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裏規則十二条

 俺達は今、綺麗に舗装ほそうされた道をのんびりと歩いている。

 午前中に泳ぎ、少し休んだ後に洞窟と露天風呂に入るためである。

「あったあった、ここを右や」

 先頭をあるくマルタの指示で道を曲がると大きな口をあけた洞窟が見える。

「大きな入り口ですね」

 アヤメさんが素直な感想を述べる

「そやろ、んじゃシューイチ君、光だして」

 しょってきた鞄から業務用の懐中電灯を取り出し、マルタに渡す。

「よっしゃいこか、この洞窟を抜けたら露天風呂や。この洞窟にも電気を流す案があったらしいけど自然を残したらしいやで」

「なるほど、そのほうが景色も外観もいいですよね」

 俺とマルタは洞窟をしみじみ見る。

 洞窟に一歩入ると、気温が数度一気に下がった感じがする。

 先ほどまでの夏の風と違って心地よい風が体を通る。

 三度ほど曲がった辺りで、目の前に光の口が見え始めた。

「もう電気はいらなさそうやな、出口みえたでー」

 洞窟を抜けると日差しがまぶしい。思わず目をつぶりゆっくりとまぶたを開く。

「うわーすげえ」

「マルタおねーちゃんすごい」

「やろやろ」

 大人50人は軽く入れるじゃないかとと思う巨大な露天風呂に着替えの為なのか小屋が一つ。

 それだけでも凄いのに其処から見える景色だ。

 崖の上にあるらしく先ほどまでの森林地帯じゃなく露天風呂から見える景色は海が一望できる。

「結構旨くつくってあってな、ある程度お湯がたまると地下に流れる仕組みになってんねん」

「それじゃ、小屋は一つだから、シューイチ君先に着替えて入っといてー終ったらウチらも着替えにいくさかい」

「俺が先でいいんですか?」

「ええ、秋一さんお先にどうぞ」

 アヤメさんにも勧められる。

「それじゃ失礼して」

 着替えといっても荷物を置き、海パンをもって小屋にいくだけである。

 男の着替えは早いのだ。

 俺が小屋からでると、次に他の三人が小屋に入っていった。

 小屋から出るときに持ってきた風呂桶でお湯の温度を確かめる。

 ちょっと熱い気もするが丁度よさそうだ。

「それじゃ失礼してっと……」

 体にお湯を掛けてゆっくりと湯舟に漬かる。

「おまたせーシュウ。温度はどうだ? 熱くないか?」

 水着姿の三人が小屋から出てくる。

「あー、熱かったらあっちに水道管あるさかい薄めてなー」

 指を指されたほうをみると、確かにむきだしの水道管が二本見える。一本は湯舟に一本は体を洗う時の為だろう外側を向いている。

「平気でーす。俺には丁度いいぐらいです」

「それじゃ私達も失礼しますね」

 アヤメさんが体にお湯をかける、その姿がなまめかしい。

 いきなりお湯を頭から掛けられる。

「うあっちいい」

「アヤメおねーちゃんを変な目で見てただろう」

 いつの間にか入ったのか八葉が風呂桶でお湯を掛けてきた。

「いやいやいや。八葉さん人に急にお湯をかけるもんじゃないよ」

 俺は八葉から風呂桶をもぎ取り、自然な動きで警戒させないようにコッソリとお湯を溜める。

「別に変な目じゃなくて……あ、八葉あっち。海の方に何かみえるぞ」

「え? どこだ?」

 八葉が海のほうを向いた瞬間に風呂桶に溜めたお湯を頭からかける。

「うわあああああ」

「はっはっは、掛けられる気持ちがわかったか」

 俺はすぐさま八葉から温泉の中で泳いで逃げる。

「このー! まて!」

「二人ともお風呂の中では遊ばない」

 アヤメさんの激が飛んだので俺達の追いかけっこは終わりを告げた。

 

 死んではいないが、心底生き返るという気持ちが体を抜ける。

 マルタはログハウスからもってきた日本酒を飲みながらお湯に浸かっている。

 アヤメさんはその近くで八葉と談笑している。

 俺はマルタの傍まで軽く泳ぐ。

「どうしたんー? 飲むかい?」

「遠慮します。一応未成年ですし」

「飲んだ事はあるんやろ?」

「まぁ、それなりには……所でちょっと聞きたいんですけど昨日言ってた妖怪専用の機関って俺でも入れるのかな? ほらこんな体でごついわけでもないし運動能力も高いわけじゃないし」

「ふーん。そやなー身体能力は術や訓練で上げれるし、あっちでお喋りしてるアヤメの父ちゃんみたく熊みたくならんでも平気や、あれは、あのおっさんの趣味みたいなもんだしな」

「重要なのは相手を思う気持ちや、ウチらは人と違う、良い奴も悪い奴もおる」

「その辺は何処も一緒だろうし」

 俺はマルタに返答する。

「そや、例えばや。ウチが人間を嫌いとする。そこに妖怪が嫌いな人間が居たらどうなる?」

「そーですねー。喧嘩になるんでしょうか」

「うんうん、そやな。でも実際はどちらか先になるかわからんが、妖怪側なら人間を排除しようとするし、人間なら妖怪を排除しようとするんや」

「それじゃ直ぐに大変な事になるんじゃ……」

「そやで、だから。ウチが居る機関は人間を理解する妖怪や妖怪を理解する人間が入る所なんや。悲しい事やけど、中では妖怪を排除しないと行けない場合や逆に妖怪や妖怪を利用する人間に排除される場合もあるのが現状や。シューイチ君なら資格はあると思うんやけど推薦状いる?」

 お酒を飲みながらしみじみと話してくれる。

「一応ですけど、その話を聞いてから断る事って出来ます?」

 少し冷や汗をかきながら質問してみる。

「できるよ、こんな話誰か信じるっちゅうねん。仮に周りに話しても力のある妖怪が狙ってると思うと誰もはなさへんやろ? 民間に行く妖怪も多いし、まぁでも。給料だけは多いでウチで月手取りこれや、しかも仕事がない時は自由行動でも出るもんは出るんや」

 手の平を開いた状態で見せてくる。

 パーって事は指が五本ある。

 一本百万!? そんなわけが無いか、月収で五万って事もないし。

「そっ……もしかして五十万?」

 小さな声で聞いてみる。

 俺の問いに満面の笑みで答えてくれる。そりゃ毎日ビール飲めますわ……。

「紹介状は早いですけど、善処させていただきます」

「あいあい、期間もまだまだあるんやし好きなように生きればいい」

 俺の答えに満足したのか再び酒を飲み始める。

「さて、其処の二人ー後1時間ほどで帰るでー」

「はーい」

 マルタの声でアヤメさんの返事が返ってくる。

「あー!」

 俺は立ち上がる。遠くで二人がこっちを見ている。

「どうしたん、シューイチ君いきなり耳元騒いで」

「いえ……今更ながらカメラ持ってくるの忘れた」

「そーいやそうやな、水着姿はないが帰りに記念撮影はしとこうか」

「カメラあるんですか!?」

「ん、もっとらん。でも帰りにお土産屋に立ち寄るからそこで撮影しよか」

「お願いします」

 俺は返事と共に再びお湯につかるのであった。


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