探検者になります4
起きたミルイは不機嫌そうにしていたが、チラチラとアクを確認している。視線は向けるが、先ほどのように突っかかってくることはなかった。むしろアクの横に並んでくる。
「それで、どうして村に行くんだ?」
アク達は赤猿族の村に向かって歩いている。歩いている途中で、話を聞いていなかったミルイがアクに話を振ってきたのだ。
「私達は探検隊でね。アース大陸を旅をしているところなんですよ。原住民の方とお近付きになりたいと思いまして」
「赤猿族は人間族が嫌いだから、多分無理だと思うぞ」
「マルイさんからも聞いたのですが、会ってみないとわからないじゃないですか?」
アクはミルイの話の間、ずっと笑顔で敬語を使っている。これをすることで、ミルイは妙な威圧を受けている。アクが何を考えているのかわからない、笑顔が何だか不気味で話し方が気持ち悪い、それでも逆らえない。アクの力量を体感したミルイは勝てない相手には逆らわない、逆らえないのだ。獣人族の共通の掟として弱肉強食が挙げられる。
強い者が全て正しいのだ。
「まぁ好きなようにすればいいさ。私らはあんたを連れて行ったら姿を消すからね」
「どうぞお好きにしてください」
アクの心の中ではミルイの事はどうでもよくなっていた。異世界冒険を満喫中なので、心はワクワクして興奮しっ放しだった。奴隷にしている少女達以外の獣人達に会えたことが嬉しくて、何より獣人の村に行けると思うだけで、異世界に来たと言う実感が湧いてくる。
化け物と戦い、獣人や精霊族など異世界にしかいない者達と交流する。アクが望んだ冒険が目の前に広がっている。
「隊長なんだか嬉しそうだね?」
ルーが隣を歩くシーラに話を振る。
「そうね、そんなにお猿さん達に会いに行くのが嬉しいのかしら?」
「どうせ猿なんて我儘な奴ばっかりなのにね」
「ふふふ、本当にルーはお猿さん達が嫌いなのね。それとも隊長を取られるのが嫌なのかしら?」
「隊長は関係ないでしょ。隊長はエリスのものなんだし、確かに猿達は大嫌いだけど、何でと聞かれたらわからないや。気に食わないって言うのが本音かな」
「まぁそういう事にしといてあげる」
シーラの反応にルーは釈然としないものを感じながら息を吐く。二人は最後尾を並んで歩いている。先頭を歩くマルイ、スルイ、次にミルイ、アク、ヨナと続く。ヨナは相変わらずアクの袖を掴み、フードを被ってアクの後に続く。
「着きましたぜ」
マルイが指さす方を見るが何もない。あるのは馬鹿デカい木があるだけだ。
「上ですよ」
スルイに言われて上を見る。木の上に家が並んでいた。流石は猿の家だと納得してしまう。数が多いわけではないが、村というぐらいの数の家が木の上にあるのを確認できる。
「どれくらい住んでいるんですか?」
「五十人ぐらいかな?」
アクの質問にミルイが答えてくれる。
「ここまで案内したからいいだろ?」
ミルイが聞いてきたので、アクが頷く。ミルイはマルイ&スルイに「行くよ」と声をかけるが、二人は首を横に振る。
「なんだ、私の言う事が聞けないのか?」
ミルイが二人に怒りをぶつける。
「姉御、すまねぇ。ワッシはアクの旦那を最後まで案内するつもりだ。スルイも同じ考えだ」
「何を、お前たちは私の手下だぞ」
「ああ。それに変わりはないですぜ。でも、アクの旦那は命を助けてくれた。それに姉御よりも強いことを証明もした。その相手に敬意を払わなかったら、俺達の矜持を否定することになる」
「ちっ、勝手にしな」
ミルイは二人を置いて去って行こうとは考えていないようで、腕を組んで不機嫌そうにしている。
「アクの旦那、族長を呼んでくるから待っててくれ」
ミルイは何も言わずにマルイを睨み付ける。マルイは一度ミルイを見た後、スルイと共に行ってしまった。
「ミルイはいかないのか?」
「アタシに話しかけんな」
不機嫌なミルイは取り合ってもくれないので、アクは時間つぶしにヨナの頭を撫でた。先ほどの化け物を倒した褒美を与えていなかった。ヨナは食べ物や、何か物を与えるよりアクが頭を撫でると喜ぶので、いつも頑張った時はそうしている。ちなみにシーラは「よくやった」と声をかけるのが嬉しいらしく、
