校則十四条
「疲れた……」
俺は校庭で一言感想をもらす。
「でもありがとう。助かったよ」
周りにいるメンバーに声を帰る
「おかえりなさいーしゅうちゃん」
何時の間に背後にいたのか母親の声で俺の体はビクっとなる。
約束どおり説明しないといけない。
「あー、母さん実は……」
「あのね、しゅうちゃん。最初は疑問に思ったけど、アマゾンじゃ呪を扱う術士や今でもオノ一本で戦う人、未来を予知する人とか不思議な人が沢山いるの。でも、みんな中身は普通の人、怒ったり笑ったり楽しい人が沢山。だから、吹雪さんやアヤメさん、マルタさんに八葉ちゃんがちょっと違っても、お母さんも考えを変えて何も聞かない事にする。それに……」
「それに?」
俺は母親の言葉の続きを待つ。
「もう帰らないと飛行機でちゃうのよータクシーは一台も来れないって」
皆の顔を見た後に困った顔をしながらパタパタする。
「え! あと何時間?」
「あと、2時間半ちょっとしかないのよーしゅうちゃんどうしよう」
どうしようといわれても困る。
「京子さん、良ければわたしがお送りしますよー」
さっきまで話を聴いていた吹雪さんが名乗り出る。
「本当?」
「ええ。私も少し寄る所があるので、既に車を手配してます」
「本部に報告やな」
マルタがげんなりした顔をしている。
「なーに、大丈夫大丈夫。ちょっとマルタの給料が下がるぐらいよ、それじゃアヤメ、私は帰るから年下の奴になんかに秋一君を取られないようにね」
ちょっと給料が下がる、その言葉でテンションが下がってるマルタに帰ると聴いて驚くアヤメさん。
「やっぱ下がるかーまぁええわ、出来る事をしたんやし」
「もう帰るのですか、お母様。寂しいです」
アヤメさんは吹雪さんにしがみ付く。
案外寂しがりやなんだな、アヤメさんの以外な一面を見た。
「ほらほら、泣かないの。生きてる限り会えますからねーほら、八葉もおいで」
飛びつく八葉とアヤメさんの頭をやさしくなでている。
それを見て何を思ったがウチの母親も両手を広げてスタンバイしてる。
「おいで~しゅうちゃん」
「いかねーよ!」
「なんや、ノリの悪いやっちゃなーんじゃウチが」
何故か俺の母親の腕の中で頭をなでられるマルタ、なでられてるほうも、なでてている母さんも案外嬉しそうだ。
校門前に黒塗りのベンツが止まる。
運転席から飛び出して来たのは、俺の運命を変えた人。山流 天太郎さんだった。
「おやおや、皆さんお揃いで。お、近藤さんも数ヶ月で顔つきが変わりましたねー良い事です」
何が良いがさっぱり分からないか褒めてはくれてるのでありがたい。
「さて、吹雪さん電話もらいましたよー。本当色々と処理大変なんですけどね、まぁ迷惑かけてるわけじゃないのでこの件は大丈夫でしょう。此方のご婦人は?」
俺の母親の事らしい。
「愚息の母親で、近藤京子といいます。ご迷惑ばかりかけて」
「ああ、近藤さんのお母様でしたかいえいえ、此方こそよくしてもらってますよ」
「やまちゃんさー。ちょーっと本部に行く前に空港までよってくれる? 京子さんの飛行機でちゃうのよ」
「別にいいですが、あと何時間です?」
吹雪さんが腕時計を見る。
「二時間二十分ね」
「無理です」
「おねが~い」
吹雪さんは山流さんにくっ付いてほっぺにキスをする。
「キャ」
思わずアヤメさんが短い悲鳴を上げる。
「いいのよ、アヤメ。ソフトなキスまでは減るものでもないし外国でもよくあるでしょ」
吹雪さんがアヤメさんに説明をする。
見ると山流さんの顔が赤い。
「あと、ニ時間十八分、もっとキスしたほうがいい?」
吹雪さんがささやいてる。
「ごほんっ! 丁度飛ばしたいと思っていた所です。京子さんでしたねささ、時間もないし後ろへ、吹雪さんも乗ってください」
乗り込むさいに俺達に手を振る三人、ドアが完全に閉まると物凄い勢いで車が発進した。
「うわ、すっご……」
数秒も見送る前に俺の視界から車が消えてる。
その後は大変だった。
マスコミは来るし。警察も不良を引き取りにくるし、現場検証もしないといけないのでさらに警官が増えていく。
救急車は十台以上くるし野次馬もいるし。現場は大混乱。
疲れきった顔の加賀見坂先生を見つけると帰っていいと連絡を受けたので俺達四人は帰ることにした。
「なんや、散々な文化祭やったな」
帰り道にマルタが喋る。
「これじゃ、明日の文化祭は中止だな」
「残念です、あんなに準備したのに」
「おねーちゃん可愛そう」
それぞれの感想を言い合う。
「そういえばアヤメさん、ヒーリングって使えるの?」
刃物に刺された先生を癒していた事を思い出す。
「なんやー彼氏君は束縛タイプかー彼女の事を全部知りたいとか」
マルタが茶化してくる。
「ちがっ、なんでそうからかうかなー便利だなーって思っただけだよ」
俺はマルタに突っ込みを入れる。
「えっと、はい。最近勉強してるのです」
アヤメさんが教えてくれる。
「シュウ、ありがたく思えよ。おねーちゃんはシュウが怪我しても良いように覚えてるんだ」
俺はびっくりする。
「え? 俺のため?」
「こら、八葉」
「おねーちゃん、このば……シュウはこれぐらい言わないとありがたみがわかってない」
