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閑話 その他の勇者達21

 白雪シラユキ シズクは城の中に軟禁されている。半年前七つの頭を持つ大蛇を討伐して戻ってきた、雫にもたらされた話は信じられるものではなかった。


「すまぬ。雫。約束を果たせぬ」


 雫から帰還の報を受けて、アヤメ姫は震える心を奮い立たせ、土の勇者をカブラギ皇国に招待することを決心した。

 その旨をルールイス王国に送ったところ、返ってきた返答は、土の勇者 金剛コンゴウ マモルの死を知らせる書状だった。しかも内容が土の勇者が暴走し、それを止めようとした光の勇者と共に消滅したと言うのだ。アヤメ姫の中で優しく笑う雫の姿が音を立てて崩れていった。それと同じくして、やはり土の勇者は危険な存在だと言う認識が膨れ上がった。


 暴走するような勇者を我が国に入れなくてよかったと心の底で思ってしまった。帰還を果たした雫に告げられたアヤメ姫の言葉に、雫は泣き崩れた。さらに心を感じることができる雫にとって不幸がもう一つあった。心の中で安堵するアヤメ姫の心を感じとってしまったのだ、悪気がある訳ではない。

 しかし、好きな人が死んで安心している人がいると言う事に耐えられず、雫は暴走寸前までいくほど錯乱した。雫の暴走は水の魔法の暴走、それを絶貴ゼツキ玄夢ゲンムの二人掛かりで受け流し力が止まるまで耐え抜き意識を失った雫を取り押さえることで収めることができた。


 アヤメ姫は雫への申し訳なさと恐怖で、その場から一歩も動くことができなかった。幾日も雫は深い眠りにつき、大蛇はその傍らで人の姿で眠っている。

 そして半年が経ち、雫は日の半分を起きられるまでに回復はしたが、その身体はやせ細り、病人のようくに弱々しいものになっていた。そんなある日、雫がアヤメ姫への謁見を求めた。


「私の謁見を許していただきありがとうございます」


 弱々しく、立っているのもやっとと言う感じで、アヤメ姫の前に座り頭を下げる。


「よい。そんなことより体は大丈夫なのかえ?」

「はい。むしろ今は清々しい気分です」

「それはよかった。」


 アヤメ姫はホッと胸を撫でおろす。自分は約束も守れず、民を守ってもらったにも拘わらず何も返せないのではないかと不安に思っていた。


「それで、今日は何用じゃ。息災を知らせるためにきたのか?」


 アヤメ姫は雫が前のようにアヤメちゃんと呼んでくれることを期待していた。仲が良い友達に戻りたいと思っていた。


「はい。今日はお願いがあってまいりました」

「願い?なんじゃお主と我の中ではないか、遠慮せずいってたもう」

「では、遠慮なく。ルールイス王国と戦争していただけませんか」

「はっ?」


 アヤメは雫の言葉に何を言われたのかわからなかった。


「どうしても私はルールイス王国の王族が許せないのです。私達を無理やりこの世界に誘拐しただけでは飽き足らず、帰す努力もせずに只々私達を利用しようとしました。そしていらなくなったら命を奪う。そんな国を滅ぼしたいのです」

「ちょ、ちょっと待て、シズク。何を言っておるのかわかっておるのか?」

「もちろんよ。アヤメちゃん」


 それはアヤメ姫が待ち望んだアヤメちゃんという響きではなかった。雫の後ろに恐ろしいものが見えるようだった。


「できぬ、できぬぞ。民達に無駄な血を流させることはできぬ」


 雫の申し出にアヤメ姫はなんとか言葉を返す。言葉を返す内に力を増していく、強く拒否することができた。


「そう、残念ね。一度ならず二度も約束を破るのね」

「二度?いつ我が約束を破った」

「アヤメちゃんは言ったじゃない。私が大蛇を討伐してきたらどんなことでも水の勇者に協力するって」

「なっ。確かに我は言ったが、戦争は規模が違いすぎる」

「そう。別にいいわ。アヤメちゃん。私は国を出ます。ルールイス王国に行って王族を皆殺しにしてくるわ」

「そんなことさせられるわけがなかろう」


 雫を何とか思い止まらせようと、アヤメ姫は声を荒げるが、雫は涼しい顔でアヤメ姫を冷たく見つめていた。


「あなたに私を止める権利はない」


 それは雫からの完全な拒絶を表す言葉だった。


「少し考えさせてくれ」


 打ちひしがれたアヤメ姫はそれだけしかいう事ができなかった。


「わかったわ。部屋に戻ります」


 すんなりと意見を取り下げ身を引いた雫に、居合わせた全員が怪訝な表情をした。


「うむ。そうしてくれると助かる」


 そういうと雫は立ち上がり、その後に白い髪をしたオロチが続く。雫が部屋から出るのを確認して、絶貴、玄夢、そして大老を務めている爺に話しかける。


「どうすればいいのじゃ?こんなことになるとは」

「なりませぬぞ、姫様。今の水の巫女様は錯乱しておられる」


 爺が言うが、絶貴と玄夢は顔を見合わせる。


「姫様。よろしいでしょうか?」

「なんじゃ?絶貴?」

「はっ、多分ですが、水の勇者殿は本気です。彼女はそれを可能にする。意志と力を持っていると私は思っています」

「それほど雫はすごいのか?」

「はい。我らでは束になっても叶わぬほどに、水の勇者殿は強くなられてしまわれた」


 玄夢も同じように頷く。


「むむむ」


 どんどん、扉が強くたたかれる。


「ご報告したいことがあります」


 紫苑が扉の向こうで叫ぶ。


「なんじゃ騒々しい」

「水の勇者が逃げました」

「なっ!」


 紫苑の報告にアヤメ姫は恐ろしいことが起こると背筋に冷や汗が流れた。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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