校則十ニ条
「そこの人達、その場所から離れてくださいー」
そう必死で叫ぶのは不良達の後ろから追いかけてる鳥島先生。
足元がおぼつかない。
俺はこっちに向かってくる不良を数えることが出来た。
今朝二階から見た奴らに間違いない、人数も四人いる。
俺は心の中で不良A、B、C、Dと名づける事にした。
どうやら、不良達は俺達の後ろにある裏門から逃げる算段らしい、行く手を阻むのが女子供の集団なので酷く顔が歪んでいるのがわかる。
「おら。そこのバアア共どけえええ」
俺の後ろの空気が変わる。
「アヤメどきな!」
俺の横に居たアヤメさんを守るように吹雪さんが出てくる。
「誰かババアだこらあっ!」
先頭を走ってきた不良Aを最初に捕まえるとドスの聞いた掛け声と共に綺麗に背負い投げをかました。
さらに投げ飛ばしたままの不良Aの股間を蹴り上げる。
「うわっ……」
同じ男としてあの痛みは少し同情する。
吹雪さんの目線を受け、次に走ってきた不良Bが一歩下がる。
「まて! ちがう、お前に言ったんじゃない。寄ってくるな!!」
後ろでは鳥島先生の姿が少しだけ大きくなってきた。
「あらーそれじゃ私に言ったのかしら~」
二番手の不良Bの肩を掴む俺の母親、その笑顔が怖い。
「えい!」
突然掴まれていた肩を抑えて地面にのたうち回る。
「何したの……?」
俺はおそるおそる聞いてみる。
「悪い子には片方の肩外してあげたの~、でも、片方じゃバランス悪いわよね」
悪魔の行進に見えたのか不良Bが泣きながら謝る。
「まて、悪かった。あんた達は綺麗だから、まてって、ねぇ。俺が何したってんだよ。来るな来るなあああああ」
俺の目の前では両肩Bを外された男が泣いている。
横を見ると三番目の不良Cだろう、マルタによって背後から腕で首を絞められている。確かプロレスのチョークスリーパーって技だっけかな、すでに失神してるみたいだが、背中にあたった胸の力で顔は嬉しそうだ。
三人も倒されて最後の一人となった不良Dはポケットからナイフを出した、そのナイフは既に赤い血が付いている。
「てめえら、なにもんだよ!」
「主婦だ」
「主婦です」
二人の声がはもる。
「クソがあっ!」
ナイフをもったまま、吹雪さんの所に走る。
吹雪さんもカモンと指を出したまま挑発するが、不良Dの顔付が突然変わる。
「うおっ」
八葉の驚く声が聞こえる。
不良Dは母親の横にいた八葉の腕を引っ張り抱き寄せる。
「おらっお前らどけえ、この餓鬼がどうなっても良いのかっ」
「お前も馬鹿だな。どうせ人質を取るならシュウにすればよかったのに」
不良Dの腕を取り、そのまま力任せにフェンスに投げつける。
そのまま不良Dは気絶した。
八葉はしてやったりの顔をしてるが、場が少し変な空気になる。
「ねぇ、しゅうちゃん。八葉ちゃんって力凄いのね」
そう、これである。俺の母親は何も知らない一般人。説明に困る。
「京子さん、八葉には暴漢対策として特殊な合気道を習わせているのよ」
吹雪さんが説明してくれる。
「今のは、相手の力を使った背負い投げの一種よ」
納得しない顔をしている、変な時に鋭いから困る。
「ねぇしゅうちゃん、本当?」
なぜ俺に聞く。
「そ、それよりアヤメさんは?」
探すと鳥島先生の所でしゃがんでる。
遠目で見ると、どうやら傷の手当てをしてるらしい。
俺達の騒ぎを駆けつけて他の先生たちも走ってくる。
「母さん! 取り合えず鳥島先生の傷を見ないと」
俺は急いで走る。
「アヤメさん、先生の傷はっ!?」
見るとアヤメさんは先生の太ももをハンカチで強く縛ってる。
「少し傷が深いです、取り合えず縛りましたが早めに病院にいかないと危ないと思います、少しですがヒーリング治療が出来ますのでかけました」
俺にだけ聞こえるように教えてくれる。
