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閑話 その他の勇者達16

「「「キ~キ~キ~キキキキセラ、キ~キ~キ~キキキキセラ!!!」」」

「「「キ~キ~キ~キキキキセラ、キ~キ~キ~キキキキセラ!!!」」」


 観客の叫び声に乗って、ステージの上に青い髪をした人魚が壇上に現れる。特別設置された水槽の中で泳ぐ人魚は美しく、妖しい雰囲気を醸し出していた。


「皆~今日も私の為に集まってくれてありがとう」


 マイクなど都合の良い物は無いはずなのに、人魚の声はドーム内全体にしっかり届いてくる。火鉢や風香達は、その光景に唖然として見ているしかなかった。


「今日も楽しんでいってね」


 人魚はそういうと歌い出す。観客がノリノリで踊りだした。人魚の周りを鯛や鮃、タコやエビが舞い踊る。


「ここは竜宮城かいな?」

「なんだ、よく知ってるじゃないか。ここは竜宮ドームだぞ」


 ヴィクターが風香の言葉に感心したように返す。


「そういうことちゃうわ」


 ヴィクターの言葉に突っ込みを返しつつ、火鉢を見る。


「様子を見るしかないだろう」


 火鉢は人魚のコンサートを見続けると言うので、他の者も従うしかない。ライブが中盤に差し掛かった頃、変化が生まれた。


「みんな~今日はスペシャルゲストが来てるんだよ」

「「「ダ~レ~」」」

「勇者一行だよ」


 キセラがそういうと火鉢達にスポットライトが当たる。


「「「「うおおおおおおおぉぉぉーーー!!!!」」」」


 大歓声が火鉢達を出迎える。


「行くしかないようだな」

「行くのか?敵のど真ん中だぞ」


 ヴィクターが驚いて聞き返す。


「いかなあかんやろね」


 風香が火鉢の言葉に賛同したので、近衛に反対する者はいない。


「コワいならここに残ればいい。魔王殿」


 少し性格が悪くなったエルファルトが、ヴィクターを蔑んだ目で見る。


「お前が残れ、ムッツリスケベ」

「なんだと、俺はスケベではない。変態コウモリ野郎」


 低次元の喧嘩をしている二人を置いて、火鉢、風香、他の近衛達は壇上に上がっていく。


「よくぞおいでくださいました。みんな~拍手~」


 パチパチパチパチ


「はいっ、はいっ、はいっと」


 人魚が煽ったあと拍手を辞めさせる。


「ようこそ、勇者さん達」

「わかっていたのか?」

「ええ、知っていたわよ。昨日の晩に丘の上で休んでいたのもね」

「そうか、それで私達をどうする?」

「別に~どうもしないわよ。それともどうかされたいの?」

「どうかされるのは困るが、されるぐらいなら抵抗する」

「野蛮ね~」


 キセラがジト目で火鉢に視線を返す。パフォーマーのエビ魚人三人が火鉢に襲い掛かった。


「「「ほーはーえー」」」


 三人それぞれの掛け声をあげて、とび蹴りやハサミを突出し迫ってくる。火鉢は問題なくかわしたが、近衛達はギリギリ避けた。思った以上に鋭い動きに驚く。


「何もしないんじゃなかったのか」

「余興よ。別に本気じゃないわ」

「なかなか、さすがは魔王の手下と言うことか」


 火鉢は相手の力量が高いことに関心と喜びを覚えた。異世界に来てから正直拍子抜けしていた。火鉢と戦い得る強者はおらず、ストレスが溜まってきていた。


「来い、エビ共」


 火鉢がレイピアを構えてエビを迎え討とうとするが、エビ達は顔を見合わせて、両手を広げる。そしてそのまま火鉢と戦わずにキセラの脇に控える。


「どういうことだ、戦うためにかかってきたんじゃないのか」

「だから本気じゃないっていったじゃない。私はあなたと戦う気はないわよ」


 今度はキセラの方が不思議そうな顔をして答える。


「どういうことだ?」

「どういうことも何も只の挨拶よ」

「挨拶だと?」

「そう。だって私戦闘向きじゃないし」

「ふざけるな、私は戦いに来たんだ」


 火鉢の周りに怒気が膨らみ闘気となり、周りの者を威圧する。


「あなた脳筋なのね。でもそれだけじゃ勝てない世界があるってこと教えてあげる」


 キセラは火鉢と戦うでもなく歌を歌いだす。周りのコーラスも共に歌い、パフォーマーが踊り出す。


「ふざけるな」


 火鉢は怒りのままにキセラに突っ込もうとするが、先ほどのエビ魚人や今度はタコ魚人、鯛や鮃の人魚に邪魔される。彼らは代わる代わる攻撃を仕掛け、どれも油断ならない攻撃ばかりなので、火鉢も避けたり受け流したりしなくては進めない。


