疲労に贈る真っ赤な花
「悪いテスラ…ちょっと席外す」
「え?どしたの?」
「2週間前は普通の学生だったんだ。こんなお祭り騒ぎの主役は疲れる」
「う~んと…ま、披露宴終了までには帰ってきて」
「了解了解」
「それとエレーナに護衛を任せておいたから」
「承知承知」
俺が席を立つと、目敏くマーセナスも反応してきたので、声をかけられる前に舞台から下りる。どうせエルフの件についてだろうしさ。
「サード様」
パフォーマンス集団が大勢待機する舞台裏に下りた俺のところに瞬時に現れたのはエレーナさんだった。もしかしないでも…エレーナさんは俺の行動をずっと監視していたのか?
「エレーナさんか…ちょっと綺麗な空気が吸いたいのだけれども…」
「では繁栄の塔の屋上に」
「ま、そうなるよね…」
パフォーマンス集団の人だかりを縫うように進み、繁栄の塔を半周した先にある入口へと向かうのだが、半周するだけでも500mは余裕である。オリンピック選手なら1分未満で走るのだろうが、疲れが溜まっている俺はそんなことできるわけもない。
「エレーナさんは楽しんでるの?」
「私ですか?…あまり」
「そっか…そうだよね」
真面目なエレーナさんはこれも仕事だと思っている。大騒ぎに加担しているボルトナーさんとは大違いだ。
これもそのせいなのか…話が止まる。別に落ち着ける雰囲気なら静かでもいいのだが、こちらとしては真後ろをついてくるエレーナさんに緊張しかない。
「あの…エレーナさんはいつから王宮騎士団に?」
「4年前からです」
「え…じゃあ入団とかに試験ってあるんですか?」
「私は………王女様に拾われただけです」
なんか妙な間があったな。俺は早速地雷を踏んだか…
「そっか…」
何かを話そうと思えば思うほど…変なモヤモヤが広がるだけだ。果たしてこの居心地の悪さをどうしたものかな。
「あ、サード!」
「うん?…お~イレン!」
中央広場を繁栄の塔に沿って右側に抜けると、イレンが角地の建物から姿を現した。それも彼の後ろにはバーシア守護兵団とかいう常備軍の兵士たちも完全武装でいた。
「サード、お前逃げたな!」
「疲れたんだよ。代わりにいくか?譲るぞ?」
「バカたれ。俺は主役が苦手なの。根本、王女様の隣は耐えられん」
「俺の前でそれを言うか?まったく…」
「へへへ」
同い年の男子というのはこうも安心する存在とはな。
「ところでイレンはどうして建物の中に?あ、上からの警備?すまないな」
「いやいや、上の警備は守護兵団の仕事だし、気にすることねぇさ」
「じゃあどうして…?」
「大きな声じゃ言えないが…この建物の屋上及び、広場を挟んで反対側の建物の屋上に合計で20の死体が確認されたんだ。うち8つは守護兵団のもの。残りはメイリス=カーチェスのものだ」
どこに驚いたらいいのかわからないので、とりあえず後ろにいたエレーナさんの反応を…
「イレン、それは本当ですか?」
「ああ、メイリス=カーチェスの紋章を全員が所持していた。たぶん屋上にいる守護兵団を一掃した後、王女様たちを狙おうとしたのかもな。毒矢が大量に準備されていた」
「守護兵団と争って共倒れでは?」
「いや、メイリス=カーチェスは不意打ちを狙う小汚くも賢い集団だ。守護兵団は全員が心臓を一突きされて死んでた」
「ではメイリス=カーチェスの死因は?」
「思い出したくもないんだが…目を針で潰し、顔面を何度も地面に叩きつけたり、首の切断をしたり…殺害手段が荒い。守護兵団にそんなイカレ野郎はいないようだし」
「そんな…あのメイリス=カーチェスが全滅?」
「ああ、それもリーダーであるカンエイもグチャグチャな死体となってる。副リーダーのザリョンもな…」
「カンエイが?…一体誰の」
「そこがわからないんだ。俺はここの守護兵団の定期連絡が来ないから様子を見に行ったら現場に出くわしたのさ」
……エレーナさんが真剣に質問しているのはいいけど、メイリス=カーチェスって何なのさ?俺らの命を狙ってたんだよな?毒矢で…殺し屋集団ってことか?
完全に蚊帳の外だ。でも知らぬ間に命を狙われていたなんて…少し怖いものだ。
「まぁ、あれだ。目的不明の殺人鬼が未だウロついてる。あの常闇のカンエイと謳われた殺し屋すらグチャグチャにされる相手だ。気をつけた方がいいぜ?サードもだけど…エレーナさんもな」
「カンエイとは戦ったことがありますが…あれ以上の相手となると私でも護衛は無理ですね」
「そうか…じゃあ俺と守護兵団が付き添おう」
俺をほったらかしにしたまま話が進み、気づけば護衛が14人になっていた。
「イレン…仕事はいいのか?」
「引き継ぎは完了済み~ってこと」
一応だが、この国にも殺人罪はある。つまり、現在バーシアに凶悪犯罪者がウロついてる。しかし俺やテスラを殺そうとしたメイリス=カーチェスとやらを殺したということは…敵じゃないのかな?むしろ味方かもしれないな。ひょっとしたら……カンエイとかいう強者を倒せるほどの力、俺みたいにドラゴンになれるとか?まさか能力者っていう可能性もあるのか。犯人がクラスメイトだったら…どう擁護すればいいんだ?人殺しだしな。
考え事をしていると時間はすぐに過ぎていく。500mなんてあっという間だ。14人と行動する必要はあったのだろうか?
「サード様」
「え?うわっ…!」
不意にエレーナが俺を押し退け、前に出た。それに続くかのようにイレンも2本の短剣を抜いて構える。
「何者だ?」
何事かと思えば、黒いマントに身を隠した何者かが…俺たちの進む道の中央に立って、俺たちを見ていた。体格は…小柄?だが明らかに不審者だ。まさかもう出くわしたのか?
「アハ?邪魔者見~つけた」
この声は…
「あの…ちょっと待っ…!」
「おい、道を開けろと言っているんだ!」
俺が制止しようとする前に、護衛に加わっていた守護兵団の大柄な男が不審者に近づき、肩を掴もうとした刹那だった。
「邪魔!触らないで!」
不審者の叫び声と共に何かが空に打ち上げられた。それは高く…ペットボトルロケットのように液体をまき散らしながら上昇し、降下する。
「サード様…!」
何かが地面に落ち、そこに真っ赤な花を咲かせる。その光景を俺はどこかで見た気がする。どこだったろうか?あの時は生首と目が合ったんだったな。
「ハハハ!迎えにきたよ?釜谷君?」
人が大勢死ぬ、あの悪夢が………ここに蘇った。
急展開、好きだねぇ~俺氏。




