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盗賊になります3

名前考えるの難しい(TT)

 アジトは森の中にあり、少し開けた草原に小さな村が作られていた。掘立小屋が十軒ほど建てられていて、一際大きな小屋にお頭が入っていくので阿久井重アクイ シゲルことアクは付き従った。


「ようこそ我らがシルバーウルフ盗賊団本部へ。お前で五十番目の団員だ」


 小屋の中は何も置かれていなかった。屋根があるだけの広間で、盗賊達の集会場になっているらしい。奥が少し高くなっていて、ゲオルグが一段高い場所に立って両手を広げながらアクを迎え入れる。


「どうだ、盗賊団と聞いたから山の洞窟とかをアジトにしてると思ったんじゃないか?」


 アクは実際そうだと思っていた。何より掘立小屋とはいえ、村を作っていることに驚いた。ゲオルグがアジトだと自慢するもの頷ける。


「確かに洞窟を想像してました」

「そうだろそうだろ」


 ゲオルグは悪戯を成功させた子供のように、してやったりという顔で笑っていた。


「俺達も初めてここに来た時は驚いたもんだよ」


 サントンがアクを庇うように言うが、顔は笑っている。


「ここはな、昔は村があったんだが、獣人との戦争の時に放置された村なんだよ。建物自体はそのままじゃ使えなかったから俺とダントが修理した」


 ダントというのは盗賊団の副団長だと紹介された。ゲオルグの話を要約すると、最初はゲオルグとダントで盗賊として旗揚げした。

 次第に二人を慕う、ならず者や奴隷、他の村で爪弾きにされたはみ出し者が集まるようになり、ここまで大きくなったということらしい。


 ダントはゲオルグと違い。スマートなナイスミドルで、現代にいればスーツを着て、どこかの社長をしていそうな落ち着いた人物だった。

 他の盗賊達も仲間には陽気で、気さくに話しかけるので居心地がいい。盗賊団の事を考えているうちに難しい顔をしていたようで、サントンに声をかけてくる。


「おいおい、アク。記憶がないからって悲観するなよ。俺には学はねぇけど、こんなにも楽しく生きてるんだからよ」


 サントンに励まされた。サントンが盗賊団に入ったのも、ゲオルグに命を救われたのがきっかけだったらしい。彼らシルバーウルフ盗賊団は義に篤く、捨てられた者、行き場のない者を見捨てておけない。

 ゲオルグの人柄がよくわかる。それは盗賊団のメンバーにも根付いている。


 お頭をしているゲオルグは連邦の傭兵をしていたが、連邦のやり方が嫌いになって、傭兵をしているのが馬鹿らしくなり、盗賊に転職したらしい。アクが考えていた傭兵をしていそうは間違っていなかった。

 ゲオルグは一人で盗賊稼業をしようかと思ったが、共に傭兵をしていたダントが協力してくれるというので、二人で旗揚げすることにした。


 腕の立つゲオルグをリーダーにして、副リーダーのダントがゲオルグがいないアジトの留守を守っている。ダントは近接戦闘では役に立たないが、火の魔法が使えて、集団戦において魔法攻撃する戦闘を得意としている。

 さらに人をまとめる才能があり、盗賊団の舵取りは、ほとんどがダントが取り仕切っている。現在の盗賊団の総人数は五十人にも及ぶが、しっかりとまとめられている。


 集会場を出て、サントンに寝泊りをする場所まで案内してもらう。


「サントンは明るいな」

「おいらの取り柄だからな」


 サントンは親指を立ててポーズを決める。サントンは正直バカだ。字も読めない、計算もできない、難しい言葉もわからない。

 だけどサントンは明るく人がいい、何より人徳がある。根が明るいのでムードメーカーになり、誰にでも分け隔てなく接するので慕われている。

 盗賊団の中で、いつの間にかダントに次ぐ若頭の役目を務めるようになっていた。サントンは幹部になっても陽気なので、他のメンバーが年上でも可愛がられており、年下からも慕われている。


「アクはまた難しい顔してるぞ」

「これは生まれつきだ。そんなことより、今日は夜に集合があるらしいな」

「誰から聞いたんだ?」

「お頭からだ。何の話だろうな」

「おいらにわかるかよ」

「確かに・・・」

「否定しろよ」


 サントンが何か言ってるが無視する。サントンのノリ的に作戦を考えたりする頭はないのだろう。三トンのことを理解し始めたことで、アクは即答で返したのだ。

 夜になり、集会場に行くとアジトにいる盗賊達のほとんどが集まっていた。人が多くいることで、窮屈な集会場の最後尾を陣取った。


「皆、集まってるか?」


 ゲオルグが集会場に入ってきて、一段高い壇上に上がる。


「お前らに集まってもらったのは、これからの俺達についての話をするためだ」


 ゲオルグは真剣な顔で、五十人に増えた盗賊団の面々を見る。五十人の中には、女性も居れば、子供もいる。盗賊団の集会と言うより、村の集会と言われた方がしっくりくる。


「俺達はデカくなり過ぎた。山で生活するのにも限界を感じている」


 ゲオルグが話している横には、ダントとサントンがいて、シナリオはダントが書いているのだろう。


「そこで山を下りて村を襲うことにした。新たな拠点を手に入れて、今よりもデカくなってやろうと思う。反論のある奴はいるか?」


 ゲオルグの重大発言に、やっと来たかと言う感じで、それぞれやる気に満ちた顔をしている。入団初日で大がかりな引っ越し話と村襲撃の話に、アクはどう反応していいかわからないでいた。


