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裏規則六条

 このままじゃ俺の頭がおかしくなりそう。精神的じゃなくて物理的に。

 俺は今、自室こと管理人室で寝ている。数時間前にやられたおでこを冷やす為に寝ているのだ。

 ぼーっとしてるアヤメさんや、マルタに謝ってから自室に逃げ込んだのだ。

 時計を手に取り見ると夕方の4時、もうそろそろマルタとアヤメさんが食事を作る時間だ。

 俺は瞳を閉じて先ほどの光景を瞑想する。

「いやーそれにしても……よかった」

 素直な感想である。

 人間の記憶を外部に保存できるなら真っ先に保存してるだろう。

 ちらっとテッシュを見る。

 いかん、俺は何を考えているんだ……。

 

「おい馬鹿野郎、大丈夫か」

 ドアの向こうから八葉の声が聞こえる。

「空いてるから用あるなら入って良いよ」

 ドアが開くと、少しうつむき加減の八葉が入ってきた。手には何かを持っている。

「なに? もしかして見舞い?」

 冗談で聞いてみる。

「そうだ」

「まじで!」

 俺の言葉でこちらをにらんでくる。

「何をそんなに驚いてるんだ」

 俺の事が嫌いと思っていたので、意外な反応がきて対応に困る。

「いや、うん。なんでもない。まぁ、怪我に強い体質というかおでこは腫れてはいるが俺は平気だよ」

 俺は布団から起きて、お菓子を探す。

 ちょっと温いけどコーラでいいか、未開封のコーラを投げて渡す。お。キャッチは旨いな。

 共通の話題が少ないので会話に困る。アヤメさんの過去を聞くか? いやそれは八葉から聞いたら失礼に当たりそうだ。

 

 俺との共通の話題など、ドアを壊したのと裸の付き合いしか思いつかない。

 俺の目線が自然に夏休みの課題に言ったので聞いてみる。

「そういや、八葉たちって学校ってあるの?」

 キョトンとした顔で俺を見てくる。

「君は本当に馬鹿か? 日本は義務教育があるだろう? 行かないと僕だけじゃなく両親だって困るじゃないか、それとも君は教育すら受けてないのか?」

 長文をすらすらすらと俺にぶつけてくる。

「それぐらいはわかるわ。偏見を持ってるわけじゃないんだけど、俺が小さい頃見てたアニメで『妖怪は試験も学校もない。』って歌っててさ。軽い話のキャッチボールで聴いたんだよ」

 温めのコーラを美味しそうに飲む姿を見て、俺は一人満足する。

「ちょっと勘違いしてるから言っておくが、一部の人間以外全員力を抑えて学校などにいってるぞ。アヤメおねーちゃんも通常の高校に行ってるし。就職も希望があれば斡旋される。僕だって、おねーちゃんの花婿になるのに大特進付属に通ってた」

「大特進付属って超難関の所か!」

「馬鹿でも、それぐらいは知ってたか」

「人の事を馬鹿馬鹿言わない。道徳の勉強も習ったんだろ?そんなんじゃ友達も出来んぞ」

 俺はポテチを入れた皿を目の前に出す。

 就職も斡旋されるのか、きっと色んな力を使う人々? が仕事をするのだろう。不況知らずか、羨ましい。

 

「う……習ったけど、僕には必要ない。それに周りは全員ライバルだ、学校に友達なんかいない」

 語尾が段々小さくなってる。先ほど与えたポテチは皿ごと抱えてる、小動物を飼った気分に浸る。

「八葉、お前いじめられてるのか……?」

「イジメなど無い!」 

 八葉が叫ぶと共に窓の外に稲光が走る。

「キャ」

 短い悲鳴と共に俺にしがみ付いてくる。折れる! 折れる! まって。ちょっと。余りの痛さに声も出ない。

 腹部から涙声が聞こえてくる。

「イジメなんかないが、友達も居ないんだ。僕のクラスは全員が全員特に誰とも喋らない。帰りだって皆バラバラに塾だ。だから、だから……」

 なるほど、だから優しくしてくれるアヤメさんが好きだったのか。

 取りあえず離して欲しいので必死の力で八葉をさわる。

「あ……ごめん……なさい」

 腹部に加わる力が無くなる、思わずその場にしゃがみ込む。

 俺が顔を上げると涙を少しだしてる顔がそこにあった。

 

「どうせ、暫くこっちに住むんだろ? その間。俺が友達になってやるよ」

 痛みをちょーがまんしつつ決めてみる。

「不本意とはいえこの僕が抱きしめたんだぞ、痛みを我慢して言うほどの台詞か」

 白い目でこっちをみている。そういう所が可愛げないんだっていうのに。

「いいんだよ! そーいや、さっきちゃんと謝れたな。そういう素直な女の子みたいなら可愛いのに」

「可愛い? この僕か?」

 驚いた顔をしている。

「そうだな。もう少し髪を伸ばして数年もすれば綺麗になってるとおもうぞ」

 数年後の八葉の姿を思い浮かべる。髪はセミロングで胸も少し膨らみかけてる、服装は男っぽいのにスマートな体。言葉使いは悪いかもしれないが、その冷ややかな目。

 

「人の未来を想像するな!」

 腰の辺りを叩かれる。

「いって」

「渡しそびれた、これ我家に伝わる痛み止めだ。こっちがおねーちゃんからの氷の差し入れ。それじゃ僕も食堂を手伝ってくる。ご飯が出来るまで寝ろって伝言だ」

「おう。悪かったな、色々」

「こっちこそ治療の邪魔して悪かった。じゃ、ま……またなシュウ」

 ドアの前にいく八葉を引き止める。

「シュウって俺?」

「当たり前だろ。ば……ごほん。友達になったんだ名前で呼ぶのが礼儀と習った」

「そっか、うん。そうだよな。有難うな八葉」

 静かに閉められたドアを見守る。

 弟……いや妹が出来たかと思うと俺の口元は自然に笑ってしまう。


「それじゃお言葉に甘えて傷薬でも塗りますか……」

 渡されたビンから塗り薬を塗ると痛みが引いてきた気がする。

 隣からは料理を作る音が聞こえはじめてきた。

 


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