裏規則四条
玄関の惨状をみてため息をつく。
観音開きの二枚のドアが外れて倒れてる。
「先日直したばっかりなのに」
「ま、しょうがない直すか」
俺に連れらてる八葉は黙っている。
「僕を怒らないのか……?」
「んー」
俺は扉を見ながら言う。
「ワザとじゃないんだろ? 次気をつければいいんじゃないかな」
下を向き喋る八葉に言葉を返す。
「それより、手伝ってくれ。俺一人じゃ扉をもてない」
俺の指示で扉を押さえる八葉。
重い扉を簡単に持ち上げてくる。
「凄いな」
「軽蔑しただろ」
軽蔑って俺でも使わない言葉を使ってくる。
「あのなー。まぁ俺以外の奴には見せないほうがいいかもな。俺は別になんともおもわんぞ。逆に凄いと思うぐらいだし、アヤメさんとマルタを見てみろよっぽど変わってる」
「変わった人間だ」
「まぁね、よく言われるよ」
扉の修繕が終る頃に食堂から二人が出てきた。
「お疲れ様です。ご夕飯で食べたい物はありますでしょうか?」
「おつかれやな~」
「貴様! アヤメおねえちゃんに料理を作らせてるのか!」
怒り出す八葉に突っ込みをいれる。
「一応当番制。最近は作ってくれる事が多いけど」
「そーだなー……八葉食べたい物あるか?」
「僕!?」
怒ったり驚いたり忙しい子供だ。
「どの道、台風が来るんだし暫く泊まるんだろ?」
「しかし……」
「無いならウチの希望は、から揚げとイカリング上げと酢の物と……」
「全部酒の摘みじゃないか」
ビールを片手に指を折って数えてるマルタに突っ込みを入れる。
「それじゃ……ハンバーグ」
「お。いいね。アヤメさんお願いできるかな」
「わかりました。美味しいの作りますね」
台所に消えるアヤメさん。
「八葉、あんたちょっとクサイかもしれん。風呂でもはいってきてな」
「うちは御飯できるまで食堂にいるさかい、何かあったら声かけてーな」
手をひらひらと振りながら消えていく。
「風呂か……」
俺も自分の服の匂いを確かめる。ちょっと汗臭くなってきてる。
どうせなら、自分も入るかと思い。八葉に声をかける。
「よし。風呂の場所を教えてあげよう」
お兄さんぶって声を大きくはる。
「口頭でわかる」
「そっかーまぁ。食堂からでも玄関からでも出れるけど。この裏に煙突が付いた建物があるからそこがお風呂」
「むしろ煙突が有るのに違う建物だったら困る、わかった。行って来る」
「ういー」
八葉を玄関で見送り、俺も自室に戻る。
「あいつ、着替えないだろうなー。俺の中学の時の服が確かこっちに……あったあった」
押入れを空けて着替えを探す。
「邪魔な荷物とおもったがあってよかったな。あとは、シャンプーと……こんなものか」
裏庭をみると浴場の小屋から湯気が見える。
「なんか弟が出来た気分だな」
しみじみと感想を言ってみる。
俺は自室から裏庭にでて浴場へあるく。食堂のほうをチラリと見るとアヤメさんの指示の元だろう、二人でひき肉をこねている。
浴場の板がそのままだったので入力中に切り替える。
「フフフン~フフッフフン~フフフ~ンフフフフン~」
子供の時に見たアニメの歌を鼻歌で歌う~。
「おーっす。どうだー」
裸一貫になりタオルを背中に、大きな音を立てて曇りガラスのドアを開ける。
洗い場には居ないか、湯気が多いので浴槽のほうにぼんやり人影が見える。
「せっかくだ背中でも流してやるよ」
浴槽では八葉が口をパクパクさせている。
「汗かいたからな~俺も入ろうとおもって」
浴槽からお湯を汲み取り体に掛ける。
良く見たら八葉はタオルで体を隠すように小さくなってる。
先ほどから話しかけてはいるのに、眼がこっちを見てないし口をパクパクさせたままだし。
俺の股間をみてる? 恥ずかしいな。
「なーに見てるんだよ。お前も立派なのがついて……」
おれは浴槽に入りつつ八葉のタオルをもぎ取る。
「それに、浴槽にタオルは厳禁だろ。どうせ男同士なんだし」
「あ……」
お、はじめて小さく喋った。
