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規則二条 食堂は綺麗にしましょう

 俺は雪乃さんと無言で見詰め合う。

「へ……へっくしょい!」

 寒さのせいでくしゃみが出てきた。

「まぁたいへん」

「管理人さん、早く着替えを!」

「ああ、どうしましょうお風呂の用意してないわ」

 よくわからない状況であるが、とにかく着替えたほうが良さそうだ。

「風呂は後にしますよ。取りあえず着替えてきまっ……くっしょい!」

 積もった雪から必死で這い出る。

「さ、早く」

 食堂を追い出されるように俺の自室へ押し込まれる。

「なんなんだ……」

 雪お掛けで降り注ぐ熱した油は全て中和されたのか裸になって体をみると火傷は負ってない。

「よかったー……火傷なさそうだ」

「でも何なんだいったい。」

 疑問は残るが食堂の掃除もしないといけない。

 着替えも終ったし、食堂へ戻る。

「雪乃さーん。俺の着替え終わったよー」

 のれんを潜り報告する。

 返事はない。

「雪乃さーん?」

 雪乃さんは雪の中で笑っていた。

 駄洒落じゃないんだ。

 笑い方も今日俺に見せてくれた微笑じゃなくて、妖艶な笑いだ。

 しかもさっきより雪が増えてる気がする、いや確実に増えてる。

 何処から雪が出てるんだ……

 雪乃さんの顔を見てると思わず背筋がゾクゾクする。

「雪乃さん? おーい、雪乃さーん」

 俺が声をかけてるのに動かない。

 手を握って意識を戻そうとすると、手の平から雪が出てる。

「マジかよ」

 折角着替えてきたのにズボンに雪が付いていく。

「えーい。ままよ!」

 謎な気合をいれて両手で肩を揺さぶる。

「雪乃さん! 戻ってきて!」

 俺が抑えた肩がビクっとなる。

「あ……管理人さん?」

 目の焦点が俺を見てくる。

「えーっと、とりあえずどうしようか?」

 

 俺と雪乃さんは無言で掃除をする。

 意識がしっかりした雪乃さんは困っていたが、とりあえず掃除してから話をしようと提案して今に至る。

 俺は直ぐ外にある浴室へいきお湯を入れてくる。

 雪乃さんは二階からバケツをもってきて雪を詰めては庭に捨てる作業。

 ちらっとみると凄い悲しそうな顔をしてる。

 濡れた場所を雑巾でふき取り、天ぷらもレンジで温めなおす。捨てるのはもったいないからね。

 御飯の支度をして10人は余裕で座れるテーブルに俺と向かいあって料理を並べる。

「よし、完成だ! 雪乃さーん御飯できたよー」

「有難うございます」

 

 お礼は言ってくるもののすごい暗い、弱ったなー……女性がこんな時どうすればいいんだ。

 ふと数年前の晩飯前に父親と会話を思い出す。

 『いいか、秋一。女性ってのはな秘密が多いんだ、年齢や体重、過去もそうだ。さらに父親の俺が知らない間に母親がブランド品のカタログを見てるのも秘密だぞ! 』

 『それは貴方とペアの時計がほしいから見てたのよ。』

 オカズを両手に持ってこっちの会話に混ざる母親。


 そうか!そうだよね。父ちゃん。

「それじゃ頂きますー!」

 大き目の声を出してみるも反応が薄い。思い切って喋る。

「雪乃さーん、暗い顔しないで御飯食べよう。いやー世の中には不思議な事って沢山あるからさ。俺の学校のクラスにも『スプーン曲げでるぞ!』とか『実は俺は暗黒の黒竜を右腕に飼ってるんだ』ってのも居るからさ。手から雪がでるぐらい平気だって。他の人に知られたくないなら俺も黙ってるしさ、元気だそ?」

 ひっそりと食べてる雪乃さんを励ます。

「それに、この天ぷらも美味しいよ」

 女性の秘密には深入りしない。無難な策とおもうが今回はコレに頼る。

 雪乃さんは驚いた顔をしてこっちを見ている。

 笑顔だけと思っていたけど色んな表情あるんだなー、女性は可愛い。

「なにも聞かないんですか?」

 こっちを見ながら聞いてくる。

「んーよくわからないけど、俺も助かったし。きにしないきにしない」

「そーです……か……」

 納得したのかやっと御飯を食べる雪乃さん。

 ちらみしたらマナーが悪いと思うが、同じ年齢の可愛い女性が御飯を食べてる。

 それだけで俺も御飯が食べれそう。

「あの……」

「ぱい?」

 口に御飯が詰ってるせいで返事がおかしい。

「先ほどから御飯しかお口にいれてませんかけど」

 しまった!雪乃さんを見ながら食べてたらオカズ食べるの忘れてた。

「白飯が好物なんだ!」

「まぁ、そうなんですか?」

 よし少し笑っている。


「あ、そだテレビでもつけてくるね」

 誤魔化すために、食堂にある大型TVをつけにいく。

 こっちは液晶なんだな。 

「あのですね。近藤さん」

 背中から声が掛かる、しかも今回は管理人さんではなく近藤さんだ。

「あー同じ年齢って聞いてるし、呼び捨てでもいいよーなんなら秋一って呼び捨てでもいいし」

 そして、俺はアヤメと読んでいいですか? を心の中だけにしまって置く、大体一六歳の男女を同じ屋根の下で暮らすってのが間違っている。

 雪乃さんの親は何をしてるんだ、あの不動産のおっさん事、山流さんもそうだし。

 俺の父親に居たっては、母親に見えないように親指を立てて応援してくる始末だ。

 リモコンをいじりならが考え込む。

「では……秋一さん、昔話って信じますか?」

「昔話っておとぎ話? 桃太郎や浦島太郎かな、信じる信じないの意味がちょっとわかんないけど、話は好きだよ。小さい頃良く読んでもらったよ」

 TVでは野球中継が映っている。

「そうです、その昔話です。その人達はもう居ないんですけど」

 まるで実際に居た人みたいな喋り方をしている。

「実は」

 TVでは相変わらず野球中継が映っている。丁度スリーボール、ワンストライク、ツーアウトバッターは四番、逆転のチャンスだ。

「実は~?」

 野球中継が気になって返事がおざなりになる。

「私、雪女なんです!」

「へぇー……便利だねーえ……?」

『四番打ちました!逆転です!軽やかに回っています!』

 TVではアナウンサーが叫んでいる。

「え? なんて今?」

 振り返って雪乃さんをみてみる。

 真剣な顔して今にも泣きそうだ。

 こうして俺は初日から雪乃さんの秘密を知る事になった。

 

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