「異論のある奴はいね~な!じゃ準備ができ次第、戦える奴は山を下った先にある。クック村を襲うぞ。準備に取り掛かれ!野郎共、いくぞーー!!!」

「「「おおおぉぉぉぉおおおおーーーーーーーーーーー!!!!!」」」


 歓声に圧倒され集会場から出ていく盗賊達の後ろ姿を呆然と見送ってから、アクは外に出た。集会場を出て、盗賊のアジトから少し離れた岩場に来やってきた。


 これからのことを、一人になって考えたいと思ったのでここを選んだ。考えなくてはいけない。まず考えなくてはいけないのは、ブラックホールの中に吸い込んだ八人をどうするかだ。このまま放置するのもなんだか気が引けるし、正直生きた人を保管している自分が怖い。

 前にマルーモがしてくれた転移の実験体になってもらおう。自分でやって、失敗したせいでまた変なとこに跳びたくないしな。ブラックホールから装備と財布を取り除いた一人の人間をリリースする。

 

 馬車に乗っていたオッサンが、ブラックホールから出てきた。


「ヒィィィィ!!!盗賊達が!!!」


 オッサンは悲鳴を上げながら出現する。


「おい、オッサン。状況を説明するから落ち着け」

「へっ?あなたは誰ですか」


 オッサンかと思ったが意外に若い。小太りだが、顔はどこか幼いような気がする。


「俺はアク、あんたを助けた者だ」

「助けた?」

「あんたは盗賊達に襲われていただろ?それを俺の魔法で助けた」

「あなたは魔法使いなのですか」

「まぁ、そうだな」

「じゃ私といた者達は、娘は生きていますか?」


 オッサンはアクの服の袖を掴み必死に娘のことを訪ねてくる。


「生きている。だけど、今は会えない」

「そうですか……」


 若い顔したオッサンは落胆したように肩を落とす。


「オッサン。今からあんたを街に転移させる。銅貨1枚は渡しといてやるよ。ていっても元はオッサンのだけどな」


 そういってブラックホールから銅貨1枚を出して渡す。これを持って街に行くこともできたが、ここにいた方が居心地がいいと思えたのだ。


「あなたは誰なんですか、なんで助けてくれるのですか」

「俺はアクだ。名乗ったろ?あんた商人だよな?」

「はい、商人です」

「名前は?」

「エビスです。エビス・アルフィードと言います」

「エビスね……」


 聞き慣れたエビスという日本名に、馴染み深くて親切心が湧いてきた。


「オッサン……娘がいるって言ったな?」

「はい!!!」


 エビスは娘という言葉に反応して大きな声を出す。


「うるさい。まぁいい……娘を取り戻してやる。その代わりに、俺に商売を教えてくれ。なぁに教えるといっても、少しの未来で俺と商売をしてくれればいい」

「本当に娘を取り戻してくれるんですか?」

「ああ」

「なら、約束します!!!」


 エビスは深々と頭を下げた。デカい腹を地面に擦り付けて平伏する。


「簡単だな、嘘をついたら許さないぞ」

「もちろんです!!!娘を助けて頂けるならいくらでも協力します。よろしくお願いします」


 エビスがもう一度、深々と頭を下げる。


「おう、じゃ行くぞ。俺が知ってる街はバンガロウ王都だけだからな。そこに送るぞ」

「はい、丁度私の店があります」

「へぇ~丁度いいな」

「はい」

「じゃいくぞ」


 俺はマルーモがやっていたことを思い出す。まずブラックホールと同じで、黒い球体をイメージして出現させる。王都の門に飛ばすため、一度行った景色をイメージする。

 次にエビスをブラックホールで包み込む。魔法を完了させブラックホールが消滅したとき、アイテムボックスに入れる感じとは違う感覚を受けた。

 成功したかとブラックホールを解いたとき、一瞬だけ街の門が見えた。なんとか成功したことに満足して、アクも集中を解く。


 ブラックホールよりも慣れないので、練習よりも緊張したが何とか成功しただろう。


「そこに誰かいるんですか?」


 魔法に集中していて人の接近に気付かなかった。



読んでいただきありがとうございます。

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