ざぶんとお湯に漬かる。
勢いよくはいったのでお湯が隣に居る八葉にかかる。
「お、お湯も滴る良いおと……」
俺は最後まで喋らないで固まる。
目の前の八葉の胸が少し膨らんでいる。
視線を少し下げると、本来男に付いてる物が無い。
軽いめまいを覚える。
八葉も俺を凝視している。おもに股間を。
俺の右手には八葉のタオル。肩には自分のタオルがある。
そっと八葉のタオルを返す。
俺からタオルを受け取った八葉は無言で体の前を隠す、俺も自分のタオルを腰に巻き無言のまま浴槽から出る。そして脱衣場に向かう曇りガラスのドアに手をかけて時、後ろから声が聞こえてきた。
「この大馬鹿やろおおおおおおおおおおおおお」
叫び声とともに後頭部に激痛が入る。
倒れる瞬間に見えたのは一部壊れた風呂桶だった。
死ななくてよかった、俺はそうおもう。
何とか服を着替えて食堂のソファーに倒れこむ、何事かと思いアヤメさんとマルタが顔を覗いてくると同時に、浴場から八葉が走ってくる。
二人とも察したのだろう食堂のソファーで俺はアヤメさんが作り出した氷枕で後頭部を冷やす。
アヤメさんは相変わらず心配してる顔をしてるし、マルタは笑っている。裸を見られた八葉は怒っている。
「いやー八葉は女の子やねん」
「もう少し早めに知っておきたかったです」
「すみません、婚約の話も八葉が女の子なので自然と解消されたのです」
二人で説明をしてくれる。
「アヤメねーちゃん。こんな痴漢と一緒にいたらダメだ」
「秋一さんも間違えただけですし。ね」
何が、『ね。』なのか八葉をなだめる。
「あー。八葉……」
俺は怒っている八葉に声をかける。
「何……」
相変わらず怒っているが此方を向いてくれる、いくら間違えたとはいえ俺のせいでトラウマを与えたら困る。
綺麗な土下座を八葉に向ける。
「ごめんなさい」
自分より大きい大人が土下座をして謝ってくる。そんな事は今までなかったのだろう、八葉は口をパクパクさせている。
「シューイチ君も謝ってる事やし、どーするん?」
助け船を出してくれるマルタ。
「ふ……ん。しょうがないから許してやる!でも、まだアヤメおねーちゃんの恋人って認めたわけじゃないからな!」
このツンデレめ。心の中だけで閉まっておく。
「はーい。それじゃ仲直りした所で御飯にしましょう。今焼きますね、皆さんはお皿をお願いします」
市販品と変わらないぐらい綺麗なハンバーグがお皿に盛り付けられる。
匂いも素晴らしいしこの堪らない音が食欲をそそる。
四人になった食卓は華やかになり自然と会話も弾む。
「八葉今夜の部屋はどーする?」
「其処のソファーでいい」
「なんや、シューイチ君の言い方がやらしいのー」
俺との会話にマルタが突っ込む。
「あのねー……違うからね、所でアヤメさん103号使っていいかな」
「私の許可は取らなくてもお任せします、でも良いと思います使ってる人も居ないのでソファーで寝せるわけにわいかないですし」
ご飯を食べながら会話をする。
「んじゃ八葉、今夜は103号を使って、鍵は後で渡すから。んで明日にはちゃんと電話しといてよー家族が心配するだろ」
「ん、わかった二人ともありがとう」
こういう所は割りと素直なんだなと顔を見る。
「ご馳走様でした」
全員が食べ終わったあたりから外では雨の音が聞こえてきた。
「あちゃーとうとう振ってきましたね」
「せやなー、そや。八葉良く眠れるジュースやるさかい」
俺は無言でマルタに突っ込みを入れる。
「どうせ酒でしょ」
「ばれたか……って、なんやもう寝てる」
見るとお腹が膨れて安心したのだろう既に八葉は船を漕いでいる。
「それじゃ起さないよう私が連れて行きますね」
「お願いします。俺も鍵を渡したら部屋に戻ります、お先にお休みです」
「はい。二人とも良い夢を」
八葉を抱っこしたアヤメさんに鍵を渡し、俺も部屋に戻ったとたんに睡魔に襲われて寝てしまった。
 




