幕間 バンガロウ作戦会議
バンガロウ王都にセントセルス神興国よりの書状と、使者が来てからサントンの動きは早かった。現在の重鎮と呼べる者を王都に集結させ作戦会議を始めた。
会議室の中央にサントン王が座り、右に元帥 セントハルク、千人長 ドイル、千人長 バルドベルド、千人長 ハッサン、暗部隊隊長 グラウス。
左に内務大臣 ハック、外務大臣 キララ、財務大臣 エビス、その他の大臣達が座っている。
「皆が顔を揃えるのは久しぶりだな」
サントン王は、ズラリと並んだ重鎮達の顔を見た後、現状の話を始める。
「皆にも情報は入っていると思うが、セントセルス神興国から警告という名の宣戦布告状が届いた」
「王はどうされるつもりですか?」
セントハルクがサントンに質問で返す。
「もちろん。返り討ちにする」
「「「お~」」」
何人かの武将達は感嘆とした声をあげる。
「王、そんなに簡単に決められては困ります」
外務大臣キララが席を立ち、声を荒げて反対する。
「そうか、じゃキララはどうすればいいと思う?」
「まずは時間稼ぎです。彼らは警告という形を取っているのです。まずは話し合いを」
キララの意見に文官達は頷き、まずは話し合いをという声が多くなる。
「セントハルク、お前はどう思う?」
サントン王の声で、先程まで騒いでいた者達もセントハルクに視線を向ける。軍務大臣と言う肩書きと最高司令官である元帥という地位を両方兼ね備えるセントハルクは、王の次に発言力がある。
「そうですね。まずは現状の確認をしましょうか?」
「現状の確認は先ほどしただろ?」
セントハルクの発言にサントンが首を傾げる。
「そうではありません。地図を用意しましょう」
セントハルクが地図を所望するとセントハルクの後ろに控えていた。ハッサンの副長として会議に参加している。百人長 ダンが地図を持ってくる。
「まず我々のバンガロウ王国がある場所がここです」
地図の一番南に描かれたアースとバンガロウ、相対するように海を挟み、セントセルス神興国の港街ソクラテスが記されている。
さらにバンガロウと同盟を結ぶベンチャイス連合国として、東にシーサイド島、西にリバーサイド島が地図に描かれていた。
「地図で見ると確かに現状がよくわかるな」
「はい。セントセルス神興国は十万の軍勢で攻めてくるそうです。対して我が軍だけで用意できるのは五千ほどでしょう。相手の動きを予測して、ソクラテスの港に到着するのが書状から逆算して二日、ソクラテスの港を起つのにさらに一日、そこからバンガロウに到着するのに船を使って三日かかります。我々は五日の間に開戦の準備をしなくてなりません」
「お前は戦うというんだな?」
セントハルクはサントンと同じで開戦の意思を示した。武官たちの間ではため息を吐く者もいたが、トップ二人が決めてしまえば決定は覆らない。
「そうですね。私が得意とするのは守りです。守るために一番最適な事を考えました。考えた末に開戦しかありません。ただし、外務大臣が仰られている通り、時間稼ぎはしてほしいと思います。何時間稼げるかわかりませんが、延ばされば、延ばすほどこちらが有利になると思います。あちらも軍を動かすのに莫大な費用と食料が必要になりますので……あちらとしてはこちらを屈服させて食料を奪う考えもいれているでしょうし、そこで仲間を増やしたいと思います」
セントハルクが言った仲間とはシーサイド、リバーサイドの両国のことである。
「キララ、セントハルクの話を聞いてどう思う」
「理に適っていると思います。ですが、シーサイド王とリバーサイド女王には何と話しますか?」
「それぞれの王には協力を求める」
「応じてくれますかね?」
「さぁな」
キララの質問にサントン王はニヤリと笑う。セントハルクに視線を合わせる。
「外務大臣、それぞれの王は、すでにサントン王の配下になっています」
「どういうこと?」
「それぞれの王と交流を深めにいって屈服させた」
「屈服?」
「ああ。海賊王モーテル・シーサイドは決闘で倒した。女帝ビスタチア・リバーサイドは。あった瞬間に仲間になる宣言をされたよ」
「なるほどな。確かビスタチアは婚約相手が次々と亡くなっていて、強い男を求めていたな」
キララは二人がすでに動いていたことに納得して席に着く。サントンは王になってから、更なる進化を遂げていた。進化に拍車をかけたモノの一つとして、セントハルクの力が大いに関係しているのだろう。
「他に反論の者はいないか?」
サントンの言葉に手を上げる者はない。
「セントハルク。続きを話してくれ」
「はっ!現状我がバンガロウ及びシーサイド、リバーサイドにて、いつでも挟撃できます。そのため我々はセントセルス神興国が海を渡り始めた二日目に三方向より挟撃し、一気に沈めます」
セントハルクの作戦に一切の温情はない。バンガロウの盾である、セントハルクはバンガロウに攻め込む者に容赦する気にはなれない。
「異論のある者はいるか?」
「それでは後々遺恨を残しませんか?」
今まで一言も話さなかった内務大臣のハックが声を出す。
「遺恨とは?」
ハックの言葉に対して、セントハルクが言葉を返す。
「私は軍人ではありません。軍の方は敵を倒すことを考えられる。私は戦いが終わった後の事を考えます」
「そんなことで相手を倒せると?」
「宰相が居られれば可能にしたと思います」
「アク殿か……」
アクの名前を出されるとセントハルクも言葉を濁してしまう。ハックの中で、アクはスーパーマン扱いされている。できないことはないと思うほどだ。
「はい。宰相は人が死ぬのを嫌う方でした。ですので、バンガロウは少ない人数で内乱を鎮めることができました。被害も最小に収まったと言えます」
「それではどうすると?」
「我が軍が圧勝できるのは分かりました。ですが、更なる圧勝を考えて頂きたいと思います」
セントハルクの作戦は完璧なものだった。バンガロウが勝利する上で、机上では最も優れていると言える。十万の軍勢がバンガロウの地に降り立てば、如何にセントハルクとサントンが強かろうが、数の力には勝てない。
「内務大臣殿には戦と言うものが分からないようだな」
セントハルクがハックをバカにしたような口調で、ハックの意見を切り捨てる。
「そうですか、できませんか……」
「いや。セントハルク。ハックの言うとおりだ」
「どういうことです、王?」
「言った通りだ。ハックの言うとおり、戦後に遺恨が残らないようにしよう」
セントハルクはハックから視線を外してサントンを見る。サントンは全く臆することなく、セントハルクを見返す。
「わかりました。しかし、少しお時間をいただきます」
折れたのはセントハルクの方だった。サントンは笑って作戦会議の解散を宣言した。
いつも読んで頂きありがとうございます。




