裏規則八条
台風一過とはよくいったものだ。目が覚め、雨戸をあけると爽快な青空が見える。
「きもちいいー」
二階や、一階の奥からも物音が聞こえる。皆起きたのだろう。
俺は素早く顔を洗う。
その後、食堂に向かったが、食堂では既にマルタや八葉、それにアヤメさんもそろっていた。
「おはよーさーん。、どう? 被害は?」
「まだ、おきたばかりです」
欠伸を堪えながらパンを焼く。
「食事まだだよね?」
パンの袋を片手に食堂にいる人々に聞いてみる。
「シュウを待っていたんだ」
八葉の言葉に急いでパンを焼く、横ではいつのまにかアヤメさんがコーヒーや紅茶の用意をしている。
「おまたせー」
それでは頂きます。別に朝は一緒に食べる事と決まってるわけではないが、全員が全員同じアパートにいるので自然と一緒に食べるようになってしまった。
パンをかじりながらニュースを見る。
「うわー被害そこそこあったっぽい」
TVでは昨日の台風の爪あとを映している。
ビールかと思ったら、優雅に紅茶を飲んでるマルタに聞かれる。
「シューイチ君夏休みいつまでなん?」
「俺ですか? 31日までですね。あと4日ほどです」
俺の返事で紅茶を静に皿に置く。
「あっというまに終ってまうやん。そや、海こうや海!」
「どうみても季節外れです、それにお盆過ぎたら海に入るなって俺教えられたんですけど」
「んじゃ、明日いこか。まだいける」
「俺の話聞いてました?」
「シューイチ君、ようお聞き。夏は戻ってこないんだよ、ウチがイベントを提案しないとあんたら二人は手繋いで幼稚園児かって付き合いや」
「私には面白がってるようにしか見えませんが?」
マルタ同様紅茶を飲んでいたアヤメさんが静な怒りをこめて喋る。
「八葉だって、夏の思い出が欲しいやろ」
「僕は別に……」
素早く八葉の後ろに回るマルタはそのまま八葉の顎を押さえて上下に振り出す。
「僕も海にいってみたいんや、シューイチお兄ちゃんアヤメおねーちゃん」
どう見ても裏声のマルタが八葉の後ろで喋る。
「行くとしても、交通費や移動も大変だし正直俺の財布は火の車です」
俺の言葉でアヤメさんの表情が固まる。
「まぁ! 大変! 秋一さんにお給料渡してなかった!」
俺の隣で優雅に紅茶を飲んでいたアヤメさんは飛び出す勢いで、実際、食堂を飛び出していった。
キランとマルタの目が光る。
「ふっふっふ。これで交通費の心配はなくなったわけや。ま、でも安心してな。移動手段はウチが受け持つ」
腰のポケットから何かを取り出す。よく見るとサイフだ。
マルタがサイフから抜き出すカードが食堂に光る。
「それって! 免許にゴールドカード! マルタ、犯罪でもやった?」
俺の突っ込みに突っ込み返しをされる。
「なんでやねん。正真正銘ウチのや。レンタカー借りちゃる。水着は午後にでも買いにいくさかい明日楽しみにしとけよ!」
なんで喧嘩越しなんだ。
「マルタさん、取りあえずテーブルに足はやめて下さい」
急いで戻ってきたのだろう食堂の入口に息が上がってるアヤメさんが仁王立ちしていた。
「でも、良いですね。私も皆で海に行って見たいです。八葉はどうかしら?」
「おねえちゃんが行くなら僕もいく」
「そして、遅れて申し訳ありません。今月10日までの端数なんですが、お給料になります」
俺は渡された封筒をお礼をいってからポケットにしまう。
「わかりました。俺は今日はアパートの修繕箇所見て回るんで、買い物付き合えませんが行きましょう」
「シューイチ君は行きたくないと。三人でいこうな~」
この狼は意地が悪い。
「すみません、行かせてください」
「宜しい」
「話が終った所で片付けますよ~」
テーブルをてきぱき片付けるアヤメさん。
「それじゃ、俺も周り見てきます」
俺が庭の物干し台や飛んできた物を片付けていると、玄関のドアが開く音が聞こえる。呼び鈴も鳴らないので三人娘は買い物にでもいったんだろう。
ふいに静けさが俺を襲う。
誰も居ないアパートがこんなに静かだなんて思いもしなかった。
誰も居なくなった事で俺は周りを確認する、別に空き巣を働こうとかこっそり部屋に忍び込んで布団をくんかくんかしようなどそんな事はない。
先ほどもらった封筒を開けてみる。諭吉さんが1枚と白い封筒がさらに入っていた。
「なんだこりゃ?」
封筒のあて先が俺の名前で裏を見ると源太郎と書かれている。
俺はさらに封筒を開けて中を確認してみる。紙切れが一枚が出てきた。
「これは!」
誰も居ないは分かってはいるが、思わずあたりを見回す。その紙には『交際経費+ぼーなす』とかかれ諭吉さんが五人も揃っていた。
あの人は何を考えているんだ。こんな高校生に五万もだなんて……顔が自然ににやける。
あれこれ欲しいものは沢山あるが、それに使ったら怒られるんだろうな。
これだけあったら、海の見えるホテルもいけるんじゃ、一人妄想が広がる。
1時間もした所でふと我に返る。しまった仕事全然してない!
俺は急いで浴場のドアや二階の雨漏りしそうな場所を直したりと走り回る。
全体が終ってチラっと時計を見ると既に16時を回っている。
俺は二階の廊下から窓を開けて一休みする、蝉の声と林から来る風が心地よい。
遠くのほうから見なれないワゴン車が右左と道を進んでくるのが見える。
「誰だ……?」
道はこのアパートにしか通じてないので、ここに用がある人なのは明白だ。
玄関の前に横付けしてくるワゴン車をみると、運転席から降りてきたのは、サングラスをかけたマルタ。
俺が見てるのにきづいたのか手を振ってくる。
その後ろからは大きな荷物を抱えたアヤメさんと八葉も見える。
三人が帰ってきただけでアパートが活気ついたような雰囲気になる。
俺も手を振り返すと、明日に向けて気持ちが高ぶってくるのであった。




