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裏規則二条

 ガタンガタン。バスは不規則に揺れる

 夏休み中なのにバスの中は案外すいてる。

 俺とアヤメさんは後ろの座席にと移動する。

 最初にアヤメさんを座らせ……俺は固まった。

 座った場所は二人席! しまった!

 俺は何処に座ったらいいんだ。横が前かそれとも後ろか!

「どうぞ?」

 不思議そうな顔で俺をみてくる。手は隣の空席をさしている。

 ちらっと映る車内鏡には、バスの運転手が噴出しそうな顔をしている。

「それじゃ失礼します」

「はぁ」

 沈黙する。話題……話題。

「もう。マルタの嘘にもこまったものですよねー」

 白々しい声で話題を振る。

「マルタさんは昔からトラブルメイカーでした」

「でも、ここ一番では。いつも私の事を大事にしてくれましたわ」

「へぇー」

「どんな事あったの?」

 アヤメさんの過去が気になる。

「そうですわね~。私が小さい頃、風邪を引いてしまいまして。妖怪の風邪には北アルプスの頂上に生えてる花の根が効くって噂を聞いてきて、父に教えました。そして直ぐに父が取りに行きました」

「うんうん」

「でも実はそれは風邪に聞くというか。妖怪を風邪にする薬だったのです」

「げ」

「その他にも色々ありましたけど。私にとっては親友で姉であり手のかかる妹のような存在です」

「信頼あるんだね~、確かに憎めない」

「今回のこのチケットも私達のためを思ってくれた物ですし。思い出を作りましょう」

 にっこり微笑む。

「そうだなー。うん。俺もこういう展覧会いかないからさ、楽しみになってきたよ」

 国際展示場前~バスにアナウンスが流れる。

 流石に手を握るわけにはいかないよなー……変な事を考えつつバスを降りる。

 国際展示場、その名の通りの会場なのだが、月一で色んな催し物を開催している。今月は夏にぴったりの北極展覧会。会場前には北極熊やペンギンの看板が立っている。


 チケットを受付に渡して二人で入場する。

 中は薄い青い証明で薄暗く、壁の一部がガラス張りになり動物を見学できるようになっている。

 入場者をみてみると親子連れやカップルの姿もちらほら見える。

「秋一さん見てください!」

「ん?」

「ペンギンですよペンギン、ああ……可愛いし美味しそう」

 テンションの高くなったアヤメさんを見て戸惑う。そして美味しそうと、いやいやいや。

 ガラスの中では愛くるしいペンギンが数匹ぺたぺたと歩いている。

「確かに可愛いですね」

 俺も思わず眼を細める。

 ガラスに張ってある説明文を読んで見る。

「えーっとペンギンは北極には居なく。昔は居たとされています。今回は地元水族館の協力でお借りしました。居ないのかよ!」

 此処最近、突っ込みが慣れてきたきがする。

「へーそうなんですねー」

 アヤメさんは熱心にペンギンに向かって指を動かしてる。

 かわええええ。ペンギンよりもアヤメさんがかわえええええええ。叫びたいのを必死に堪える。

 マルタ! ありがとう! チケットの半券を握り締める。

「次みてみましょう」

 くるりを振り向いてくると次のブースに向かっていった。

 俺は慌てて後に続く。

「でかい」

 俺は北極グマの剥製を見て一言もらす。

「はぁ、でも父のほうがちょっと大きいかもしれません」

「たしかに」

 二人で静に笑い出す。

 その後も。キツネ。ウサギ。アザラシなどのブースを回り北極際を満喫する。

 

 最後はお土産だ。

「確か饅頭だっけ?」

「そうですわね。買って帰りましょうか」

「よ、そこの坊ちゃん一つかってかねーか」

 その顔見て固まる。

「お父様!」

 俺の横でアヤメさんは叫び声を上げる。

 周りの人が何だと此方を少しみてるが直ぐに興味なしと立ち去る。

「源太郎さん、何を……」

「俺の事は義父と呼んでくれ!じゃねーな。源太郎と名乗る物では一切無い」

「じゃあ、なんですの。最初から覗いてましたわね……」

「ひい」

 俺の横の気温が一気に下がる。思わず悲鳴が出た。

「えーっと。なんだ……あれだ。北極太郎だ」

「言いたいことは終わりましたか?」

 指の先から細い氷が出ている。あれで刺すのだろうか。

「まて! これは吹雪からの提案だ!」

「お……母様が」

「うむ。俺も直ぐ帰るつもりだったんだが、周りの事もあるだろうし。先に吹雪に連絡しておいたんだ。『良い相手が見つかったみたいだ。』と」

 俺とアヤメさんは二人で赤面する。

「んでな、それなら若い二人にはデートでもしてもらいましょうってメールとチケットがこっそり届いて。俺がチケットあげたってお前らはどうせいかんだろ」

「まぁ、何か裏があるとは思ってましたが」

 横でアヤメさんは、かなり落ち込んでいる。

「俺も吹雪も何時死ぬがわからん。孫が早くみたいんだ」

 真剣な顔で言われても、俺は高校生だよ。返しがわからない。

「孫って言われても俺は高校生だし」

「なーに男は十一歳から元服だ」

「いつの時代だよ!」

 取りあえず突っ込む。

「私。孫々って8年前から言われてるんですけど」

「アヤメ。すまんが餡子が切れた。そこの倉庫にあるから取ってきてくれ」

「なんで用意しておかないですか」

 白い眼で睨んでるも倉庫まで小走りに走っていく。

「秋一君」

「はい!」

 いきなり呼ばれて俺は背筋を伸ばす。

「緊張しなくても大丈夫だ」

 ニコリと笑う。

「アヤメはあの通りの子だ、君はごく普通の人間。損得勘定抜きであの子と付き合える珍しい人間だ」

「はぁ……」

 俺と源太郎さんはアヤメさんが入っていった倉庫の扉を見詰めたまま話す。

「願わくば、秋一君がもうダメだと思うまであの子達を守って欲しい」

「俺に出来ることなら。でも、俺はこの通りの人間ですよ。守るっても守られてばかりですよ」

 俺は苦笑する。

「なーに。実は俺も人間だ」

「は?」

「なんだその眼は……」

「いや。てっきり北極熊の妖怪かと……」

 頭を思いっきりなでられる。痛い痛い。

「人は弱いが妖怪の心はもっと弱い」

「そうなんですか……」

 涙目で訴える。

 会話をしようとしたら、倉庫の扉が開いてアヤメさんが両手いっぱいのダンボールを抱えてヨロヨロとあるく。

 餡子が入ってるのだろう。

「手伝ってきます」

「うむ」

 俺も小走りでアヤメさんに近づいて箱を数個受け取る。

 その後、饅頭を作るのが旨い源太郎さん。いや北極太郎さんから北極饅頭を買って帰るのであった。

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