規則三条 入居者には優しく
TVの前で間抜けな顔をしている俺と真剣な顔の雪乃さん。
『雪女なんです』発言から相手にかける言葉がない、冗談かと思いたい気持ちと、さっきの事が説明でき納得する自分が居る。
俺が黙って要ると、雪乃さんが喋る。
「実は私は世間一般でいう雪女いえ妖怪なんです、人の社会を良く見るためと、他にも大きな理由があるのですが、このアパートに住む事になったんです」
「はぁ……」
相変わらず間抜けな声を出して居たと思う。
「先ほどのは近藤さんを助ける為に力を出したのですが、いざ片付けようとしたら魅入ってしまいまして、あのような結果に。この事が回りに広がると強制退去させられてしまうんです」
妖怪の世界も大変そうだ。
「どうが周りには噂を広げないでもらえますか?」
捨てられた子犬いや母犬のような顔で懇願してくる。
「いや……さっきも言ったように俺は喋る気もないし。いきなり妖怪だって言われても、ちょっと不思議な力を使える人にしか見えないよ」
「でも約束するし、秘密にするよ」
安請け合いだが、これで安心するなら安いもんだろう。
「本当ですか! 有難うございます」
ふかぶかとお礼をしてくる。
「そんな大げさな」
「いえ、雪女の秘密は大切なのです」
朝からドタバタ騒ぎで流石に疲れてきた。
「よし、雪乃さーん俺はもう先に寝るよ。見送りや引越しもあったしね。ここって門限ってあるの?」
「あ、いえ共同とは言えアパートなので各自の良識に任せて貰おうと思ってます」
「そっか、雪乃さんはまだ寝ないのー?」
「お風呂入ってから失礼させてもらおうかと」
「あーお風呂か、俺は明日でいいかな、それじゃ」
食堂に残る雪乃さんに手をふり自室に戻る。
布団を出して直ぐに横になる。
不思議な物で寝る態勢に入ると目が冴える。しかも先ほどのお風呂ってキーワードが俺の頭を駆け巡る
「寝れない……お風呂ってお風呂だよね、うんお風呂だ」
一人で意味不明な事を喋る。
あの着物の下には大きな胸と……。
色々な事が一日で起こったのと妄想で疲れてるけど興奮して寝れない。
「ダメだ潜れば寝れるはず」
そーいえば、と布団に潜ったまま思い出す。
雪女の結末ってどうなったけ。
たしか秘密を喋った奴は殺されてしまったような。
あれ、おれってヤバイ約束したかな。
まぁいいか喋るきもないし。
考え事をしていたらそのまま意識がなくなっていった。
「ハロー!」
元気な挨拶が聞こえる。
「誰かいないのー?」
寝てる俺にはきつい目覚ましの声だ。
「だーれーかーおんねんなー誰もおんねん?」
女性の声が聞こえる、女性!? はいはい今出ます。
「はいはいーどちら様ですかー」
寝起きのまま布団から這い出るとズボンを履き替え管理室へ駆け込む。
「はいはい、今行きますよー」
玄関への窓口のドアを開ける。
俺の目に映ったのは元気いっぱいの長身の金髪少女。
髪はロングでタンクトップをとハーフパンツ、サングラスが良く似合う。
「えーっとどちら様?」
「あんたこそだれや」
いきなりの返答にむっとなる。でも、言葉は日本語でちょっと安心する。
「俺はここの管理人近藤。君は?」
管理人の予定とは言わないで置こう。
「なんや、おっとこやないか。あの親父もやるなーウチ、はマルタ=クーニン……」
「マルタさん!?」
二階から雪乃さんが降りて来てた。驚いた顔でマルタを見ている。
俺は交互に雪乃さんと来客を見る。
「お。アヤメ~」
甘える声を出してる。
「アヤメが田舎から出たってきいてな、ウチも田舎はいやじゃーって思ってなぁ。山流のおっちゃんを締め上げて此処に住めるようにお願いしてきたんや」
