魔導師の胸の内
「しっかり本人に伝えて来たけど…本当に名前を明かさずにいていいのかい?」
「すみません…ありがとうございます」
ユキノを拾ったのは気まぐれにすぎなかった。見たこともない服装に、返り血を浴びた顔、虚ろな目、スマホと呼ばれる光る石盤…僕の中であらゆる疑問が湧き、気づいた頃には物置部屋が占拠されてしまっていた。それから、謎の石盤の光りが消えたことで、ようやく彼女を外に連れ出すことに成功し、彼女の意思通り、王女様の披露宴を見物しにバーシアへ来たのだ。ユキノ自身がどうやらサードという青年の知り合いらしいし…僕的にも王女様と久しく会っていなかったことも来た理由になる。
「それにしても…ここは?」
「僕はそこそこの優待を受ける身分でね」
ユキノは窓の外に広がる景色に釘付けになっていた。
「ここは繁栄の塔と呼ばれるデイビス家の総本山だけど、来賓用の宿舎も担うんだ。ちなみに王女様一行もここに泊まるらしいよ」
実はこの繁栄の塔、僕が設計し、超特大魔法陣を4ヶ月に渡って作成して、土魔法と水魔法による造形術式で完成させた、すべてが魔法で成り立っている強固な建物なんだよ~…という自慢話を聞かせたかったものの、今の彼女は地上30階からの景色しか入ってこない様子である。自慢話は相手が聞き入ってくれるタイミングにやらないと効果がない。
「サード君たちもここに?」
「明日の夜に会う約束したよ。僕の予想だけど…彼らは38階にいると思う。あそこは特別な作りになっていて、出入り口に魔法結界が34重、それを突破すれば僕が開発した術式によってお花畑に見える幻術魔法陣が発動され、花の香りに似せた微細且つ強力な催眠粉末が散布される。その頃には対象者のいる部屋ごと地下16階に転移する寸法さ。ついでに言うと転移終了確認後、38階は結界が再度発動し、侵入者を閉じ込める。まぁ催眠粉末は僕が調合した防護不可能なものだから閉じ込める必要もないんだけれどね…って」
あ~…ユキノ、途中から聞いてないな。せっかく僕の凄さがわかってもらえると思ったのに…
ユキノは僕の自慢話をことごとく聞き流している。それは面倒臭いから、というわけではないようだった。僕が知っている限りでは…
彼女はサードに好意がある
…ように思える。つまりサードのことで頭が一杯らしく、彼に関する情報は受け付けるが、その他は上の空な対応しかできないみたいだ。その証拠として、彼女に彼の話題を出すと、本人は無意識だろうが…自信なさげに常時伏せている目がピクリと反応するのだ。
「やれやれ…」
未だ外の景色から目が離れそうにないユキノに気づかれないようにため息をついた。
まぁ、ユキノとサードが恋愛関係にあった可能性は皆無だろう。彼女の性格上、引っ込み思案な要素が強すぎる。さらにサードが別の女性との婚礼を容易に許すのも妙だ。まずその可能性はないと断言できる。だとしたら起こり得る可能性は…いや、仮定するには材料がないか。そもそもサードの心が今どこにあるかわからないのだからな。
ただし、サードと王女様の結婚はあくまでもカモフラージュだろう。本来の目的は王女様自身が王宮から解放される一点にあるはずだ。彼女は執拗に外に出たがっていた。理由はわからないが…サードとそこで取引をした。サードが何者かは不明であるが、何らかの利害関係が成立したのであろうな。
そして1番厄介なのはサードは緊張していたせいか、これまた不明だったが、王女様は…サードを心底気に入っている様子だった。多分、離縁はない。そうなると、ユキノの付け入る隙も与えないことになるだろう。
サードは1度も王女様の前を歩いていない。王女様は随分な余裕が見られた。それらの点でも、サードと王女様の力の差が見られる。サードは彼女の言いなりと考えても間違いではないはずだ。
「ユキノさん、君…苦労するね」
「はい?」
きっと結ばれることはない。ユキノはこの事実に立ち向かうことすらしないだろう。でも、もしこれがそうでなければ…
それって最高に面白くないかな?
人は僕を変人と呼んでいるが、気にしたことはない。そんな僕が最も好きなのは絡み絡みの人間関係だ。人間を観察する中で最も面白いと思う。同じ展開でも十人十色な結果が生まれるのだ。これほど興味を惹くものはない。
「いいや、ふと思っただけ」
「はぁ…」
ユキノのお節介をしたいわけではない。僕はあの天才肌な王女様の対応が気になるのだ。王女様を観察できる機会はなかなかない。
この点の材料は揃っている。今こそ、
「偽者のシラクサ王女の化けの皮を剥がす時だ」
僕は静かに静かにほくそ笑むのであった。
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