探検者になります11
アクの心の中にアモンがいる、アモンの魔力の中にアクがいる。二人はそんな感覚の共有を果たしていた。
「それがお主の奥の手か、それが何を意味しているのか分かってしているのか?」
「最悪の力、災いの力ですか?」
「知っていたのか?」
水龍の族長はアクの力を理解していた。
「俺は闇の勇者として召喚された。その時に闇の勇者は災いをもたらすと言われました」
「なぜそれを知っていて、お前は生き続ける?」
「俺自身が災いをもたらさなければ問題ない。自分で自分を制御すればいい」
「お前の存在自体が災いだとは思わないのか?」
「それならば俺は世界を滅ぼしましょうか?」
「できるのならやってみろ」
水龍の族長は十文字槍をアクに突き刺す。槍の速度はサーラやサントンの攻撃よりも鋭く、常人では到底見えないものだった。常人以上のルーやサーラですら見えてはいないようで驚いた顔をしている。彼女たちなら防ぐことはできたかもしれないが、傷を負うことは免れなかっただろう。
アクはその攻撃を敢えて受けた。しかし、槍はアクの体をすり抜けていく。
「何っ!」
これには攻撃を仕掛けた水龍の族長の方が驚きの声を上げる。槍からまったく手応えを感じない。まるで雲や霧を切っているような空を切る手応えしか伝わってこない。
「いきます」
アクがそういうと槍が刺さったまま前進して、水龍の族長を殴り飛ばす。龍の中でも一番強いはずである水龍の族長が、アクの一撃を受けて後ろに吹き飛ばされる。
「何が起きてるの?」
サーラやルーもアクが何をしているのかわからない。これは魔法なのか、水龍の攻撃はすり抜けるのに、アクの攻撃だけが当たる。アクは吹き飛んだ水龍の前に走り寄り、今度はとび蹴りをする。水龍の胸に深々と刺さった蹴りによって、水龍は持っていた十文字槍を落として膝を突く。
「まだやりますか?」
「何なのだ、貴様は?」
「ただの人です。少し特別な力を持った」
「お前の力は一度だけ見たことがある」
「へぇ~どんな人でした?」
「そやつはの名は、大魔王 サキュウと名乗っておった」
「ははは、大魔王と同じ力か、確かにそうなのかもしれませんね。今なら大魔王にも勝てる」
アクの目には狂気が宿っている。あまりにも強大な力を手にして、その力を使うのに酔っているのだ。
「ワシを殺すのか?」
水龍はすでに自身の死を覚悟した。自分は見誤ったのだ、力有る者だと見抜けなかった。これは自身の罪、だが水龍の言葉を聞いて、アクの目の色が変わる。
「殺しません。最初から言っているでしょ。力を貸してほしいと」
「それほどの力を持っているのだ。ワシらの力などいらぬだろう?」
「目的は共存ですから、人も、獣人も、虫人も、龍族も、精霊族も、ドワーフも、エルフも、誰もが共に暮らせる場所、国を作りたいんです」
水龍は狂気に落ちないで、理想を語るアクを見て呆気にとられた。
「そんなことできるわけがない」
「そんなことやってみないとわからないじゃないですか」
「途方もない理想ぞ?」
「それでも僕の夢です」
「がはははははっはははははあっはははははははははっははははっは」
水龍は大笑いしだした。
「すまぬ。ワシのいや、ワシ等の負けじゃ」
水龍は一通り笑い終えると、片膝を突きアクの前に頭を下げた。
「これより四龍族はお主の味方となる。我らが健在の間はお主と共に生きることを誓おう」
水龍の言葉が終わると、火龍、土龍、風龍が順にアクの前で片膝を突き頭を下げた。
「久しぶりに会う。面白き者よ、今宵は宴じゃ。共に騒ごうぞ」
龍達に受け入れられてアクは安心した。体の中でアモンの存在が静まり、黒い膜も消えていく。
膜が無くなると同時にアクは大量の汗を流して倒れた。
「「「隊長」」」
三人の少女の声は聞こえたがアクは意識を失った。
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果てしない闇の中……アクは歩き続ける。
「どこにいくの?」
どこからか聞こえる声、アクはその声に応えず歩き続ける。
「どこにいくの?」
前の見えない闇の中、アクはそれでも歩き続けた。
「君はもう帰れないよ」
闇の声にアクが足を止める。
「君は僕と一つになった。君は僕の物だ」
アクはあたりを見渡し闇を睨み付ける。
「僕は君、君は僕」
アクは膝を突き頭を抱える。
「僕の望んだ通りになった」
エコーの様に頭の中に響く声に、アクは耐えられなくなり闇の中で倒れる。
「何度も力を使えばいい。どんどん君は僕になる」
その言葉を最後に、アクは闇の中で意識を失った。
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