規則零条 管理募集
『簡単管理人の仕事です共同アパートです。要住み込み。月報酬三万 風呂トイレ協同 訳アリ ※高校生可』
そんな夢みたいな物件の広告を見つけたのは、まさに中年の男性が電柱に張り紙を張ってる最中だった。
「おおおおおおおおおおおおおお」
俺は突然声を上げる。
張り紙をしていた男性は俺の奇声にビクっとなる。
「すみません! その張り紙! 入りたいです!!」
そんな男性に声をかけたのは、来月から夏休みが待っている。高校ニ年の近藤 秋一である。
遡る事一週間前。
両親がアマゾンへ数年間出張に決まった。
「どうだ、秋一、お父さんとお母さんと一緒にアマゾンにいかないか?」
「全力でお断りだ!」
俺は力の限り叫ぶ。
高校もなれてきて来月からは楽しい夏休みが待っているのに何故にアマゾンなんぞ行かないといけない。
俺の両親は実際何をしてるかわからないのだが、重役らしく家に居ない時が多い。
子供の俺がみても夫婦仲は良いと思う。
「なんでアマゾンなんだよ! ニューヨークとかおしゃれな所は無いのかよ。どっちにしても俺は行かないけど」
「そんな事言うけどしゅうちゃん。特に特徴ないじゃない、身長170も体重も70キロでしょ? 得意な物もないようだし、彼女も居ないでしょ? アマゾンに留学経験ありますって将来就活に役に立つわよ?」
俺の否定に母親が口を出してくる。
「そ……特徴ないのはいいの! 彼女も夏休み中に作るから!」
「とにかく、俺は行かない! そもそもそこ何語だよ」
「ブラジル語や英語、場所によっては日本語もいけるとおもうぞ」
的確に言う父親。
「しかしなー、秋一も連れて行くきだったから、このアパート来月で入居期限きれるぞ」
「な……」
二の次が告げないとはこの事だ。
「どうしても日本に残るなら家賃三万ぐらいで物件を探してこい」
次の日から不動産屋を回るも、新興住宅地であるこの辺は家賃三万の物件は中々ない。
しかも学生の一人暮らしとなると近隣のトラブルも避けるために何処も断れる。
今日も収穫ナシかと思っていた帰り道の出来事であった。
俺が声をかけた男性はニコニコしながら此方を見ている。
「お、君この物件入りたいの? 少々訳ありだよ?」
「自殺者や幽霊が出るとかですか? そんな事ぐらいだったら平気です。来週までに住む場所を探していて!」
「自殺者も居ないし幽霊も出ないな。ただ……その家に一人女の子がいるぐらいかな」
「女の子!? あ、実は女の子といっても50代の性格が悪い人とかですか?俺は平気です!」
実際は性格わるい女性と暮らしたら平気じゃないが、他にこんな好条件の物件なんてあるはずがない。
「歳も十六才かな、彼女もいろいろあって最近引っ越してきてね。簡単に言えば、そのアパートは彼女の持ち物であって管理人を探してる」
「立ち話もなんだ、近くに喫茶店あるからそこに行こうか。暑いからね」
俺には神にみえる男性の後を付いていき一緒に喫茶店に入った。
喫茶店で向かい合ってコーヒーを飲む。
さっそく俺は、向かいの男性に事情を話す。
「ふむふむ。近藤秋一く……失礼近藤秋一さんは、両親が海外に行く為に家を探してる。と」
座って直ぐもらった名刺には山流 天太郎と書かれてる。
「そうなんです、多少のわけありなら全然平気です。あ。でも、俺が男でもいいんでしょうか……」
声のトーンが下がっていく。
「ああ、性別か。特に女性でも男でも僕としては男でもいいかな」
ゆっくりとアイスコーヒーを飲む山流さん。
「しいて言えば、性格が良さそうな人。その点君なら平気そうだな、近藤さんが襲われるのが心配なら部屋は沢山あるんだ離れて暮らせばいい」
「俺が襲われるんですか!?」
俺が襲われるぐらい肉食系の女の子が一緒なのか……。
「冗談冗談、実はアパートがちょっと古くてね。木造なんだ。庭も荒れてたりするので中々やってくれる人がいなくてね~、虫も多いし。小さな声で言うがゴキブリなども出るんだ」
しかも、と突然声のトーンを落として小さな声で喋ってくる。
「住んでるのもまだ彼女しかいない」
俺は意味ありげな言葉に心臓がドキュンとなる。
「今は一人で住んでるがゆくゆくは人数も増える。とても彼女一人じゃ間に合わないんだ。近藤さんがやる気があるならこちらとしても助かるのだが」
俺が思っていたより全然好条件だ。なんせ家賃が三万所が逆に三万貰えるんだし。
女の子もいるし、しかも高校生可、ぴったりじゃないか。
「是非にお願いします」
「それじゃこちらにサインをもらえるかな」
「よし、一応試用期間が一ヶ月あるが、早速挨拶にいこうか」
「え! 今からですか?」
「善は急げさ」
ボロボロな木造アパートの前に連れられて来られる。
なるほど、部屋数は表からは六部屋に大きな玄関がある。
山流さんが先に玄関を開ける
「アヤメさーん。管理人候補の人を連れてきたよ~」
二階の奥からパタパタと走る音が聞こえる。
かわいらしい声が聞こえてくる。
「はーい」
「あ、山流さん、こんにちわ。そちらの方は?」
「こちらが雪乃アヤメさん、色々と体が弱くて管理人の仕事が無理なんだ。」
「そして此方が、近藤秋一さん。管理人候補の募集を見てくれてね」
間に入ってお互いに紹介する山流さん。
俺と同じ歳と聞いたのに大人びてる女性だ、しかもゴリラのような女性では無く……。
白い髪でショートに肌も白い。それに普段から来てるのか和服を着て居た。
「こ……こんにちわ! 管理人候補になりました。近藤です。宜しくお願いします」
緊張して上ずった声のまま直立不動で挨拶をする。
「これは語丁寧に有難うございます」
雪乃さんはなんと土下座するようにお礼をしてきた。
それが俺と雪乃さんとの出会いだった。
1/28 台詞時の句読点( です。」 です」)を直しました。
1/28 台詞中の!の後の空白(「xx!xx」→「xx! xx」)を直しました。
1/30 三点リーダー( ・・・を ……)を治しました。
1/30 空白(「 を 「 )に直しました。