閑話 その他の勇者達17
紫苑を屈服させた白雪 雫の下に、絶貴、玄夢が帰ってきたのは日が完全に沈んだ後だった。
「ここに居られたのですね。怪物の正体がつかめました」
絶貴は項垂れた紫苑を一瞥して、溜息を吐いて気持ちを切り替える。
「生きている人がいたんですか?」
「残念ながら生存者は見つけることは、できませんでした。しかし、怪物を見ることができました」
「えっ、怪物がいるんですか?」
「はい。間違いないかと」
「どんな怪物なのですか?」
「それが」
絶貴の話では怪物は全長4メートルはあろうかという大きな蛇で、頭が七つもあるのだと言う。雫の中で元の世界で出てくる御伽話を思い出した。
「八俣のオロチ?」
雫がボソリと呟く。
「知っておられるのですか?あの化け物を」
「いえ、私のいた世界にそんな話があるんです」
「どのような話ですか、今は少しでも情報がほしい」
雫は思い出しながら、少しずつオロチについて自分の知っていることを話し出した。スサノオと言う者が、オロチと呼ばれた大蛇を酒に酔わせて眠りにつかせ、首を切ったとされていることなどを話した。
「なるほど、酒を使うのですか」
「しかし、ここにはお酒なんかないぞ」
絶貴の意見に玄夢が答える。
「それなら私が出せると思います」
雫が玄夢の言葉に答えた。
「出せるのですか?」
これには絶貴が驚いた。
「はい。お酒を飲んだのは数えるだけですので、美味しいかはわかりませんが?」
「水の魔法とは便利なのですね?」
玄夢が感心した声を出す。
「イメージするだけですから」
「イメージするだけって、それが難しいと思うんですけど」
絶貴は雫の言葉に呆れたように声を返す。
「そうですか、でも今はやらないといけないですしね」
雫の強い眼差しを受けて絶貴も玄夢も頷き合う。
「ではそれを試してみましょう」
二人は急ぎ酒を注げる大瓶を探しに外に出た。
「本当に成功するんですか?」
「さぁ、でもやってみなければわからないでしょ。あなたも手伝ってね」
「はい。逆らう気力はもうありませんから」
紫苑は疲れ切った顔で頷く。夜が明けると雫の魔法で作られた魔法の酒が入った大瓶が七つ置かれていた。
「どうなることやら」
紫苑は三人から距離を置いて事の成り行きを見守っていた。三人も隠れて大瓶を見つめていると七つの首を持つ大蛇が村に現れた。
「来た」
雫が声を潜めてながら声を上げる。
「シズク様、静かに」
絶貴に咎められて雫は慌てて口を手で押さえる。
「オロチが食いつきました」
玄夢の声で二人が大瓶に目線を向ける。巨大な蛇の頭が、それぞれの大瓶に頭を突っ込んで美味しそうに酒を飲み始めた。雫は酒がすぐに無くならないように少なくなったように見える瓶の中に魔法の酒を注ぎ続ける。次第に大蛇の頭達は、眠りについていく。
「上手くいきましたな」
「そうね、こんなに簡単でいいのかしら?」
絶貴も雫も呆気ない大蛇の姿に呆れてしまう。
「とにかく今の内に止めを刺しましょう」
絶貴と玄夢がシノビ刀を抜き大蛇に迫る。
「ちょっと待ってもらえますか?」
今にも大蛇の首を切ろうとしている、三人を雫が止める。
「少しこの子と話がしたいの」
「どういうことですか」
絶貴が聞き返すが、雫はそれに答えず、大蛇に近づいていく。
「ねぇあなた言葉が分かるのよね?」
雫は大蛇に話しかける。しかし、大蛇は酒を飲み眠りについているはずではと絶貴が疑問に思う。
「あなただけは起きてることは知っているわ。どうなの」
雫がさらに言葉を紡ぐと、七つの大蛇の首の内の一つがのそりと起き上がる。
「なぜ我が目覚めているとわかった?」
その首は白く他の首もそれぞれ色を持っていたが、特に異質な白い頭をしていた。
「どうしてからしら、なんとなくだと思うわ。あなただけは起きていると思ったの」
「そうか。それでどうする?我を殺すか?」
「あなたは抵抗しないの?殺されたいの?」
「この体は全員の意思により動いている。我一人では動かせぬ」
「ではあなたに聞きます。どうして村を襲ったの?」
「襲ったわけではない。ここに住まう者達は病により全滅したのだ。我の姿を見た他の村の者が怪物だと勘違いしたのであろう」
「ここに調査団が来たと思うのだけど?」
「ああ、我が寝ているところを急に襲ってきた者達か、奴らには少しお灸を吸えてやっただけじゃ。我も自分を守るためには戦わなければならないからな」
「そう。ねぇ、あなたの名前はなんていうの。私は白雪 雫と言います」
「名前はない。娘は水を操るか?」
「そう。私は水の勇者よ」
「そうか、ならば我と契約をせぬか?」
「契約?」
「そうじゃ、水の勇者は我と契約しこの国を作った」
大蛇の話に絶貴も玄夢も紫苑も驚いた顔をする。大蛇が話せるだけでも驚きなのに、初代水の勇者の契約者と聞いては驚くしかない。
「あなたが契約してくれるなら心強いわ。でも、もう一つ質問してもいいかしら?」
「なんだ?」
「ここにいた筈の人々はどこにいったの?」
「病により倒れた者は燃やさねば疫病を撒き散らす。我の七つの頭はそれぞれ別の魔法属性を使うことができる。それにより一気に集めて燃やした。」
「そう。あなたが供養してくれたのね。ありがとう」
「雫とやら、我に名前を付けよ。それにより契約とする」
「わかったわ。あなたの名前はオロチ、オロちゃんって呼ぶわね」
絶貴や紫苑が猛反対するが、オロチと名付けると大蛇の体は見る見る小さくなり、長身で白い綺麗な髪をした女性に変わった。
「それは?」
「人と共に過ごすならこちらの方がよかろう?」
雫の質問にオロチが返す。七頭の意志で動くと言った体は少しぎこちない動きで歩き出す。
「そう。ありがとう、優しいのね」
「当たり前のことじゃ」
少し照れたオロチとニコニコ顔の雫を見て、絶貴は頭が痛くなって額を押さえていた。
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