「雪乃に近藤、すまん。怪我はないか?」
中年になる鳥島先生が青い顔をしている。
「自分の怪我を先に心配しなよ、不良はあの通り全員伸びてるよ」
俺の後ろでは走ってきたのか着物姿の加賀見坂先生が不良どもを縛り上げてる。
俺とアヤメさんは先生に肩を貸し、走ってくる保険医まで連れて行こうする。
「いやーすまん。体育倉庫でタバコや酒を飲んでる奴がいるって通報受けてな、扉を開けたら刺された」
俺達二人に事情を説明してくれる。
「スマンがすぐに加賀見坂先生を呼んでくれ」
俺達が呼ぶ前に加賀見坂先生が来てくれた。
「鳥島先生大丈夫ですか?」
「ご覧の通りです、生徒に肩まで借りて情けない事です。それより、すぐに体育倉庫を見てきてくれませんか? タバコを吸っていた奴らなので火の不始末が怖いです」
加賀見坂がふと俺達の後ろを見るが分かった。
なにやら回りが騒がしい。
「鳥島先生、火の不始末は確認する事はないです。既に大炎上してますから」
俺達はその言葉で振り向く、背中では黒煙と赤黒い火が燃え上がってるのが分かる。
鳥島先生が今にも死にそうな顔をしている。
「鳥島先生、大丈夫です。先生の責任ではありません、今は傷を癒す事を考えるべきです、保険委員! 鳥島先生を頼む! 雪乃、近藤は避難しろっ、いや! くそっ! 避難だ。私は校内を見回ってくる。分かったな避難だぞ」
バケツリレーするにはもう遅いほど、火の勢いが凄い。
そのまま隣接している壁から二階の窓に火が入るのが見える。
『全校生と来場者の皆様、現在火災が発生しております。速やかに校庭に避難してください、連絡の取れない方が居る場合は直ぐに最寄の教師にご連絡ください。繰り返します、現在……』
校内放送が煩いほど聞こえる。
既に校庭には数多くの生徒が避難してきてる。
「おい! 近藤。よかったぶ……」
俺の事を呼ぶ水無月をふっ飛ばしながら走ってくる鳴神。
「せんぱーーい。良かった無事だったんですね。姿見えないから心配したんです!」
「あら、この可愛い方はどなた?」
俺の近くに母親たちが寄って来る。
「あーー先輩のお母さんですよね。私、一年の鳴神琴音と言います。先輩の彼女? です」
疑問系の挨拶だ。
「しゅうちゃんって……二股してるの?」
「してない! 俺の事を好きでいてくれてるけど断ってるの」
「秋一君はもてるねー」
「あ、先輩、五月雨先輩と久留米先輩見ませんでしたか? まだ校庭で見かけなくて」
心配そうな顔を俺に向けてくる。
「たっく、人を吹っ飛ばすな」
「あ、水無月先輩」
「あ。じゃねーよ。所で久留米ならさっきカメラ持ってるのを見かけたが、五月雨は俺もまだ見てないな、近藤たちは?」
「俺達も見てないな、八葉は?」
「残念ながら僕も見てない」
最後に合った時の言葉を思い出す。
「もしかしたら、まだ調理室にいるかも……」
俺は喋りながらも、目線は黒煙に隠れている校舎にいく。
調理室から外に逃げるには窓からベランタか廊下しかない、窓やベランタは連日の文化祭の準備で荷物置き場となっており、あの黒煙の中開けることは無理だろう。
廊下は既に窓から入った炎で分断されている、消防のサイレンはまだ聞こえない。
もしかしたらもう、避難してるかもしれない。
そんな事を思っていると校舎出口から泣き声が聞こえる。
「まだ、先輩達が調理室にいるんです! 私たちを先に逃がしてくれてそれから、それから!」
泣き叫ぶ一年を先生方が落ち着かせる。
「水無月。俺達はあっち探すから、鳴神と向こうを探してくれないか?」
「ああ、わかった。んじゃ行くぞ、一年」
「もう、名前で呼んでください。琴音です。琴音。わかります?」
さて、問題はどうやって説得するか考えた時に。
アヤメさんが俺の手を握り締め小さく頷いてくれた。




