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7人の異世界生存者  作者: 椅子寝
第2章
25/27

思春期は自爆と共に

「エレーナさん、行くよ」

「えぇ~私は~?」

「留守番頼む。そういうのって夫婦な感じでいいだろ?」

「…まぁそうね。帰りは?」

「長引くかもしれないけど、日の沈む前には」

「わかったわ。その間、私はユキノちゃんと遊んでる」

「えぇ⁉そんな…王女様」

「すまないユキノさん…本当に勘弁」

「…サ、サード君が言うなら…」

「サード、安心しろ。彼女には俺らが一切危害を加えさせん」


 昨夜はどうやら…それぞれが何かあったらしい。テスラは満面の笑みで迷惑そうな顔をするユキノに抱きつき、変態どもはちょっとテンションが低い。確か、エレーナさんと屋上で話をして、部屋に戻ると…「俺らには刺激が強過ぎた」と変態が3つ、床に転がっていた。


「では…行ってきます」

「いってらっしゃい!あなた様~!」

「い、いってらっしゃいです」

「おう、とっとと行けよ」

「サード君いってら~」

「…行って来い」


 ……初めて俺は12人から見送られている気がする。ちなみにそのうちの6人が護衛隊なのだが、それぞれが俺に頭を下げ、どうにも俺が対処しづらい雰囲気を醸す。まるでヤクザの組長と下っ端みたいじゃないか。


「エレーナ、ちゃんと守るのよ」

「はっ!」


 昨夜のことを引きずらないエレーナさんは立派だ。テスラの言葉に応えるようにまたピッタリと後ろをついてくる。


「今日はどちらへ?」

「ハンセン商会地下に。エレーナさんも知っての通り…エルフの件だよ」


 朝一テスラに話したところ、エルフの知恵のことを教えられ、あとは全部丸投げされた。そういうのが1番困るんだけどと思いながら、本人と話す必要性を感じたので、こちらから赴いている次第なのだ。


「側妻をとるおつもりで?」

「悩み中。だって王女と披露宴を開いたの昨日だよ?」


 エレベーター的乗り物で1階まで降り、守護兵団たちに顔パスして外へ出る。彼らについて行きますと申し出されたが、丁重にお断りをしておく。エルフの件は内密にことを進めなければならないからな。


「でも奴隷市場に行くけど平気?」

「大丈夫です。左肩は十分に隠していますから」


 服装も全身を隠すロングコートを着て、エレーナさんも同様のものを着ている。中には鎖帷子を着込んだりと万全な装備を整えていたようだが、対する俺はとりあえず前回の外出時に白髪を見られて正体がバレたので、髪をすっぽり隠すバンダナを装備した。


「にしても…お祭り騒ぎは収まっていないのか」

「その様ですね」


 ボルトナーさんに案内された時の道はしっかり覚えていたが、あの日は披露宴前夜だったこともあり、労働者の酔っ払いしかいなかったのに、今日の朝は観光客狙いの露店が中央通りに進出し、労働者より外から来た観光客で溢れていた。道を進むのだけでも一苦労だ。


「人が多い方が俺らも襲われないよね」

「あの節は…私の力不足で」

「悪かった。それ以上は言わないで」


 引きずらないと思っていたけど、彼女は確実に七瀬のことを引きずっている。だけど護衛隊にも守護兵団にも七瀬の存在を明かしていない以上、その辺のことは俺から何も言えない。


「ですが…しっかり謝らないと気持ちの整理ができません」

「そのできない気持ちこそが俺の与えた罰ってことでさ。それとも…もっと罰が欲しいの?マゾヒストだったりする?」

「マゾヒスト?」


 オーストリアの小説家ザッヘル=マゾッホは知らなくて当然か。そうなるとフランスの作家サドもか。


「肉体的苦痛を受けることによって性的満足を得る異常性欲に傾いている人間。被虐性愛者とも言うけど」

「そんなっ…!私はそのようなことは…!」

「うんうん。サディストっぽいもんな」

「よ、よくわかりませんが…」

「うん?ああ…そっちは肉体的苦痛を与えることによって性的満足を得る異常性欲に傾いている人間。要はマゾヒストの反対」

「わわ私が…どちらも違います!」


 後ろにいるためどんな顔をしているかさっぱりだ。しかし意外と声に感情が出るタイプなのかもしれない。


 さすがに性的とか言っちゃうとエレーナさんでも過剰反応するのか…ちょっとデリカシーがなかったかも。いや、説明を求めてきたのは…やっぱり俺が悪いか。王女の夫として紳士の振る舞いをしなくてはな。


「ま、エレーナさんは俺の寛大な心にドンと来てくれればいいよ。それがエレーナさんにとって苦痛なら罰でしょ?鞭打ちの刑とかにした方がいいならやるよ?」


 現代日本じゃ…それこそありえないよな。体罰だぞ?学校の教員が裁判所に訴えられるほどのやつだぞ?


