城主と弱者
この世界に来て11日目。俺は妙なことに巻き込まれてしまったらしい。というのも…俺には恋人がいてだな…
「ねぇテッペイ?この服、すごく良くない?」
「マヒロ…あのな」
「なぁに?」
「いや…何でもない」
そいつの名前はマヒロというのだが、何を思ったのか…城を陥落させてしまったのだ。元々クソみたいな城主だかなんだかが踏ん反り返っていた評判の悪い城だったらしいが…彼女は不思議な力をもってして、城の中にいた1000人ほどを殺した。その結果、城下町の民衆から英雄扱いを受け、マヒロが実質上の城主となった。俺はというと…金魚の糞だ。だから何も言えない。言う資格もない。
「マヒロ様…民衆より贈り物がございます」
「テッペイ」
「な…わかった」
この城は深い森の中にあり、国の政治に関与するほどの影響力はなく、王国統一時の民族が暮らしたものらしい。つまり誰が城主になろうと政治には関係のないことと…俺の目の前にいる執事の爺さんが言っていた。
「で、爺さ…ガズンさん、贈り物ってのは?」
「こちらでございます」
西洋風の城の中はまだ血生臭い。死体はすべて撤去したはずだが…やはり臭う。
俺は執事長ガズンさんの後ろをついて行き、超絶長い階段を降りていく。デザイン性を重視したのか…8階にあたる最上階まで1階からほぼ直通だった。その階段の周りには立派な石の1本柱が何本も城を支えていた。親父が建築家だったということもあり…この構造にはさすがに驚いてしまう。地震がきても問題ないのだろうか?
「それにしても…マヒロ様はずいぶんと明るく元気な方ですな」
「昔はああじゃなかったんですがね」
蜘蛛にたくさんのクラスメイトが殺される惨状を見たせいなのか、この世界に降り立ってからというもの…血も涙も枯れ果ててしまったように…狂ってしまった。人を大勢殺し、それでも尚…ケラケラと笑っている。元々、ちょっと常識外れなところはあった。けど今回は度がすぎている気がしてならない。
「ガズンさん、城の中にいるのは何人ですか?」
「私を含めて12人。現在、兵を募集しているところですが、まさかマヒロ様が1分で1000人の兵士を殺すとは思っても見なかったことです」
俺の推測だが、マヒロの不思議な力は…重力操作的なものではないだろうか。相手を何も使わず押しつぶしたり、ふわりと浮き上がらせたりなどして、この階段に集結した1000人の兵士を容易く殺めたのだ。過重力と無重力を扱っているとしか思えない。本人はただの能力として意識しているらしいが。
「志願兵って…金は?」
「地下金庫に貯まっていますとも。先代が無駄に民衆から金を吸い取りましたからね」
「なるほど…」
とりあえず城主になってしまったマヒロの補佐をするため、俺はガズンさんから色々教えてもらっていた。一体どこの戦略ゲームだよって思ってしまうよ。
「ガズン執事長!」
「どうした?」
「志願兵の数が2000人を超えています!城門に人が溢れています!」
「なぬ⁉…どういたしましょうかテッペイ様」
「兵士の相場を知らないからな…現在周辺に敵は?」
「ございません」
「ちなみに最寄りの城の兵士の数は?」
「500ですが…」
「では750人を採用しよう。それで問題はないでしょう?採用基準はガズンさんに任せる。けど不採用になった者にもマヒロのことをよろしくどうぞって言っといてくれ」
まったく…なんで俺が城運営を任されなくちゃいけないんだ。俺はまだ17だぞ?
「承知致しました。私は早速準備に取り掛かりますので…セバス、テッペイ様を贈り物のところまで案内して差し上げろ」
「ハッ!」
「よろしく頼みますガズンさん」
城下町の人口は9000人と聞いた。そのうちの2000人が志願兵?不思議な数字だな。働き盛り伸び盛りの男性陣がこんなにも来たら…自給自足が主体の生活が成り立つのか?
何もかもわからない世界に来てしまったというのは困ったもので、疑問が疑問のままになってしまう。果たしてマヒロはどういう思いで城主を引き受けたのか…
「贈り物はあそこでございます」
「一体何が?」
「ほとんどが畑から採れた野菜でございます」
「そうか。で、どれくらいだ?」
「荷車10台分です」
1階まで降り、外に出ると…ずらっと見たこともない野菜?が荷車に乗って並んでいた。これらは本当に食べれるのか?何種類か口に合うものは過去の食事で見つけたが、激甘な野菜も中にはあった。カブトムシの餌じゃないかって思うやつもあったな…毒味は俺の仕事になってしまったからしょうがないが。
「あ~…じゃあ食料庫に運んでおいてくれるか?」
「はい、かしこまりました。それと…」
ガズンさんに代わって案内してくれた執事セバスが俺に今日届いたばかりの新聞を渡してくれた。周辺の情報を集めるのに便利だと思い、取り寄せるように言っておいたのだ。毎日は発行されないようではあるが、聞くところによると情報筋は信用できるとのことだ。
早速もらった新聞の一面を埋める記事を読んでみる。
「王女が結婚?鬼才って呼ばれてんのか…」
相手はサード…………サード?
「なんであのモブ男が王女と結婚してんだ?」
「お知り合いですか?」
「知り合いどころじゃない」
俺は新聞を握ったまま踵を返し、階段を駆け上がっていく。しかしまぁ…どこの部活動が天井の高い建物の8階まで全力で駆け上がるトレーニングを組み込んでいるというのだ。本気で不便だ。8階が遠い。
「飛べ」
俺にも不思議な力があった。そいつは殺傷能力など皆無。ただ空を飛べるだけのものだった。
階段スレスレを前傾姿勢で滑るように飛ぶ。速度は軽いジェットコースター並で、正直、制御はあまりできない。
「マ~ヒ~ロ~!」
だから止まる方法は…最上階に待つマヒロの名を叫び、
「ほいほ~いっと」
マヒロの重力操作で強制停止だ。地面に叩きつけられてもいいように低空飛行を心がけているのだが…それでも過重力がのしかかると体に効く。
「マヒロ…サードが…釜谷がバーシアに向かっているそうだ。俺ら以外に生存者がいる。会いに行くべきだ」
マヒロは最上階から見える景色をたいそう気に入っていた。理由までは知らないが、今も窓に身を乗り出していた。まぁ浮島から飛び降りても死ななかったんだから、ここから落ちても問題はないのか?
「えぇ?サードって…なんであいつが?」
「マヒロ…!今はそんなこと言っている場合じゃないだろ?皆で元の世界に帰るためには情報共有が必然的だ」
そう言っても…どこか俺は気づいていた。
「私…別に帰らなくていいかな~って」
「マヒロ…?」
「だって私…」
気づいていたからこそ、マヒロが俺の方に振り向いた時の顔を見たくはなかった。
「お城の主だよ?こんな能力も手に入れて、誰も私に逆らえない。私を中心とした世界が手に入ったの!」
狂ったような笑顔を浮かべる恋人。いくらなんでも血の気が引けた。俺の中でじわっと恐怖がこみ上げてくる。
「じゃ…じゃあ俺だけバーシアってところに行ってくる。きっとそこに他の生存者も来るはずだ」
そんな恋人から背を向けた瞬間、俺は悟った。
「うん、ユッキーいたらここに呼んでね」
俺は………ひどく弱い人間だということを。
真っ当な女の子が書けない今日この頃…