ルーは肉をあげると喜ぶ。
単純な彼女達にアクは助かっている。ヨナが頭を撫でられて気持ち良さそうにしていると、マルイがデカい猿。むしろゴリラ?に近い男を連れてきた。ゴリラみたいな見た目だが、毛だけは赤い。確かに目の辺りとかがミルイに似ている気がする。
「キキキ、お前が人間族か、我らが同胞を助けていただいた事には感謝する。赤猿族族長 ケルイの名において礼を述べる。しかし、村に入れることはできぬので、このままお帰りいただくとありがたいのだが?」
男は見た目に反して高い声で話してくる。ケルイの声に笑いそうになるが、何とか我慢する。
「アクと言います。村を見せて頂いただけでもありがたいことです。中に入れていただけないのは仕方ないと思います。それで一つお願いがあるのですがいいでしょうか?」
男は腕を組み首を捻る。言ってみろという事なんだろう。
「ここは赤猿族しか住んでいないのですか?他の種族の方は住んでおられないのですか?」
アクはケルイに他の部族にことを教えてほしいと言っているのだ。
「うん?この辺は我らの縄張りだからな、住んでいるのは我ら赤猿族のみだ。ただ、南に下れば、青狼族の奴が住んでいるから、普段は縄張り争いをしている。さらに東の山にはドワーフ族が、西の湖には水竜族が暮らしておる。どちらも大人しい種族なんで争いはないな」
ケルイもそれをわかったのか、アクの質問の答えを返す。
「ありがとうございます。これで目標が出来ました」
「貴様等は他の場所にもいくのか?」
「はい。できれば我らが通るときは見て見ぬふりをしていただければ助かります」
「それがお主らへの礼となるのだな?」
「はい。それでかまいませんよ」
アクは常に笑顔で敬語『スタイル』を崩さない。そんなアクに、ケルイは警戒を解けないでいる。マルイからくれぐれも粗相のないように頼まれているので、相手を試そうかと思ったが我慢した。
「今度ここを通るときは手土産を持ってきますので」
「できれば二度と来てほしくはなのだがな」
ケルイは警戒していると言うのを、隠そうともしないで言葉を返す。
「親父、仮にも私の命の恩人だよ」
ケルイの態度にミルイが切れる。どうやらミルイは結構短気らしい。
「私も族長という立場がある。確かにバカなお前達を救ってくれた恩人だとは思っている。しかし、所詮は人間族、我らと相容れることはない。何よりお前よりもこちらの御仁のほうが、それを理解しているようだが?」
ケルイに言われてミルイがアクを見る。アクは変わらず笑顔で事の成り行きを見ていた。
「ミルイさん。私たちのために怒っていただきありがとうございます。でも、今すぐ確執を改善できるとは思っていないので、今日は引き取ります」
「まぁあんたがそういうなら、私は良いけどね」
アクの態度に、握りしめた拳を引っ込めて顔を背ける。若干顔が赤いような気がするが、気にしないでおこう。
「キキキ、アクと言ったか、お前は食えない奴だな」
「よく言われます」
ケルイの言葉にアクは意味深な笑みで返す。アク達は赤猿族と別れて、転移を使って家に帰った。野宿も良いかと思ったが、デカいモンスターの存在と、原住民がいるところでテントなど張っては、警戒されるだけだろうという思いで帰ることにした。
但し目印は作っておいたので、いつでも来られるようにしてある。
「どうだった?」
「ダメだ、奴らいきなり消えた」
「人間族と魔族が使う魔法だろう」
赤猿族も、アク達の動向を追いかけたが、相手に転移が使えることを知って諦めた。
「厄介な者達が現われたな」
一人の老猿が告げる。
「ああ。アースも変わろうとしているのかもしれんな」
年老いた長老達にケルイがそう告げて建物から出る。ケルイはこれから起きるであろう出来事について考える。
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