??王になります4
ある日の夜、アクは城のテラスで人を待っていた。目の前にはシシンガーが作ったと言われている、綺麗な中庭が広がっている。テラスの置かれたテーブルに、ワインボトルと二つのグラスが置かれている。
「待ったか?普通に会うのも堅苦しくなったものだな」
「ああ、そうだなサントン」
「おいおい、俺も王だぞ。せめて様ぐらい付けてくれよ」
「サントン様、これでいいか?」
「やっぱいいや、お前には呼び捨てにされているぐらいがちょうどいい」
「了解」
アクはそういうと、ワインを開けてサントンのグラスに注ぎこむ。
「でっ、なんのようだ。こんな夜に男二人とか侘しすぎるぞ」
「サントン……別れを言いに来た」
「別れ?どういう意味だ?」
「俺はこの国を出ようと思う」
「穏やかな口調で、穏やかじゃねぇ内容だな。急にどうしたんだ。何か気に入らないことでもあったか、気に入らない奴がいるのなら俺が」
サントンが剣の柄に手をやる。アクの敵は自分の敵だと言っているのだ。
「そうじゃない。落ち着け。この国も大分安定してきた。内務も、外交も、軍務も、市民の仕事も、飢える人は少なくなった。ある程度落ち着いたんだ。国としての基盤はできた。だから俺はここを去ろうと思う」
「確かに基盤はできたかもしれねぇ。でも国としてはこれからだろ、お前の力はいくらでもいるんじゃねぇのか」
出会った頃のサントンよりも遥かに賢くなった男が横にいる。
「俺はこの国で生まれたわけじゃない。知恵や力は貸すが、貸すだけだ。これから国を作るのはこの国に生きるものだ」
「お前の奥さん、エリスはこの国で生まれた者だ。それだけじゃ残る理由にならないか?」
「エリスは俺の妻になったときに、俺と共に生きると誓ってくれた」
「はぁ~そうかよ。それで出て行ってどうする気だ?」
「アース大陸に行こうと思っている」
「アース大陸だと、嬢ちゃん達のためか?」
サントンには護衛役をしている者達の事を話している。
「それもある。だがもっとこの世界について知りたいと思うのが本音だ」
「自由を選ぶか、ズリ~ズルイぞ。俺も連れて行けよ」
「お前にも守る者ができただろ?」
「ロカの事か?確かに俺は王になって今まで支えてくれてたロカと結婚したけどよ。ロカも一緒に行けばいいじゃねぇか?」
「違う。確かにロカもお前の守るべきものだが、この国の全てが今ではお前のものじゃないかよ」
アクの言葉にサントンは嫌なモノを見る目でアクを見る。
「お前は本当にズルいな。俺にこんなにデッカイ物を押し付けて、自分は自由に生きると言うんだから」
「俺は異世界人だからな」
「はぁ~意志は固いんだな?」
「ああ」
「わかった。だが、自由にしてやるのも癪に障るからな、お前に爵位と領土を与える」
「そんなのいらん」
「い~や、受けてもらうぜ。爵位は公爵な。俺の家族の証だ。領土として精霊と獣人の森エスカトンを与える」
「はぁ~?」
「俺達がアジトにしていた村をお前にやるよ。帰る場所ぐらい作っておけよ。エリスに子供ができた時とか、大変だぞ」
サントンはアクが旅立つことを引き止めなかった。むしろ手助けとしてアース大陸に唯一つながるエスカトンの森を領土として好きなようにしろとまで言ってくれているのだ。
さらに公爵の地位は、王以外の者に意見されない高い地位という事になる。
「どうして?」
「お前は俺の唯一の友だ。このワインが友の杯だ。俺達は未来永劫友として対等な立場でいよう」
サントンはセントハルクとも盃を交わしている。しかし、それは兄弟の杯であり、盃を交わしたことによりセントハルクを万人長に任命したのだ。セントハルクはサントン王の義弟として生涯を仕えることを誓ったのだ。二人の間で何があったかは知らないが、国が強固になったことに変わりない。
「サントン、初めてあった時からお前は変わらないな」
「そうか?これでも成長していると思うんだけどな」
ニカっと笑うサントンに、アクも笑いかける。
「サントン、お前に言っておきたいことがある」
「なんだよ」
「ありがとう。お前は最高の友だ」
アクはサントンの申し出を受け入れた。
二人は笑い合い。
またいつ共に飲めるかわからぬ酒を飲み耽る。
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