校則十三条
「直ぐに、行きましょうっ」
俺の考えを読むように言葉に出してくれるアヤメさん。
俺も小さく頷き返す。
「ごめん、母さん俺達ちょっと行ってくるから」
「待ちなさい、しゅうくん。それは八葉ちゃんの桁外れの力と関係あるのかしら? 何か隠してる空気はお母さん分かっちゃった。吹雪さんから聴くよりも、しゅうちゃんから聴きたいな」
直ぐには抜け出せない雰囲気だ、でも。時間はどんどん減っていく。
「これだから、人間は困る……が、私は秋一君がどんな答えを出そうが大丈夫よ」
吹雪さんが呟く。
「ま、ウチも八葉も同じ意見や」
「僕はまだ何もいってながっ……」
マルタに口を押さえられる八葉。
「私もです」
俺に全部託してくれる皆。
「えっと、うまくはいえないけど。そう。全部終わったら説明するから、取り合えずあっちで待っていて」
「吹雪さん、母さんを頼みます」
「はーい、それじゃ詳しくはいえない力がある怪しい吹雪ママは娘と息子をまちまーす」
「そうね、しゅうちゃんとアヤメさんを信じる、もちろん、吹雪さんも。怪しい力以外はしんじまーす」
間の抜けた声を出す母親達、お互いを見て少し笑っている。
おっと、それ所じゃなかった。残った四人で作戦を練る。
「えっと、マルタと八葉も手伝って貰えるかな」
「ええで、大体はわかる。校舎にはいりたいんやろ?」
俺は短く頷く。
「本当はあの小屋を凍らせればいいんだけど……」
「すみません、私の力なら雪などで消す事はできますが近くに行かないと無理ですね」
ちらりと体育倉庫をみると注目の的になっている。
「だよね、なので校舎内から助けたい」
「あっちの校舎裏には誰も居ないみたいやし、ウチが全員を背負って屋上までつれってやるさかい」
「出来るのか?」
「まかせんしゃい」
胸を張るマルタ、だから不安なのに。
「えっと、多分調理室までの道には人が多いと思うんだ。なるべく人にはばれたくないし」
「それじゃ、僕の出番だな。調理場の上の教室から床を壊す」
「気配はウチが探るっちゃさかい」
「出来るのか」
「それじゃ私は氷で火を食い止めます」
これで何とか助けにはいけるはずだ、確信しているとアヤメさんと目が合い見詰め合う。
「おーい、そこ。時間ないやとちゃうんか」
「おねーちゃん……」
つい二人の空間に入ってしまった。
「最後の問題は道中外から丸見えと思うんだ……ま、最初の教室でカーテンでも借りるか。時間はかかるがしょうがない。それじゃ、俺が道案内って事で皆頼む」
赤い顔で力説する。
俺達四人は人目の付かない校舎影でマルタにしがみ付く。
「しっかり捕まってやー、じゃないと落ちるねん。あ、こっちのほうが早いわ、アヤメだけ背中に捕まってや」
言われた通りにアヤメさんはマルタの腰にしがみ付く。
「んで、よっしょっと」
「あわわわ」
思わず悲鳴を上げる。
「静かにしないとダメなんやろ」
口を両手て閉じる、マルタの今の格好はアヤメさんがしがみ付いて、俺と八葉は両手の脇に抱えてる。
「それじゃいくでっ!」
言葉と共に地面が遠ざかる、マルタは器用に壁を蹴って屋上へと走る。バンジージャンプで地面近くから上空に戻されるのもこんな感じなんだろ。
「ついたでー」
ものの数秒なのに凄い時間がかかった気がする。
「わ……あ、ありがとう。次だ」
軽いめまいがする。
「遅かったわね」
俺の前に吹雪さんが立っていた。
「え、吹雪さん!」
「私としては火災に巻き込まれてるのは知らない人だし、どうでもよかったんだけどね。京子さんに頼まれちゃったのよ『多分、吹雪さんの力がいると思いますから私の代わりに助けてあげてください』ってね」
俺は母さんの気持ちをかみ締める。
「すみません、それじゃ俺達の行く道のガラスを全部雪で埋めてくれますか? これなら外から俺達ってばれないし、時間短縮にもなる」
「おっけー」
屋上のドアを力技で開ける。
俺達は三階に降り、直ぐに人が来ないように吹雪さんに雪の壁を作ってもらった。
外では学校内に雪が出るという怪異現象が起こったので悲鳴や叫び声が聞こえている。
その声と共によーやく、外にはサイレンの音が聞こえてきた。
俺達は調理室の上にある使われない教室へと飛び込んだ。
「マルタ気配は!?」
「もう探してる、まっちや」
「あっちの壁に生きてるのが六人固まってる気配がある。いくらウチでも死んでる奴までは確認できへん」
残酷な報告だが、向き合わないといけない。
「わかった、八葉。こっちの隅に穴を開けてくれ」
「んーんじゃ行くよーフルパワー」
「私とアヤメがサポートするわね」
吹雪さんとアヤメさんが凍りのツララで二重の円をえがいてくれる。
なるほど崩す範囲を狭くするためか。
先ほどまで八葉が居た床の一部が真下に落ちる。八葉はパンチをお見舞いした後に直ぐに離れたので大事は無い。
穴の先から黒煙が吹き上げてくる。
俺は立ちはマルタに抱えてもらって二階の調理室へと降りる。
煙が上にあがったので視界は悪くない。
教室の隅で女子生徒五人と何故か久留米が倒れてる、カメラを持っている所と見ると取材か……。
俺達は無言で女子生徒達の顔をみる。案の定五月雨も居た。
良かった、脈はある。
周りをみると他には生徒は居ない見たいだ。
アヤメさんとアイコンタクトを交わす。
吹雪さんは一つの窓を残して壁中を雪と氷で固める。
そして、アヤメさんが軽いヒーリングを全員にかけてまわる。
これなら消防隊が来るまでは全員無事との事、かなり力を使ったのか少し青い顔をしている。
俺達は倒れてる全員を壁際に並べて、入ってきた穴から3階に戻ったのであった。