「で…では…お言葉に甘えさせてもらいます」

「ならよし。この話はここまで。もっと明るい話題にしよう。せっかく2人きりなんだから」


 2人きり…か。改めて思うと、青髪美女と一緒なわけだし…ちょっと意識するとそのつもりはなくても緊張してきた。


 ここで「べ、別にお前のことがっ、好きとかいうんじゃないんだからな!」とか思うと俺も終わりだ。冴えない男のツンデレとか…誰得だよ。しかしながら…一瞬でも余裕がなくなった俺は決して「寛大な心」を持っているとは言えない。


「私は護衛ですので」

「そういうことはなしでさ。ほら、一応は女性なわけだし」


 一応ってなんだ⁉失礼すぎるじゃないか!


 人混みを縫うように歩いているため、後ろにいるエレーナさんにはバレないが…嫌な脂汗をかき始めたのは嘘じゃない。2人きりとか自分でぬかしといて…余裕がなくなる俺は男の底辺だ。勝手に自爆したんだものな。


「そ、そうだ~ちょっと買い物でもしていこうよ!うん、それがいい!」

「な…マーセナスと会う約束が…」

「お~!あれなんかエレーナさんに似合うと思うな」


 適当に立ち寄った露店に並ぶアクセサリーの中で俺はほぼ反射的にとある首飾りを手に取る。そして戸惑いの表情を浮かべるエレーナさんと見比べた。


「お姉さん、これおいくら?」

「おや、あたいはもう43だよ?もうおばさんだい」

「そうには見えないな~」


 レッツ値引き交渉。お金のレートは円単位と少々に似ているというのに最近になって気がつき、お買い物はそれなりにできるつもりだ。テスラからもらったお金は多くないけど。


「口が上手い兄さんね。ってあんた⁉」

「…バレた?」

「そ、そりゃ白髪がはみ出てるから…ますからね」


 露店の女性と目が合った瞬間、もう終わったと思った。口調の変化などからも…正体はバレた。


「え~っと…じゃあおいくらですか?」

「ルビネル鉱石の首飾りは2万ネイですが…」

「はい2万ネイ。うちの嫁さんは小遣いが少なくて困るよ」


 騒がれる前に退却しよう。値引き交渉は断念した方がいい。


「そんな…受け取れませんよ!あたい…そんな高尚な方から」

「高尚なんて滅相もない。そんな身分、とっくに馬の糞になって出てますよ」


 高尚な方が使うはずもない言葉に唖然としていた女性に2万ネイを押し付けるように支払う。


「なんと…まぁ…」

「では、俺はこれで。今後とも王女によろしくどうぞ」


 露店の女性と話しただけでバレた。バンダナ作戦は失敗か…でも近くで話さないとバレないな。


「おおおお買い上げっありがとうございました!」


 やっぱり王女の夫は高尚な身分か。この身分チラつかせれば…買い物もタダでできたりな。絶対にしないけど。今の小遣いはこれで5000を切ったけどさ…!ちょっとは考えて買い物しようよ俺!


「あ、これ…プレゼントです」


 俺に気づいた露店の女性の慌てた声に笑顔で応えながら、購入した透き通った黄色の宝石が主役の首飾りをエレーナさんに渡す。というか半ば無理やり握らせる。そうでもしないと彼女が受け取るはずもない。


「エレーナさんって青髪だから、黄色系の方が映えるかなって…ダメかな?」

「このようなもの受け取れません!」

「やっぱりもっとお高いのが良かった?」

「そうじゃありません!私が言いたいのは…!」

「付けてみてよ。それくらいは許されるでしょ?ボルトナーさんだって耳にいかついピアスしてるし」

「しかし…」

「じゃあ命令する。ただちに首飾りを装着されたし」


 ボルトナーさんと一緒に来た時の細道に入り、その場で俺が命令すると、渋々という形ではあるが、ようやくエレーナさんは首飾りを付けてくれた。命令すればいいのか…なるほど。


「あの…どう…でしょうか?」


 恥じらいと不安の絶妙なバランスを保った何とも言えない顔でこっちを見てくるエレーナさんに俺はしばし…魅入ってしまった。


「似合ってる。綺麗に見えるよ」


 アホか。俺は何でエレーナさんを口説くようなセリフしか出ない。もっと明るい声で「わぁ~やっぱり似合ってると思ったんだ~」とか言えなかった!


 まぁ俺にそんなことを言われても…


「サード様がそう仰るのであれば…」


 首に垂らした黄色い宝石ルビネル鉱石を大切そうに握り、俯きつつも顔にはちょっとした笑顔が浮かんでいるエレーナさん。どこの恋愛映画のワンシーンだって言いたくなる。しかし…


 キュン


 おう?何だ今の?俺の心が今変な音したぞ?


「あ~…うん。大切にしろよ?」


 勝手に自爆し、勝手にときめく…俺はどうも本調子じゃないみたいだ。昨夜のことがあったからか?


「はい。必ずや」


 ダメだ。エレーナさんの顔がもう直視できない。何気に気に入ってくれたみたいだし…もういいよね。


「よ、よし、とっとと行くぞ」


 本調子じゃない俺は客観的に見ると…非常に面白く写る。


 ああ…これが思春期なんだな、と。

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