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探検者になります8

アース大陸、領土境界線


「人間族が、どうして堂々と我らの土地に入ってくるんだ」


 赤猿族族長 ケルイの報告を受けて各部族の族長たちが集まっていた。その中で、狼族の族長が怒鳴り声を上げる。


「ケルイ、どうして人間と戦わなかった。お前たちも戦闘では人族などに後れを取ることもあるまいに」


 赤猿族の族長を睨む、十の族長達。

 

 龍人族(水龍族、火龍族、風龍族、土龍族)、妖狐族、黒猫族、青狼族、精霊族(エルフ族、ドワーフ族)他にも多くの族はあるが、現在同盟を結ぶ、十一の族長達が集結していた。


「そうだな。俺の娘の命を救っていなかったら戦っていたかもな」

「はっ、人間なんぞに助けられるとは情けない」


 ケルイの言葉に反応するのは青狼族の族長ヒューイである。赤猿族と青狼族は縄張りが隣同士ということもあり、何かと争いをおこしている。そのため昔から犬猿の仲なのだ。


「そうかもな、俺達はあいつに勝てるとは思わなかった」

「「「「「「「なっ!!!」」」」」」」


 ケルイの言葉に、青狼族以外の族長も驚きを隠せない顔をする。赤猿族は決して弱い種族ではない。先の大戦でもかなりの活躍を見せ勇猛であった。


「最強の我々が勝てぬと申すのか?」


 龍人族は温厚ではあるが、それは強者であるという余裕があるからだ。その余裕を砕く言葉を放ってはおけない。


「さぁな。龍人が勝てるか勝てないかわからない。ただ俺は勝てないと思ったということだ」

「怖気づいたか、ケルイ」


 意外にも青狼族長が心配するように問いてくる。犬猿の仲であるが故に互いの力を理解しあっている。


「そうかもしれん。ヒューイ、俺は初めて勝てぬ相手に出会った」

「お前ほどの勇猛な男に、そこまで言わすか」


 ヒューイと呼ばれた青狼族長は一番、ケルイのことをわかっている。若いころから喧嘩ばかりで仲が悪く、何度もぶちかって来たからこそ分かり合える強さがある。ケルイは戦いを放棄する男ではない。ヒューイはそう信じていた。いや、むしろ自ら戦いを望む男だと思っているぐらいだった。


「ヒューイ、お前も会えばわかる」


 その言葉を最後にケルイは何も言わなくなった。族長会議の結論として、今は様子を見ると言うことが決まった。ケルイは自らの発言に困惑していた。どうして自分は勝てないなどと言ったのだろうか?本当にそんな事を思ったのかすらわからない。


 族長会議が終わり、自問自答しながら暗闇に包まれた夜の森の中を抜ける。村への帰り道、ケルイは背筋に寒気を覚えた。夜の森が怖いなど初めて思った。


 スッと影が動く。


「また会いましたね」


 影は黒いローブを来ていた。


「お前!」

「皆さんの話し合いを聞かせて頂きました。ご紹介いただきありがとうごいました」


 黒いローブは明るい場所であった時と同じく、笑顔で丁寧な言葉を使う。


「俺達をどうするつもりだ?」

「話しましたよね、あなた達と交流を持ちたいだけだと」


 黒いローブに暗闇で瞳は見えない。ケルイは恐怖からなのか、体が震え始めていた。


「どうしてこんな夜に?」

「別に、貴方が一人になるのを待っていただけですよ」

「ずっとつけていたのか?」

「いえ。魔法で監視していただけです」


 男の言葉にケルイは恐怖と同時に理解した。この男に出会った時から、自分は逆らうことはできなくなっていたのだ。


「なるほどな」

「私と交渉しませんか?」

「交渉?」

「はい。赤猿族と私達フェアリータウンの村との交流を持つという交渉です」

「それで俺にどんなメリットがある?脅しはきかねぇぞ」


 族長を務める以上、決して勝てなくても相手に屈するわけにはいかない。


「メリットですか、あると思いますよ。まず人と交流することで、あなた達は領土拡大や人の世界を知ることができます。今より危険な場所で過ごす環境を改善できます」

「領土拡大?環境改善?どういうことだ?」


 黒いローブは意外そうな顔で、旨い話を持ち掛けてきた。


「あなた達は領土拡大をしたいと思ったことはないんですか?木の上に作った村は何のためですか?危険から逃げるためでは?村を守るための食料の確保はできていますか?」


 ケルイは黒いフードの男の言葉に驚きを感じていた。男が言った言葉はすべて村にとっての問題点だった。


「お前がどうしてうちの村の問題点を知っている?」

「別に見て思った事を告げただけですよ」

「俺はお前を見たとき、お前になぜか勝てないと思った。戦えば負けない自信はある。だが、それでも勝てないと思ったんだ」

「そうですか」

「……その交渉、受けよう。我々赤猿族は今よりフェアリータウンと同盟を結ぶことを誓う」


 ケルイは片膝を突き、両手を頭の上で合わせる。赤猿族の誓いのポーズだそうだ。


「ありがとうございます」

「それで、どうすればいい?」

「そうですね、留学生として何人か我が村に来ていただけませんか?」

「人質と言うことか?」

「別に深く考えないでもらえるとありがたいです。あなた達から留学生が決まり次第、食料をお送りします。もし住まいの改善を望まれるのでしたら、それもお受けします」

「まずは村の者と話したい。返事は三日後村に来てくれ」


 ケルイは族長としてこの話を決めた。反対するのは長老達ぐらいだろう。帰り道の間、長老たちをどうやって説得するのか、話を進める算段を立てていた。


「では、よい返事を待っていますね」


 黒いフードの男はスッと現れた時のように影の中に消えて行った。先程までの寒気はなくなり、新たなことへの挑戦がケルイの心を震わせていた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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