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閑話 その他の勇者達19

その男が部屋にいるだけで、他の者は何かわからない震えに見舞われる。


「あの~お客様、ご注文はどうされますか?」


 男は貴族風のスーツを着込み、優雅に椅子に腰かけていた。


「そうだな。コーヒーをもらえるか?」

「ホットになさいますか、アイスになさいますか?」

「ホットで」

「承知しました」


 ウエイターは震える声でオーダーを取り終え足早に席を離れた。


「ランド、大丈夫?」


 アリスも何が大丈夫かわからないが、聴かずにはいられなかった。


「どうかしたか?」


 ランドは何を聞かれたのかわからずに聞き返す。


「ううん。わからないならいいの、私もあんまりわからないし」

「そうか、まぁアリスがいいならそれでいいんだが」


 ランドとアリスは荒野の村ではなく、アスガルト共和国の中心都市に来ていた。巨大ホーンカルナフを倒したランドを見た村人は彼に恐怖した。ホーンカルナフを倒した後のランドには、今までと違うところがあった。それは纏う雰囲気が今までは違うのだ。


 ゴーレムが砕けてランドが出てきたとき、ランドの上半身は裸で、体中が傷だらけになり鍛え抜かれた体が見えていた。さらに纏っている殺気と呼ばれる雰囲気に、村人は腰が抜けて立てなくなった。

 アリスも村人と同じように腰を抜かしていた。村人は何も言わなかったが、このままではランドは嫌な思いをして村から追い出されてしまうかもしれない。そうなったらこの人はどうなってしまうんだろう。アリスの中ではランドが人を殺すイメージしか湧いてこなかった。


「ねぇ、ランド、記憶を探す旅に出ない?」

「記憶を探す旅?それは出たいけど、君はこの村にいないと」

「ううん。いいの、私はランドについていきたいの」

「そうか、助かるよ」


 ランドの周りには、相変らず殺気が渦巻いていて、アリスも体は震えていたが、放っておくことなんてできない。


「アスガルト共和国を旅すれば何か見つかるかも知れないわ」

「アスガルト共和国?」

「そう、ここはアスガルト共和国よ。荒野と広大な河のある国、アスガルト共和国」

「そうか、すまない。国の名前を聞いても何も思い出せない」

「いいのよ。少しずつ頑張りましょう」


 二人が旅を初めて色々な村や街を回った。しかし、ランドの記憶を取り戻すことはできなかった。旅をしている内にランドとアリスは冒険者となり、さらにランドの力はそうとうに高くなった。冒険者としてある程度の地位を確保するにいたった。


 二人の前に、ウエイターが持ってきたホットコーヒーが置かれる。現在二人はアスガルト共和国中心都市であり、国の名前にもなっているアスガルドに来ていた。


「お待ちしました」

「ありがとう」


 二人に礼をしてウエイターが下がる。周りの客は立つことも動くこともできずに、その男が去るのを待った。


「Sランクおめでとう、ランド」

「ああ。意外に簡単になれたな?」

「普通は簡単じゃないと思うわ。この半年色々な依頼を成功させたのは凄いけど」


 アリスはランドの殺気が人に向かないようにと、モンスター討伐任務を率先して受けた。そして半年かけてランドはSランクに、相棒のアリスはAランクになっていた。


「ここまでこれられたのもアリスのおかげだ」

「じゃ、そろそろ殺気を収めてくれない?苦しいわ」


 この半年、何もしていなかった訳ではない。ランドに殺気の事を話し、制御できるように訓練した。ランドの殺気に一番触れているアリスは、ランドの殺気を耐える耐性ができ、他のモンスターを見ても怖いとすら感じなくなっていた。


「そうか?アリスには関係ないだろ?」


 ランドは殺気を敢えて纏うようにしている。旅の中、ランドもアリスも何度も命の危機があった。それはモンスターだけのものではなく、人からの方がむしろ多かったのだ。


「それでもよ。今はお茶の時間、ゆっくりしたいの」

「わかったよ」


 ランドが言うと殺気は収まり、辺りに息を吐く声が多数聞こえてきた。


「そんなんだから変な二つ名がつくのよ」

「あれは人が付けたものだから仕方ないだろ」

「死と眠る者ってどんな二つ名よ」

「アリスだって死を愛す者じゃないか」

「私は完全にランドのせいでしょ」


 アリスに怒られてランドは黙る。他の者からすれば不思議な光景だろう。この半年でさらに膨れ上がった体は、完全に強面の冒険者で、先程までの殺気も踏まえて恐ろしさしか感じないのに、隣に座る少女の言葉にタジタジになっているのは奇妙なものだ。


「次の依頼を完了したら、次の村に行くぞ」

「ええ。そうしましょう。あまり長く滞在してもいいことなんてないもの」


 ここまでの旅で、嫌と言うほど二人はそれを実感してきた。


「ちょっとよろしいか?」


 そんな二人に初老の男が声をかけてきた。


「うん、俺達が冒険者だと知って声をかけてるのか」

「もちろんです。死を操る二人ですね」

「その通り名は好きじゃねぇけどな」

「これは失礼しました」

「それで、何か用かい?」

「依頼を受けてもらいたい」

「依頼?」


 二人の素性を理解した上で話しかけてきた初老の紳士に、ランドは興味を持った。


「はい。家の娘を護衛していただきたいのです」

「娘の名前はドロップと言います。水の魔法使いで、今度ルールイス王国にある魔法学校に行くんですが、それまでの護衛を頼みたいのです」

「どうして俺達に?」

「この辺で一番の冒険者と言えば、あなた達だ。あなた達が護衛をして死んだ者はいない。逆にあなた達に狙われて生きていた者もいない。これ以上に娘の護衛があるろうか?」


 男は真摯な目で二人に頼んでいることがわかり、アリスがランドを見る。ランドはアリスの態度を確認してから返事をした。


「良いぜ。本来ならギルドを通して受けるもんだが、そろそろアスガルドから出ようと考えてたところだ。その依頼は個人的に受けてやるよ」

「おお、そうですか、助かります」


 男は喜びランドの手を取り強引に握手をしてきた。ランドの頭の中で二つの事が響いていた。


【水の魔法】、【ルールイス王国】


 何かわかるかもしれない。それは自分にとって重要な気がした。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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