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盗賊になります2

 アクイは街の門番とのやり取りを思い出しながらどうしたものかと考えながら元来た道を戻った。マルーモがいてくれるので寂しくはないが、このまま誰とも会わずに生活していくというのも寂しい。お金がないと街にも入れない。


「どうしたものかな?」


 生きていくだけなら、サバイバルをしていれば確かに生きていける。だけど異世界に来て、冒険が目の前に待っているのだ。

 このまま終わってしまうのはもったいなさすぎる。冒険しないで終わるのか?異世界にきたら冒険者ギルドに登録して、闇の魔法を駆使して俺TUEEEEとかやりたかった。


 アクイが考え事をしながら歩いていると、突然悲鳴が聞こえてきた。


「キャアアアーー!!!」


 森に続く街道を歩いていると、一台の馬車が盗賊に襲撃を受けていた。馬車の周りには五人の護衛と馬車の中に三人の人影が見えている。対して三十人ほどの盗賊が馬車を囲んでいた。

 盗賊たち三十人はブラックホールを使えば簡単に撃退でそうだが、盗賊達の顔は見たことがある者達だった。

 親切に道を教えてくれたお頭の隣にいた手下1の顔を確認したのだ。


 どうしたものかと考えていると、護衛の一人が手下1に切りかかり、手下1は反応できているが護衛の剣は思ったより速く、手下1に届いてしまう。

 手下1に襲い掛かっていた護衛にブラックホールを展開して護衛を吸い込む。遠距離でも上手く魔法を使うことができた。


 やっちまったな。盗賊に加担したことを、一人で頭を抱えてどうしたものかと考え様子を見ていると、誰もアクイがしたことだと気付いていなかった。

 盗賊達からは、誰かが護衛を倒して減っただけぐらいの認識なのかもしれない。護衛達は他の仲間を見ている余裕がないのだろう。

 アクイはどうすれば馬車の人間を助けて盗賊達も傷付けずに解決できるかを考えた。


 その結果……


 盗賊と護衛が戦っている場所から少し離れた草むらに身を隠して馬車に近づく、窓から見える馬車の中の人影を一気にブラックホールを使って取り込む。

 馬車の中の人間を取り込むと、次は護衛の四人を、盗賊達を傷つける前に一人づつ取り込んでいく。


「あれ、お頭。護衛も商人も消えちまいましたぜ」

「魔法か?テレポートストーンでも持っていたのだろう。バカな奴らだ。馬車と荷物を置いて行きやがった。これで資金は確保できたな」


 お頭と呼ばれた男の姿が見えると、街を教えてくれた親切な盗賊だった。アクイは意を決して盗賊に近づいていく。


「お~い!皆さ~ん!」


 アクイは間抜けを装い、盗賊達に手を振る。盗賊達は襲撃直後で気が立っていたのか剣をアクイに向ける。


「僕ですよ、記憶喪失です」


 近づきながら敵意がないことを伝えるため、両手を挙げて自分の自己紹介をしながら近づいていく。


「お頭、あれこの間の奴じゃないですか」

「そうみたいだな」


 お頭と手下1がアクイに気付いて、他の者に武器を下すように合図をする。


「皆さんこんなところで何してるんですか?」


 アクイがお頭の側まできて、質問を投げかける。遠目に見ていたので何をしていたかは分かっている。だが道化としては知らないフリをしておく方が賢いと思ったのだ。


「盗賊と言えば盗賊行為だろうが、それよりお前こそ何してんだよ」


 お頭の代わりに手下1が答える。


「あの時は親切にありがとうございました。ですが、折角教えて頂いて街に行ったんですが、街には入れませんでした」


 アクイは肩を落として、いかにも落ち込んでいると言う感じで同情を誘う。


「はぁ~?街に入れない?お前、犯罪だったのか?」

「いえ……持ち合わせがなくて……」

「はぁ~?持ち合わせって、金か?確か街に入るのって銅貨1枚だぞ。そんな金もないのかよ」


 手下1は残念な奴を見るような目で呆れている。


「他の村に行って、何か仕事させてもらって金を稼げよ」

「村の場所もわかりません。記憶がないので働き方もわからないんです」


 周りを固めていた盗賊達も、話を聞くうちに呆れていた態度がなんと言えないという感じで沈黙が流れた。アクイは唐突に地面に手を突いた。


「お頭さん、俺を盗賊にしてくれませんか?」

「はぁ~、お前何言ってんの盗賊だぞ」


 手下1がお頭の代わりに答える。


「わかっています。行くとこがないんです。お願いします」


 手下1もアクイの態度に、どうしていいかわからなくなり、お頭の顔色を伺う。


「お前……何か覚えているか」

「名前だけ、阿久井 重と言います」

「アクイか、仲間になるなら裏切りは許さん。俺達は家族だ。家族のために死んでもらうことになるかもしれないぞ」

「覚悟しています」

「わかった。アクイか、言い難いな。お前は今日からアクだ。お前も俺の家族だ。俺はゲオルグ。俺についてこい」


 ゲオルグと名乗るお頭は豪快に笑いながら阿久井 重ことアクの肩をバンバンと叩いた。


「アク、俺はサントンだ、よろしく頼むな」


 先ほどからお頭に代わって話をしていた手下1が、近くにきて名乗ってくれる。


「阿久井 重です。よろしくお願いします。」

「ちげぇだろ。お前は今日からアクだ。ゲオルグ親方の名付けなんだ、受けとけよ」

「わかりました」

「固いよ。俺の方が年下だぜ。もっと気楽にいこうぜ」


 サントンと名乗った手下1は、金髪が混じった髪に天然パーマ、歳は20前後だろう。ノリが若かった。


「わかったよ。よろしく頼む」

「そうそう、よろしくな」


 サントンは面倒見がよく、盗賊団の中では若い方だったが、明るいノリと面倒見の良い性格が盗賊団内でも好かれていて若頭をしているという。

 盗賊団団長のお頭と呼ばれている男は、ゲオルグといい。大きな身体に顎髭が特徴的な強面な男だが、気前の良い男で、盗賊団の中でも戦闘の実力は群を抜いているそうだ。


「とにかく戦利品の収集は終わったからアジトに帰るぞ。お前もついてこい、アク」


 お頭の号令により皆が帰る準備をする。


読んでいただきありがとうございます。

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