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裏規則七条

 停電。電力供給が停止してる事である。

 俺達四人は食堂で携帯電話でニュースを見ている。TVを何故つけないかってのは先ほどの通り停電してるからだ、つかないから。

 二階にある物置からもってきた懐中電灯をテーブルの上に置き、四人が座ってる。

「どうですか? 復旧しそうですか?」

 俺の横でアヤメさんが携帯を覗き込んでくる。

「んーこの付近は全部停電みたいですね。暫くはこのままかも」

「なんぎやな~。これじゃビールもヌルイままやん」

「ふん。僕は、こんな暗闇怖くはない」

 そんな八葉はアヤメさんにくっついている。俺の視線に気付いたのか反論してくる。

「僕は唐突な音が嫌いであって暗闇っヒャ!」

 喋り終わる前に雷が鳴り響く。

「なんぎやな~」

 誰に言うわけでもマルタが喋る。

「アヤメさん。この家、大丈夫だよね?」

「一応私達が住むにいたって補修はしてありますが、なんせ古い物ですみません」

「いや、謝る事は特にないし、とりあえず避難勧告は出てないみたいなので今日はもうどうしようもないですね」

 夕飯はというと。こんな状態じゃ料理も作れないので、急遽おにぎりを作ってもらったのを食べてる。

 建物がギシギシ音を立てている。

 時間は午後七時半、寝るにはまだ早い。

「どうしましょうね~まったく」

「バラバラに過ごすより万が一。避難勧告など出たときに動けるように、一緒に居たほうが良いと思います」

「せやなーしかし暇なのが問題や」

「多分数時間もすれば台風も過ぎると思うから。そしたら各自寝ればいいかな」

「僕は、アヤメおねーちゃんと一緒なら何でも良い」

 さよーで。

 暇つぶしを考える。このメンバーで怪談なんぞしてもきっと面白くないだろうし、ゲームは停電で出来ない。

 

「私、秋一さんの小さい頃のお話を聴いてみたいです」

「俺の!?」

「はい」

 はずんだ声が聞こえる。

「僕もシュウがなんでこんなに、馬鹿になったのか気になる」

「そこ! 人を馬鹿馬鹿言わない!」

 俺は声のほうに指を刺す。

「八葉はあっちや。どうせ暇だし、教えてくれーな」

 その腕を斜め下に強制的に移動させられる、マルタを指していたらしい。

 さすが狼というのか闇になれている。

 話すほど内容など無いが、これで時間が潰せるならいいだろう。

「んー俺は特に何もないとおもうけどなー」

「シューイチ君は幼稚園とかかよったん?」

「ああ。そういえば、通った」

 数十秒無言の空間が生まれる。

「『通った』で終らせてどないすんねん。成績とか先生とかの思い出あるやろか」

 鋭い突っ込みが肩に入る。確かに、そうか。

「ごめん。こういうのやった事無くて。そうそう、幼稚園に通ってた時は俺は静かな子供だったともうよ。お遊戯では端から数えるほうにいたし、運動場でもボッチってわけでもないけど遊びの中心に居たことはなかったなー」

「なんでなん?」

 声と共に暗闇から飲み物を、多分ビールの缶を開ける音が聞こえる。

「なんでって事は……うーん。目立つのが嫌いってわけでもないし。なんか自然と?」

 苦笑しながら思い出を語る。


 この会話で俺が平均的な成績を取るようになったきっかけを思い出したのだが、皆には内緒にする。

 幼稚園児時代にクラスの人気者がちょっとした悪戯で親達を巻き込む騒動になり、その後姿を見なくなった。

 小さながらもそれが怖くて中心に行かないように過ごしてきたのかも知れない。

「幼稚園の先生はあんまり記憶に残ってないけど、楽しい先生だったと思うよ。ほら、嫌な先生なら記憶に残るでしょ」

「私は良くはわからないのですが、秋一さんが中心になる事で誹謗ひぼうする人がいるのなら、私は秋一さんを守ります」

 心を覗いてくるような発言に心臓がビクっとなる。

「ははは、ありがと。両親に関しては、色々好きにさせてくれたよ。『勉強しろ』は、まぁ適度に言ったけど、強制もなかったし。今回の日本に残るって話も俺の好きなようにさせてもらったから。それでダメなら諦めろとは最後言われたけどね」