「これがお前の力か」


 憎い相手を見つめるように火鉢がキセラを見つめる。


「あら?どういうことかしら?あなたがその子達に敵わないだけじゃないの」


 火鉢は自分の体に起きている違和感に気づき始めていた。いつものように体が動かない。相手の攻撃は鋭く油断ならず、自分の体は重く思うように動かない。火の魔法を使って加速しても何とか相手についていくのがやっとだった。


「ふふふ。まぁ種あかししてあげてもいいわよ。私の歌は人の力を操れる。あなたの筋力、魔力を一時的に半減させてもらったわ。代わりに私の仲間達の能力は倍化させてもらってるの」

「ちっ、ハンデ戦ということか、面白い」


 状況が分かってしまえば、火鉢にとっては嬉しい状況と言えた。スリルがほしい火鉢にはこれくらいが丁度良い。


「いいな、それ」


 キセラ的には絶望をプレゼントしたつもりだったが、火鉢の笑みに初めて苛立ちを覚える。


「なによ。どうして笑えるの、なんかムカつくわね。オットー、来て」


 キセラがイライラして、オットーと言う名前を呼ぶ。会場中にいたファンの魚人達から盛大な歓声が上がる。


「「「オットー!オットー!オットー!」」」

「そういえば魔王の名前はオットーだったな」


 歓声を聞いて火鉢はヴィクターに言われていた名前を思い出す。歓声に呼ばれて、巨大な二足歩行のセイウチが大きな銛を持って現れた。


「お前がオットーか?」

「そうだ、我が魔王オットーにしてキセラの旦那だ」


 キセラの旦那と言うときの方が、魔王と言うときよりもドヤ顔感が強かった。


「お前は強いのか?」

「やってみればわかるだろ?」


 オットーは銛を構える。キセラの歌は鳴りやんでいないので、能力半減はそのままに魔王と向き合う。


「行くぞ」


 オットーの小さい目がギラリと光る。巨大な銛が火鉢を貫くために鋭く突きだされる。火鉢は上手く動かない体をなんとか転げて避ける。


「勇者よ。お前の力はそんなものか」


 嘲り笑うオットーに風香がイラッとした。風香は小さいモノ、可愛いモノが大好きだ。だが逆にデカいモノや可愛くないモノが大嫌いである。

 オットーは立派な牙を持ち、口の周りは髭もじゃ、お世辞にも可愛いとは言えない。そのオットーが可愛い幼馴染を追い詰める、風香には許せる出来事ではなかった。

 いつの間にか風香の周りに風が起こり、風は段々と勢いを増して竜巻のように激しさを持ち始めた。竜巻に吸い込まれた風香はそのままキセラの前へと進む。


「なっ、なにが起きたの?」


 キセラは突然現れた竜巻に成す術なく吸い込まれる。パフォーマーがそれを助けようと近づくが竜巻に阻まれ風に触れることもできない。


「ようこそ」


 キセラの質問に答えるように風香が竜巻の中にいた。


「ここではあなたは歌えない」


 竜巻の中心は極めて真空に近く息をするのも苦しい。


「これはズルいんじゃないのかしら?」

「あなたが歌を操るなら私は風を操る。それだけよ」


 キセラを見る。風香の目はいつもの穏やかな雰囲気はなく、冷たい眼差しだけがあった。いつもの軽い調子の関西弁もなりを潜め、只々事実だけを告げる。


「そう、でも私を封じたからって家の人を倒せると思わないことね。あの人は魚人族の中で一番の怪力で万夫不当なんだから」

「そう。でももう終わったみたいよ」


 冷たく返した風香が竜巻を止める。キセラが見たものは高々とジャンプした火鉢がオットーの頭上からレイピアを突き刺そうとしているところだった。

 オットー自身体中に切り傷があり、多くの血を流している。本来のスピードを取り戻した火鉢により、幾度も切られて血を流し、体力を奪われたのだろう。

 オットーは立っているのがやっとという状態で、火鉢のレイピアを見つめることしかできなかった。


「いやー!」


 キセラがその光景を見て悲鳴を上げたおかげか、はたまたワザと外したのか、オットーの頭にレイピアが刺さることはなく、右の肩を貫くだけだった。


「フ~手助けされては、面白くないぞ」


 火鉢が風香を嗜める。楽しみを取られて拗ねた顔をしている。


「ごめんな~堪忍や。ちょっとこいつのしてることが許せんくなってもうてん」


 いつものエセ関西弁で風香が返すので、火鉢もそれ以上は追及しなかった。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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