生死と困惑のマーチ
「七瀬さん…!君がどうして?」
「ユウキ、こいつは味方じゃない」
空高く打ち上げられていた生首を追いかけたら、俺らの目の前でクラスメイトがクラスメイトを剣で刺していた。シュウジもユウキも…そして俺も驚きで立ち尽くしてしまう。
「…やっぱりダメだった…今はまだ私の釜谷君じゃない。でも取り返してみせるわ。待っててね釜谷君」
そんな俺らをまったく気にせず、笑みを深めた刺した張本人である寺脇七瀬はその場から悠々と立ち去っていく。
「おい待て!」
「ダメだよシュウジ!彼女と戦うのは得策じゃない!だって…兵隊さんを10人以上殺す相手だよ?」
「あいつを野放しにしろってか!俺らだって10人以上殺せる!」
「つまり彼女も能力者だよ!それも僕たち同様に殺傷性のある。能力者相手にするのは無茶だ!」
「やってみなきゃわからんだろが!」
「サード君みたいになってもいいの⁉」
残念だが俺は戦えないし、人の死体を再び見たことによって気分は萎えていた。
「なぁとりあえずサードを」
俺は口論する2人を差し置いて背中に剣が刺さったままのサードに近づいてみた。友達じゃないこのモブ男が生きていようが死んでいようが興味はない。ただ人が倒れているから確認するだけだ。
そう思って、美女の上に覆い被さったまま動かないサードに触れようとするや否や…
「その声は…シュウジと…ユウキ…それからテッペイか?」
そいつはモゾっと急に動いた。そして背中に刺さっていた剣を抜き、女から離れるように仰向けとなった。
「生きてたか」
「ああ、どうにかね…」
「だが背中に刺さっていたはずだぞ?」
「七瀬が俺を殺すことはない。瞬時の判断で浅く刺しただけだな…それに、テッペイは俺に死んで欲しかったか?」
「人が死ぬところに立ち会うのは懲り懲りだ」
「ハハッ…お互い様だよ」
目は閉じたままだが、軽口を叩けるなら問題はないだろう。
「サード君!」
「その声は…ユウキかな?」
「だだ大丈夫?」
「辛うじて」
シュウジはサード以外に生きている者がいないかを見て回っていたが…よく血みどろの死体に触れられるな。
「何があったの?」
ユウキはサードを抱き起こし、サードから事情を聞き始めた。ユウキもユウキで…こんな悪臭がする地獄の中で事情を聞こうなど…かなり神経が図太いな。
「披露宴を抜け出して…護衛をつけてもらいながら移動してたら、七瀬に襲われた。あいつは…もう俺らの知っているような七瀬じゃない。変わったんだ」
変わったんだ…か。
やはりマヒロだけじゃなかった。俺の中にある目的が何となく見えてきた。
「じゃあ他に生存者は?」
「魔導師ラテラクリフトって野郎が女子を1人匿っていて、今夜会う約束をっ…した」
七瀬も含めれば確認できたのは7人。あの浮島で30人も死んだということになるのか。
ユウキに支えられながらゆっくりと立ち上がったサードはようやく目を開けた。白髪で瞳が……灰色?…と、ずいぶんなイメチェンぶりだ。衣装も血や土で汚れていたが、どこぞの王子様のよう。王女と婚約したというのは事実らしい。その目的は…俺らを集めるためか。
「あれ?…やっぱり俺だけが外見変わったの?」
「うん、僕らに変化はないよ?」
「皆は能力者?」
「ってことはサード君もなんだ」
会話を聞く限り、生存者は全員が何かしらの能力を獲得したことになる。
「そんなことよりお前ら…こいつしか生きてないぞ?」
「イレンは生きてたか…良かった」
ユウキが同い年くらいの男を肩に乗っけてこちらに歩いてくると、サードは自分の覆い被さった美女をお姫様抱っこした。
「ここは危険かもしれない。繁栄の塔の中に避難しよう」
サードの提案に俺らは迷うことなく頷く。しかし不思議だ…
ここに死んだ兵士らは放置するのか?
サードもシュウジもユウキも…全部が死体だとわかれば、反応があっさりすぎる。人が死んでいるんだぞ?目の前で。俺らの周囲で!
俺がここに来た目的は生存者に会うため。そして、彼らの変化を見るためだ。全員がマヒロのようになっていないか確認したかった。
結果、俺の見た光景は何だろうか?
転がっている死体を何食わぬ顔で跨ぎ、何もせずにその場を立ち去っている。まるで七瀬と同じじゃないか。
全員…変わってしまったということか。そう思う俺もまた…
変わっているのだろうか?




