閑話 サントンとセントハルク
セントハルク千人長はアクに会った後、王への謁見を求めて王の執務室に向かった。しかし、王は執務室にも謁見の間にもいなかった。
「困ったな、どこにおられるのだ?」
セントハルクは王の姿を知らない。どんな男でどんな人物なのか?アクに聞いておけばよかったと思う。
「誰か探してるのかい?」
服装は悪くないが、気品があるとは言えない若い優男が、甲冑に身を包んだセントハルクに話しかけてきた。
「うん?貴族の子息の方かな。王を探しているんだが、知らないだろうか」
「うん?王を探してる。あ~そういうことか」
優男は何かに気付いたらしく手を叩く。
「あんたがセントハルク将軍かい?」
「いかにも私がセントハルクだ。そちらは貴族の方か?」
「俺はサントンだ。貴族じゃねぇけど、今回の解放軍の立て役者の一人なんだぜ」
「なるほど、では王の事も知っていよう。教えてもらえるか?」
「なぁ、あんた強いんだよな?」
「うん?一応は千人長を任されている者だからな。それなりには鍛えている」
「固てぇな。まぁいいや、王の行方知りたいんだよな?」
「ああ、頼む」
サントンはセントハルクに向けて意地悪く笑いかける。
「それなら一手、俺と闘ってくれないか?」
「先に王に謁見を済ませてからではダメなのか」
「それじゃ面白くないだろ。心配しなくても勝負の勝ち負けに関係なく王の居場所は教えるよ」
「別の者に聞けば問題ないのだがな」
「それなら多分誰に聞いても無駄だと思うぞ。俺しか王の居場所を知らないからな」
サントンの自信満々に言う言葉に、セントハルクは王に近しいものだと理解した。
「そうなのか、困ったな。必ず教えるのだな?」
「おう、男に二言はねぇよ」
「仕方あるまい。ではどこでする?」
セントハルクが承諾してくれたので、サントンは意気揚々と演習場を目指して歩き出す。シシンガーも戦闘が好きだった。何より王族が鍛えるための専用演習場を作るほどに武芸にハマっていたのだ。
「ここでやろうぜ。ここなら誰も来ない」
「そうか、得物はどうする?」
セントハルクがサントンに質問してくる。
「俺は剣を使う」
サントンはそういうと二本の剣を手に持ち、一本の剣を地面に突き刺す。
「ほう~剣を三本も使うのか?」
「ああ、本当は四本の方がいいんだが、一本ないからな」
「そうか、では俺はこれを使うぞ」
セントハルクは槍を持つ。
「普通の槍でいいのか、豪槍とかトライデントとかもあるぞ」
「いいや、私はこれが一番使い慣れているのだ」
そういうセントハルクの構えを見て、サントンの背筋に冷や汗が流れた。
「こえ~なあんた」
サントンが素直に感想を言うと、セントハルクがニヤリと笑う。
「久しぶりに楽しめそうだ」
セントハルクが先ほどまでの紳士な振る舞いではなく、殺気を籠らせた槍をサントンに向ける。サントンもニヤニヤしていた顔を引っ込め真剣な顔になる。
「いくぞ」
先手を取ったのはセントハルクからだった。セントハルクは信じられない速度で槍を真っ直ぐ突き出す。バルツァーよりも速く、シシンガーの剣よりも正確で、真っ直ぐ突かれた槍は剣で弾くには重かった。サントンは二本の剣を交差させて槍を受け流し、受け流し切れずに右肩を槍が擦れる。
「スゲ~威力だな」
サントンは感嘆の声を上げる。
「お前も見事だ。あれを避けられたのはシシンガー王以来だ」
「へっ、そうかよ」
今度はこっちからだとサントンが前傾姿勢になり、二剣を正眼に構える。
「こい」
悠々と待ち構えるセントハルクに、サントンはフェイントもかけず、右の剣で突きを放つ。セントハルクは軽く槍の先を動かすだけで牽制し、剣の先を止める。サントンもわかっていたのか、左の剣で槍をかちあげる。セントハルクは予想していたが、思ったよりも左の力が強く、踏ん張りきれずに槍が上がる。
「やるな」
その一瞬でサントンはセントハルクの懐に入り、右の剣で胴を薙ぐ。セントハルクもこれには反応して、槍の柄で受け止める。鍔迫り合いをする前にセントハルクの力により、サントンが吹き飛ばされる。
「スゲ~力」
「今のはよかったぞ。次も楽しませてくれよ」
今度はセントハルクが槍を連続で突き出してくる。先ほどの重くて速い突きが連続で来るので、サントンは受け流す暇も与えてもらえず防戦一方となった。
「どうした、このまま終わりか?」
「くそが、なんでお前みたいなやつが」
「口を動かしている時間があるのか?」
サントンはバックステップしようとするが、それすらも許してもらえない。左の剣に力を入れてセントハルクに剣を投げつける。剣は正確にセントハルクの胸に飛んでいく。セントハルクもこれには槍を合わせて弾き飛ばす。サントンは続けて右の剣を先に投げた剣に隠れるように投げる。
「これで終わりか?」
セントハルクが余裕で二本目を弾くとサントンの姿は無く、自分の首に剣が突き付けられていた。二本ともが奇襲であり、地面に突き刺していた三本目が本命だったのだ。
「終わりだな」
「参りました」
セントハルクはそういうと膝を突いた。
「いつからわかっていた?」
「演習場に案内されたときです。王」
「そうか、ここは王族専用の演習場だと知っていたか」
「はい。私はシシンガー様の相手もしておりましたから」
「そうか。なぁ、セントハルク」
「はい」
「俺をどう思う」
「素晴らしい方だと思います」
「どこがだ?」
「剣の腕もさることながら、その心に私は感服しました」
「心?」
セントハルクの意外な答えにサントンは聞き返す。
「はい。剣を交えればその人となりが見えてきます。あなたは優しくもあり、激しくもあった。それでいて誠実に私を受け止めようとしてくれた。なんと心広き方だと思いました」
「そんなに持ち上げても何もでねぇよ。確かに俺もお前と戦ってるうちになんとなくわかっちまったよ。あんた忠誠心が高すぎるんだな、それで疎まれた」
どうしてシシンガーがセントハルクを使わなかったのか、サントンなりに理解した。
「そうなのかもしれません。私は私が主と認めた者に仕えたいと思っていましたので」
「それでどうだい?俺は?」
「我が主に相応しい方だと思いました」
「ははは、主を選ぶか。なんだか偉そうな響きだが、あんたが言うならあながち間違いでもないのかもな。セントハルク、俺と兄弟の契りを交わさないか?」
「はっ?兄弟の契りですか?」
「おう、俺はあんたを裏切らない。あんたも俺を裏切らない。俺はあんたを気に入った。だから俺と家族にならないか」
「ありがたい申し出です。謹んでお受けします。私もあなたを気に入った」
セントハルクはそこで顔を挙げて笑った。
「もう一つ頼みがある。今、軍事が荒れててな、万人長、千人長の引退に加えて俺達のお頭、副団長まで引退を表明した。今この国は人手不足だ。セントハルク、あんたに万人長になってもらいたい」
「私でよろしいので?」
「家族が護ってくれるんだ。これ以上に心強いことはないだろう」
「ありがたき幸せ、謹んでお受けします」
この後正式な式典の場で義兄弟の契りと万人長就任の式典が行われた。
その後、義兄弟の契りはどちらかが死ぬまで続いた。
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