「え。あ……ありがとう、アヤメさん」
アヤメさんは照れているのか無言で下を向いている。
「に、しても。マルタの言う通り、散々な文化祭だったけど最高の文化祭でもあったと思うよ。怪我人は出たけど重体や死んだ人が一人も居ないって言ってるし」
「そうですね」
顔を上げたアヤメさんが笑っている。
「せや、残念会って事で今日は豪勢にしよや。ウチが好きな食べ物なんでもこうてやる」
「給料減るのに?」
思わず突っ込みを入れる。
「言わんといてな、せやから、今のうちにやるねんな」
「それじゃ、私もマルタさんにご馳走になりますね」
「せやせや、アヤメも好きなもん食べ」
八葉を見ると既に指を折りながら何を食べるか呟いている。
それじゃ俺は何をねだるかなー、そう思いながらスーパーへ向かうのであった。
夜になり、宴会中に水無月から電話がかかる。
学校が一週間休校になったのとついでに久留米達の入院先を聞いておいた。
事件から二日後、俺とアヤメさんは、久留米の入院している病院に見舞いにいった。
「うーっす」
「ようー」
二人部屋の手前に久留米が居た。
「あんた達男って挨拶短いわよね、所で綾ちゃんは? 近藤とセットなんでしょ」
奥のベッドには五月雨の顔が見える。
「スーパーで果物買って来るって」
「こんにちわー」
アヤメさんが病室に入ってくる
「綾ちゃんやっほー」
五月雨が元気よく挨拶する。
四人で学校の事や中止になった文化祭の話などをする。
「所で今更なんだが、二人とも体調わるいのか?」
「近藤~こんだけ騒いた後で聞くのもおかしくないか? まぁ答えてやろう軽症すぎて医者も驚いてるぐらいだ、あれだけ煙を吸っていたならもっと重体だったはずと」
俺は素直に喜ぶ、アヤメさんのヒーリング治療が効いたおかげだろう。
「そっか、良かった」
「そうだよー医者も警察も驚きさ、本当はもう良いみたいなんだけど念のためって奴って聞いたよ」
久留米が五月雨のほうを振り向いて何か合図をしている。
五月雨も頷き、久留米は顔つきが真面目になり俺達に話す。
「近藤。実は恥ずかしい話なんだけど、俺はあの火災の時一度外に出た」
「ああ、そうらしいな。外で見たって奴がいたよ」
「最後まで黙って聞いてくれ、んでだ。ジャーナリスト魂って奴なのか部室にあった小型カメラをもって調理室へ駆け込んだ。あの時はまだ窓から煙が見えてるだけでな」
久留米が一度しゃべるのを止める。引継ぐように五月雨が話す。
「この久留米は忙しい時にきてね、馬鹿だろ。、まっ取り合えず下級生から逃がそうって話にまとまったんだけど一年生を逃がした後に廊下が窓から入った火の粉で荷物などに引火してさ、火の海になった。私達は水道を全開にして部屋の隅にかたまった。でも煙と熱が凄くてね、直ぐに意識はなくなったよ」
今度は久留米が喋るらしい。
「んでさ、俺はもう焼け死ぬとおもったから最後にビデオレターを取ることにしたんだ。最後は俺達はこんなになってましたよって、機械なら俺達が死んでも映像が残る場合あるからな」
久留米は黙って引き出しからカメラを取り出し俺に差し出す、確かあの時久留米の手の中にあったカメラだ。
「ん? これがどうした」
二人は何も言わない、俺とアヤメさんは渡されたカメラを覗き込む。
「再生ボタン」
久留米か五月雨が分からないか短く言葉を放つ。
言われたとおりに再生ボタンを押すと、液晶画面には動画ファイルが再生される。
真っ黒な煙が充満してる部屋が映っている、突如轟音と共に視界が晴れていく場所がある。
そこから見えるのは俺やアヤメさんマルタなどしっかり顔も映っている。
思わず停止ボタンを押して久留米を見つめる。
久留米も俺達を見つめてる。
「しかしだ! 俺の悔やんだね報道魂で持っていったカメラがあの火災で燃え尽きてしまった。俺と五月雨は心底がっがりした。」
久留米がわざとらしい大声を棒読みで放つ。
言葉を引継ぎ五月雨が静かに話す。
「他の女子にもカメラが壊れた事は話しておいたよ、だから他の子は本当になにもしらない」
「五月雨さん……」
「ほら、綾ちゃん泣きそうにならないの。あたしまで泣きそうになるじゃない」
「と、言うわけだ。もしも。あの時俺達を助けてくれる奴が居たとするなら、正直にありがとうと伝えたいな」
「久留米……」
「俺達二人が事件について語れるのはこんな話だな」
俺の胸にも熱い物がこみ上げ来る。
「五月雨さん、久留米さんありがとうございます」
横ではアヤメさんがお礼を言っている。
「やだなー綾ちゃんがお礼言うのは何かちがうよー。あ、そうだ数週間前から思っていたんだけどさ、綾ちゃん。あたしの事、さつきって呼んでよ。琴音ちゃんみていいなーって思っていたんだ」
少し涙目のアヤメさんが喋る。
「はい、わかりました。さ、さつきさん」
女性の美しい友情を隣で垣間見る。
「秋ちゃん、俺の事を翔って呼んでいいぜ、俺達も名前で呼び合うべきと思うんだ」
俺の顔を見ながら久留米が喋る、その背後からうっすらと薔薇の幻影が見えた気がするのは気のせいと思いたい。
「誰が呼ぶか! 久留米でいいだろ」
「そだな、近藤」
俺達を見て女性二人が笑う、その声で俺達もわらった。
第三部完




