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 バルドベルドからの報告は良好なものだった。


 千人長セントハルクはアクの申し出を素直に受け入れた。


1、他国からの侵略に対し今のまま国の守護を続けること。


1、階級も今のままで新たな国に仕えること


1、反旗を企てようと考えた者を罰すること


 この三つを以って契約をしたい。


 その書状を持って百人長バルドベルドに、アクの代行としてセントハルクに会いにいかせた。書状に対して、答えはイエスと即答で返されたと、バルドベルドに後で聞いた。千人長セントハルクは、書状への証明として差し出したのが宰相だった。

 理由は自分に反旗を翻す手助けをしろという申し出を、宰相がもってきたということらしい。アクはセントハルクの人柄が掴めなかった。

 彼はどうしてアク達の話は受け入れたのに、宰相の話を突っぱねることができたのだろう。アクは興味が湧いて実際に会ってみたいと思った。

 クソ忙しいときに会いに行く時間も取れないので、どうしたものかと考えていると、向こうから会いに来ると書状が届いた。

 一週間が経ち、本当に宰相を捕まえたセントハルクが現われた。


「あなた様が今度の国主となられた方ですか?」


 セントハルクに会って言われた第一声がこれだった。セントハルクの見た目は、二メートルはあろうかという長身で、だが無駄な筋肉が無く、細いとすら感じる。顔は精悍だが嫌味のない爽やか系なイケメンで、しかも瞳が澄んでいた。なんだかすべての悪事を見抜かれそうな底抜けに透き通っていると感じられる。


「いや、君の主はサントン国王だ。私は内務大臣を任されているに過ぎない」

「そうですか、それは失礼をしました。ですが私にはあなたの方が本当の主のように感じられたという事だけはお忘れなく。では王へ挨拶してまいります」

「ちょっと聞きたいことがある。いいか?」

「手短にお願いします」


 セントハルクは優しげに笑い、アクの申し出を快く受けてくれた。


「なぜ俺の書状を受けて宰相を捕まえた?」

「それが正しいことだと判断したからです」

「どうしてそう判断できる。これまではあの男が宰相をしていた。この国の中枢にいた者だぞ?」

「そういう質問ですか、宰相は私に戦闘にて混乱を収め、共に祖国の者達と戦えと言った。それに対してあなたが送ったバルドベルトは、実直に現状を説明し変わらずこの国を守ってほしいと私に願ってきた。どちらがより国を思っているか判断したまでです。これでよろしいか?」

「ああ、時間を取らせた」

「では」


 セントハルクは優雅さすら漂う雰囲気で礼をしてその場を離れた。どうしてあれ程の男が辺境の守備隊長に納まっているのかわからない。彼が戦場に出ていたら負けていたかもしれないとアクは思った。

 戦術や戦略、単なる戦闘能力なんかじゃない。優しく笑っているが、全てを見透かす目が、アクには勝てないと思わせたのだ。逆に彼が味方で共に戦ってくれるというのであれば心強いことだ。


「ふぅ~世界は広いな。解放軍が勝てたのは運が良かった。あの男を敵に回さないように頑張ろう」


 アクの中で敵にしてはいけないリスト一位が決まった瞬間でもあった。


「これで軍部は一先ず落ち着きそうだな。次は財源か、エビスと、それにキララにも協力してもおう。政治家が少ない今、商人の力がいる」


 アクは早速二人を執務室に呼んで、これからについてを話し合うことにした。


「これは良き友よ。久しいな」


 先にアクの執務室の扉を叩いたのはキララと執事だった。


「良き友よ。よく来てくれた」

「うむ。今では其方の方が上の立場だ、内務大臣殿」


 キララは悪戯っ子の笑みでアクに話しかける。


「やめてくれ、今日は真面目な話だ」

「真面目も冗談もどちらでもいい。だいたいの内容はわかっておる。我らに国の立て直しを手伝えと言うのであろう?」

「話が早くて助かるな、その通りだ」

「だが断る」


 ゴスロリ少女はアクの申し出を理解した上で断ると言った。


「何故だ。理由を教えてもらっても?」

「簡単じゃよ、利益が生めると思えぬ。我らは商売人じゃ。慈善事業に手を貸す気はない」

「簡潔で分かりやすいな」

「そうじゃろそうじゃろう。この話は終わりじゃ。では失礼するぞ、良き友よ」


 キララは話は終わったと席を立つ。早々に会いに来たのは断ることであったとしても礼儀を尽くすためだったのだろう。どんな内容でも相手が内務大臣だということで義理を果たしにきたのだ。


「待て、利益はある」


 だが、そんなキララをアクが止める。


「ほう、利益があると」


 キララは少し馬鹿にしたような、試す視線をアクに向けた。


「ああ、プチバブルを起こす」

「プチバブル?なんじゃそれは」

「金融政策を行なうんだ。バンガロウ王国全体の資金の流用と商売の安定化を行なう」

「金融政策?」

「ああ、現在各商人ギルドや冒険者ギルドがお金を貸したり預かったりしているな?」

「しておる」

「それを国で管理する。国でまとめて一つの銀行を作り、誰もがお金が借りられるシステムを作るんだ。格差を最小限に抑えて、ある程度の家庭水準の向上を図る」


 アクは現代の知識を使い、利用できることを考えた。


「なかなかに面白い話だな。だがそんなことをして誰が得なのじゃ。むしろ誰でも商売ができて、我らがいる意味すら危うくなる。さらに向上させる資金はどこから産むのじゃ?絵空事ばかりじゃな」

「まず資金は国がため込んだ税金を使う。それで出だしはどうにかなるだろ。商売の元締めとしてキララとエビスに働いてもらいたい。資金は国が貸せるが、商売をするなら商人ギルドの管轄の元というのは変わらないようにしたい。さらにみかじめ料として商人ギルドに借りたお金の利息を国に払わせる。もちろん商人ギルドも貸し借りはできるが、それは国の管理として税を納めてもらう」

「なるほどな、資金流用とはそういうことか、確かに元手は国からだが、国に帰るお金は多くなって返ってくると言う訳か?」


 キララはアクの説明を聞いて、すぐにシステムを理解した。


「元々この世界の職業は、冒険者で一攫千金を目指すか、商人の下働きから始めて商人になるか、畑を継げる者はいいが、それ以外はごくつぶし扱いだ。さらに酷くなれば盗賊や奴隷にまで落ちる。そんな世界を変えるんだ。誰もがある程度の資金を蓄えられるような国を作り、教育機関を作り、色んな職に就けるようにする」


 現代世界を思い出しアクは話しをする。


「資金に潤いがあれば必ず回収もできる。どうだ、面白そうじゃないか?」

「アタシにその協力をしろと言うことかい?」

「ああ、今までの商売では手に入らないぐらいの金を扱う事になる」

「くくくははは、確かに面白そうだね。どうだいエビス、あんたは乗るのかい?」


 いつの間にか扉の前に立っていた太った男に話を振る。


「はい。そこまで壮大な話だとは思っていませんでしたが、アク殿に解放軍だと言われたときから協力を惜しまないつもりでした」

「そうかい。くくく、いいだろうあたしも乗ってやる」


 見た目は幼いので胸を張っても迫力はないが、言葉遣いが偉そうなので、ギャップにアクはなんだかおかしくなる。


「乗ってくれるか?」

「うむ、もっと話を詰めていこう。今のままでは漠然としすぎていてよくわからん点が多い」


 その後、エビスも交えて三人は夜通し話し合った。


いつも読んで頂きありがとうございます。

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