??王になります5
サントンに我を告げたアクは早々にバンガロウ王都から離れた。サントンから与えられた新しい領地に、アクは十人の同行者を連れてきている。
元々王都で暮らしていた大きなアパート構造の家を、アクのブラックホールで収納することで、十人をまとめて転移させてきたのだ。引っ越しにほとんど時間もかかっていない。
シルバーウルフ団の集会場にしていた建物をブラックホールに納めて、その場所に家を配置した。アジトだった村の、真ん中にアパートが立ったのだ。
「どうして、この場所なの?」
エリスに質問されて、村全体が見渡せるからと答えた。ここにアクは人も、獣人も、精霊も、関係なく住める村を作ろうと思っている。誰もが気楽に暮らせる村を作りたい。これから増えていく人達の中心に、自分とエリスが立つ決意の表れなのだ。
「皆は、どうしてる?」
「引っ越しって言っても、やることがなかったから自由にしてるわ」
エリスに王都から離れる話をしたとき、好きにすればいいと言ってくれた。引き止められるかと思ったが、「私はあなたの隣にいつもいるから」と言われてしまえば何も言い返す言葉はない。
「じゃ村を開拓するのに仕事の割り振りとか決めないとな。ルー、食堂に皆を集めてくれないか?」
アクの言葉で控えていたルーが走り出す。ルーは銀狼の獣人なので鼻が利く。他の者達を見つけるのにルーほど優れた者はいない。
「ルーに任せておけばそのうち集まるだろ」
「そうね、先に食堂に行ってお茶の準備でもするわ」
そういうとアクとエリスは、アパートの中に入っていく。アパートに作られている食堂は、三十人ぐらいの人間が一気に食事をしても、まだ余裕がありそうなぐらい広い作りになっている。
エビスが奴隷達を引き受ける際に用意してくれた建物なので、構造もしっかりしている。
「マスター、連れてきた」
お茶の用意が終わった頃に、ルーを筆頭に七人の奴隷達が入ってきた。
銀狼族のルーは、記憶はないが自身の能力の使い方を知っており、戦闘ではピカイチの実力を誇る。アクの最初の奴隷であり、アクが一番話しかけやすい。
竜人族のサーラは、水竜の末裔で水の魔法を操るのが得意だ。槍を持たせればサントンとも互角に戦う腕を持つ。しかし、記憶があるので警戒心が強く。最初は人族のアクを毛嫌いしていた。エリスやルーと共に暮らしていく内に、だんだんと心を開いていった。
アクを嫌っていた理由も自分を奴隷として買ったと言うのが気にいらなかったからだそうだ。誤解が解けてしまえばサーラの態度は軟化した。
彼女は責任感が強く、他の子を守らなければならないと言う思いを抱えていたので警戒していた。アクへの疑いが晴れたことで、アクに懐いてくれた。女性関係に厳しく、怖い目で見られたりするので、アク的には少し苦手だったりする。皆のお姉さん的存在だ。
魔人族のヨアは、無口であまりしゃべらない。全属性の魔法が使え、魔力も膨大に有する魔導師だ。ヨナは最初からアクへの警戒心はなかった。むしろ無警戒過ぎてアクの方が警戒したぐらいだ。
リビングにしているソファーでアクが寝ていると、抱き着いて同じように眠りついたりと無防備すぎる。アクが風呂に入れば一緒に入ってくるし、しゃべらないがアクに懐いているのでアクも無下には扱えず困ったのをエリスに相談したところ「好きにさせてあげて、きっと人恋しいのよ」と寛大な言葉を頂いたため、エリス公認でヨアには好きにさせている。たまに誘惑されているのでは?と思うが気にしないようにして父性を総動員させている。
黒豹族のアンリは、無邪気で天然だ。魚が好きで肉が好き、いつも食べ物の事を考えているらしく、料理が上手い。エピソードらしいエピソードはないが、大きな猫を飼っている気分になるので、頭を撫でると気持ち良さそうな顔をするので癒される。
ドワーフのピピンは、小柄で十二、三歳ぐらいにしか見えない体つきをしている。年齢は十五歳なので少し子供っぽく、性格はかなりのビビリで臆病者である。最初の頃は人見知りもするので、男であるアクを見るだけで泣いていた。
あるとき王都で地震が起き、アクによって命を救われてからは少しずつ心を開き始め、今ではアクの護衛を率先してこなすほどになった。力も強いが、繊細な武器の手入れもこなすので助かっている。
エルフのシーラは、気位が高く奴隷になった自分を自己嫌悪していた。奴隷の立場に納得いかないシーラはアクに決闘を挑んだ。自分が勝てば奴隷から解放してほしいと訴えたのだ。それに応じたアクだったが、アッサリとシーラに勝利した。
アクはそれでも奴隷から解放しようとしたが、今度はシーラの方から自分は奴隷に相応しいとか言い出して、奴隷でいることを強要してくるのだ。自分はアクの物であると、主張して奴隷からの解放を拒んだ。
シーラは魔力も高く、特に風の魔法を得意としている。更に弓を得意としているので、狩りに出れば百発百中の命中率を誇る。まぁ食事関係で助かっている。
奴隷を主張するシーラに、アクとエリスは顔を見合わせて困ったが、シーラの主張を受けいれることにした。
ユグドラシルのハナは、お淑やかで余計なことを口走らない。土の魔法を操ることができ、特殊な魔法として植物を操ることもできる。ほとんど怒らないが、植物を粗末にすると物凄く怒る。
一度アンリが王都に生えている木で爪とぎをしたとき、一本を枯らせてしまったのだ。その後のアンリはハナから物凄いお仕置きを受けた。口で言えないような苦しみをアンリは味わい、それ以来アンリはハナに一度も逆らわず、しかも木も大切に扱うようになった。
他のメンバーもそれからはハナの機嫌を損なわないようにしたのは言うまでもない。
「皆揃ったな。これからの事を話し合いたい」
アクの言葉に全員が頷き席に着く。バンガロウの地で彼女達が自由に街をあることはできない。だが、アースに行けば彼女たちの仲間がいるかもしれない。
因みに十人目のアモンは普通の生活は必要ないので、自分の部屋で寝ていることが多い。アクのピンチには一瞬で駆けつけてくれるので誰も文句は言わない。
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