探検者になります9
アクはアース大陸での基盤の確保と、フェアリータウンの発展を同時に行っていた。アース大陸での冒険は単純に楽しいのだが、それ以上に異種間交流という目標を達成するためなら、何でもするつもりでいる。
子供達の事はエリスに任せきりになってしまうが、エリスだけでなくピピンやサーラも、以外に子供好きで面倒をよく見てくれている。
それに対して、ハナはマイペースに相手をしながら、畑を荒らす者には制裁が加えて、子供達には一番逆らってはいけない人という認識が子供達の中でも確立していた。
アクが自室に戻り、エリスと二人きりになる。色々なことを考えているとエリスに声をかけられた。
「アク、手紙が届いているわよ」
エリスから渡された手紙に、目を通したアクは笑いが込み上げてくる。ここまで自分の思い通りに事が運ぶとは思わなかったのだ。シスターは意外に権力を持っていたのかもしれない。
「アク、どうしたの。悪い顔をしているわよ」
エリスがアクの顔を覗き込んでくる。アクはそんなエリスが可愛くて抱きしめる。
「嬉しいことがあったからね」
「本当にどうしたの?嬉しいこと、良いことがあったの?」
「良いことかな。でも、俺が考えている世界的にはよくないことだね」
「どっちなの?」
「セントセルス神興国が、バンガロウ王国へ警告と、アース大陸への亜人種討伐を宣言したんだ」
アクの言葉が理解できないエリスは、何を言われているのかわからなかった。
「はっ?」
「それだけじゃない。カブラギ皇国がルールイス王国に戦争を仕掛けたらしい」
「へっ、カブラギ?ルールイス?」
「世界が乱世を迎えようとしているよ、エリス」
「アク、それがいいことなの?」
アクの言葉に心優しいエリスは悲しそうな顔をする。だが、アクの計画のためには混乱が必要なのだ。
「戦争はよくないことだよ。でもね、アースに住む獣人達との交流を持つためには邪魔なセントセルス神興国には無くなってもらわなければならない。それに、アースの人たちと仲良くなるためには共通の敵がいた方がいいだろ」
「あなたの考える事ってとんでもないわね。相変わらず酷いことをするのね」
エリスはアクの話を聞いて、信じられないという顔をしている。
「この世界の垣根を取っ払いたいだけだよ。異世界っていったら異種間交流が基本だからね」
アクの抱く異世界のイメージに近づけるため、アクはなんでも利用する。
「手紙の相手は誰なの?」
「グラウスだよ」
「兄さんが?」
「ああ。あいつは今も変わらず俺に情報を持ってきてくれるからな」
「はぁ~兄さんは仕える主君ができたとか喜んでいるんでしょうね」
エリスが溜息を吐く。自身の兄の変わり者っぷりを思い出したのだろう。
「世界は変わる。俺が変えるよ」
夢見る少年のような顔をしたアクに、エリスも戦争が起きようとしているのに大変なことに思えなくなってきていた。エリスと話をした翌日に、ケルイからの使者として三人の若者がフェアリータウンにやってきた。
「赤猿族の使者として参りました。ミルイと申す」
フェアリータウンの門の前で口上を述べるミルイに、朝から作業をしていたピピンが相手をする。
「これはこれはご丁寧に。私はドワーフですが、マスターに協力している者でピピンと申します」
ピピンは自己紹介をしながら門を開ける。ミルイの他にマルイ&スルイも使者としてやってきたようだ。
「アク殿に御目通り願えますでしょうか?」
ドワーフのピピンに、ミルイが驚くことはない。ピピン以外にもルーやシーラ、ヨナと面識のあるミルイは、アクが他種族に関係なく接していることを知っているのだ。
「大丈夫だと思いますよ。多分マスターは村長室にいると思います」
フェアリータウンも少しずつではあるが形を変えつつあった。
中央に建てられた建物にはアクとエリス、そして七人の少女が住む。引き取った孤児達は、盗賊達が暮らしていた大きな家にベッドを置き、まとめて暮らしてもらっている。
ゲオルグとダントの家族が住んでいた建物は、小さいのでピピンの作業場と、アクの執務室として使っているのだ。少女達は執務室を村長室と呼んでいる。
ピピンの案内で執務室として使われているゲオルグの家にやってくる。ミルイ達が案内され、アクが机に置かれた書類から目を上げる。
「来たか、やっぱりミルイ達が来たんだな」
「全てわかってたと言うことかい?」
「そうだな。面識があるミルイ、マルイ、スルイの方が接しやすいと、ケルイも判断したんだろう。それにケルイを除いて真面な戦闘が行える者も少ないのだろう」
「それがあんたの本当の顔かい、あんたはどこまでわかってるんだ?」
ミルイは前回、アクが笑顔で丁寧に話をしている姿と、今の全てを見透かす姿を比べる。
「さぁ?使者として来たのだろ。ケルイから何か預かってないかい?」
ミルイは言われるがまま手紙を差し出す。紙には何も書いてはいない。本来紙など扱っていない獣人の彼らに手紙などという概念はない、文字すらあるか疑わしい。アクは口頭で話した内容を受ける時は、使者を立て紙を持たせるようにいってある。使者が留学生、手紙が承諾の意味を表す。
「ミルイ達はフェアリータウンで暮らしてもらう。もちろん、ここの発展に協力してもらうが、その代わり赤猿族への支援をすることを約束する」
ミルイ達は最初からわかっていたのかアクの言葉に頷く。アクは転移を使い、すぐに赤猿族の村に行き、ミルイ達が来たことを伝えて、代わりに食料を提供する。アクの突然の訪問にも驚く事無く、ケルイは承諾する意味を込めて、アクと握手を交わした。そしてアクは赤猿族村への訪問を許可される。
異種間交流の第一歩を踏み出した。
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