「いい、両親やな~素直な子が育つわけや」

 何か照れくさい。

「他の二人は?」

「おい、あきらかに僕を排除した発言だろ」

 アヤメさんの隣から殺気が飛んでくる。

「お前はまだ語るほど無いだろ」

 返事が返ってこない事をみると勝った。


「そうやなー。それじゃウチから話すか。アレはまだ織田信長が生きてた頃や」

 俺は一息ついたために飲んでたお茶を噴出しそうになる。

「織田信長って!」

「うん、冗談や」

 この人は……本当にその時代にいたっていっても信じてしまいそうだ。

 そもそも本当の年齢を知らない……。

「さ、話すで、ウチは最初に会った時に話したか忘れたけど、ロシア生まれでな。両親共に狼族の血を持っていたわけや。冬はやっぱ厳しくてな~親子三人でだんをとったものや」

「身を寄せ合って?」

 疑問を問いかける。

「いや、アルコールや」

 やっぱりか。

「んでな、毎日山を駆け上っていたらコレはアカンっていわれてな、強制的に日本に留学や。ひどいとおもわへん?ちょーっと、山一つ分の果物を食べただけなのになー」

「山一つ分ってどんだけ、もちろん冗談だよね」

「半分は本当や」

 何時ものテンションの声が聞こえる。

「まぁ、おかけでアヤメにも出会えたし、今ここに居る事もできるんやけどね」

「あの頃はマルタさん毎日騒いでましたね」

 懐かしいのかアヤメさんの目が遠くを見ている。

 

「次は私ですか、私は先ほどのマルタさんの続きみたいになるのですが。小さい頃は曾お爺様が健在でとても厳しい方でした。今では珍しくないのですが、曾お爺様からみると、その……ハーフがお嫌いだったようで。私の父は普通の人間なのです」

 俺は以前源太郎さんから聞いているが、何も言わず耳を傾ける。

「お爺様に両親など色々手を尽くしてくれたのであまり不自由はしませんでしたが」

「おねーちゃんのお爺さんは良い人だよね」

 暗闇から八葉の声も聞こえてくる。

「ええ、でも。曾お爺様は私をお寺に預け、そこでご住職さんに色々勉強を教えてもらいました。マルタさんに出会ったのもその時ですね」

「せやなー思い出した、アレは一種のいや。完全な軟禁やな」

 少し重い話なのに声はそんなに暗くはない。

「思い出した、ウチがあの住職の頭に顔書いてよくアヤメが笑っていたなー」

「あの頃は失礼ながら笑ってしまいました」

「今思えば、あの住職も力あるくせに、黙ってやられてたって事はウチラの事わかってたみたいやな」

「ええ」

「所でその曾爺さんは、何時頃まで?」

「6年ぐらい前です。大往生でした」

「そこからや! アヤメの人生が変わったのは! 人間社会を知るべく中学に入り。古い許婚制度を廃止するべくこのアパートに!」

「え?でも源太郎さんお見合い写真持ってきてたし」

 チッチッチと舌を鳴らす音が聞こえる。

「あんなの建前や、あのオッサンが本気ならアヤメの力を封印してまでも里につれて帰る。もしくは人間に売る」

 売るって怖いことをいう。

 

「僕はまだ許婚のままで居たいんだけど! こら、頭をポンポンするな」

「物理的にむりやろ」

「最近では同性婚も出来る国があるんだ!」

「はいはい」

 八葉の頭をポンポンする姿が見える。あれ、見える?

 

 丁度話の終り際で停電が復旧したらしい。TVをつけて様子を確認する。

「お。台風も過ぎたみたい」

「そうですね、雨音も弱くなったきがします」

「なら、昔話はこのへんでねよか。色々あって疲れたわー」

 その8割はマルタが引き起こしてるが黙っておく。

 

 俺も皆と別れ自室にこもる。本当色々あった一日だった……。

 少しだけアヤメさんの過去を知ったけど想像より辛い思いをしてたのがわかった。

 それに比べると俺は何て能天気なんだ……少し自己嫌悪になるのは睡魔が襲っているから。

 俺は着替えもせず布団に倒れこむとそのまま寝てしまった。

 

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