハハハ…相当な物好きだな。一体誰なんだ?」
首を掴まれ、少しずつ力を加えられていく。どうやら俺がジワジワ苦しむ姿を見ようという魂胆だろう。女の目の奥は誰よりも闇で染まっているから、きっとそのはずだ。いや、1人だけ…もっと深い闇を持つ人物がいたな。
「釜谷君に決まっているわ。忌まわしい王女に奪われた私の大切な人…」
「ハァハァ…そうか…よ。そうだった…のかよ」
王女に奪われた大切な……あいつか。サードだ。カンエイ様が殺そうとしていた標的の1人。なるほどな。俺らはサードを狙った段階で死神に取り憑かれたのか。
「これ…から…ゥオェ!…どうす…るんだ?」
ダメだ。気持ち悪くなってきた。
「あのクソ女に絶望を味わってもらうわ。そうね?…王宮殿にいる人間を皆殺しにしようかしら?ウフフ、楽しそうでしょ?」
「ああ…最高だ…なぁ」
殺し屋としては…舞台が最高すぎる。あの強者が揃い、堅牢な造りの王宮殿で暴れるなんて…夢のまた夢だ。でも、メイリス=カーチェスを壊滅に追い込んだこの女なら…造作でもないのか?
「見て…みたかっ…たな…カハッ!」
王女か…やはりあいつの闇ほど暗いものはない。笑い仮面を装着した残酷な陰の支配者。だから恐れた財務大臣が俺らに殺害を依頼したのだ。
そんな女と死神と化した女に好かれるなど…
「ンフフフッ!残念ね。お休みなさい。ゴ、ミ、ム、シ?」
サードとやら…お前も罪な男だな。
七瀬のシーンは敵視点で書きたい。それは物語を始める前から決めていたことである。