「マルタさんの田舎って確か」
確認するように呟く。
「そや、ロシアや」
行動力が半端ない。まさに俺の頭の中はオソロシア。この単語が響いた。
「そやこれ、アヤメにわたしてくれーっておっちゃんが」
マルタから受け取った封筒を雪乃さんが確かめる。
「確かに、このアパートに住む事になった手配の書類です。でもこれ、管理人さん宛になってますけど」
「にっしし。アヤメの彼氏に軽く嫉妬したからその仕返しや」
『『彼氏って』』
俺と雪乃さんが同時に喋る。
「なんや、ちゃうのか?お互い何年も連れ添ってる空気だしてたからちゃうのか?」
「俺はまだ昨日きたばっかりだし!」
「そ……そうですよ!秋一さんとは昨日あったばっかりです」
「ほら、名前でよんどる。君シュウイチっていうん?」
言われて気付いた。雪乃さんの事は取りあえず置いといて、俺はまだ彼女に名前も言ってない。
「あ、ごめん。近藤 秋一、今日から管理人…………見習いとしてここに住む事に。住んでるのは昨日からなんだけどね」
「ほっかほっか、改めてマルタ=クーニンや、アヤメの古い友人やウチの事はマルタって呼び捨てでええで、シューイチ君」
「そっかマルタさ……」
「マルタ」
呼び捨てにしろと強めに訂正される。
「ん、マルタ……宜しく」
差し出された手を俺は軽く握手する。
「すみませーん。引越しの荷物持ってきたんですけど」
大きな扉を開けて引っ越し業者が挨拶をする。
「あ、すみません。こちらにお願いします」
引越しやに挨拶しながら雪乃さんをチラ見してると赤い顔で固まっていた。
これって脈はあるかな。いやーでも、俺なんかつりあわないだろうな。
「雪乃さーん、部屋って何処にしましょう?」
「アヤメーウチの部屋は何処ー」
俺とマルタが一緒に喋る。
「あ、はい。すみません」
こっちの世界に帰ったっぽい。
「そうですね、私が203号にいるので201号で宜しいかと思います」
「げ、そういえば俺各部屋の掃除してない」
「私が来た時に軽くは掃除したのでそこまでは汚くはないと思います」
管理人室から部屋の鍵を取り、マルタに渡す。
「変な顔をしてどうしました?」
「いやな、シューイチ君が管理人やろ?」
「はい、一応そうですか」
「マスターキーで夜這いし放題やな、とおもって」
「ばっ!しません!何言ってるんですか!」
「にっしし。冗談や冗談、でも寂しかったらおねーさんが癒してあげるでー」
「俺を追い出すような事言わないでくださいよ」
「管理人さんはそんな事しません」
横に居た雪乃さんが俺より強く肯定してくれる。
追い出される事はなさそうで良かった。
引越し業者から、どんどん運び込まれる荷物。
「荷物多いですね」
誰に言うわけでも喋る。
「そうですわね……」
雪乃さんもその荷物を見ながら呟く返事をする。
一人嬉しそうなのはマルタだけである。
「ん、二人ともどしたん?」
「いえ、ロシアからともなると荷物が凄いですね。と会話を」
「ああ……これか、これでもだいぶへらしたんやけどなー。全部酒や」
「は?」
俺は間の抜けた返事をする。
あ、もしかしてこれって。
「だからお酒や、こっちで買うと高いやろ?」
「ああ、お店でもやるんですね。なるほど」
得意な顔をして納得してみる。
「あん?なんて店なんか始めないといけんのや、飲むにきまっとるや」
「ソーデスカ」
「二人とも今夜は宴会するさかい覚悟しいな」
「日本では未成年は甘酒ぐらいしか飲めません」
「安心しいや、甘酒も用意してあるさかい」
「まじですか」
俺の答えにマルタは当然のような顔をしている。
もはや圧巻としかいえない荷物を見ながら新しい住人が笑っている。