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盗賊になります1

生暖かい目で見てやってください。

 現状は、悲惨というか幸福というか……森を歩いていると人に出会えた。阿久井アクイ シゲルは森を歩いていると、原住民というか森に住んでいるらしい。盗賊さんたちに囲まれた。


 どうしてこんな状況になったかというと・・・


 転送されてから森を彷徨った。異世界なので方角もわからない。南に行っても、北に行っても、東に行っても、西に行っても、木、木、木、時々岩、マルーモがいたお陰で寂しいと感じなかったが唯一の救いであり、とりあえずマルーモに感謝する。


 飲み物は、すぐに川を見つけることができたので水の確保はできた。食料に関しては、食べられるかわからない、りんごに似た実や、そのへんに生えているキノコを手当たり次第に食べてみた。

 その結果……笑ってみたり、お腹を壊したりしながら、なかなか充実していた食生活を送ることができた。


 魔法の訓練も毎日欠かさずしていた。


 自身の魔法に名前を付けたみた。黒い球はブラックホール、相手を操る支配魔法はマリオネットとして練習を重ねて行った。

 ブラックホールは使い勝手がよく、水や食べられると判断した木の実などの果物をとった時のまま保存することができた。

 マリオネットは他者にしか効果が出ないため、水を鏡にして自分にして魔法をかけてみたが駄目だった。


「腹が減らないように腹が減らないように……ダメか~」


 なので、その辺の角の生えたウサギや緑色の鹿にかけてみることした。動物には有効だったので、肉をゲットすることができた。自ら進んで肉になりにくる動物たちに感謝しながら、食料の確保はなんとかできた。


 使っていく内にブラックホールは多種多様に使い分けられることが分かってきた。出し入れは自由自在、入れるモノの大きさも自由自在、但しブラックホールを使いすぎると疲れて眠くなる。眠くなるまで使って倒れるを繰り返していく内に、寝て起きたら使える回数が増えていた。

 最初は一日に三回ほどしか使えなかったのだが、今では最大五十回使っても気絶しないようになった。


 それを繰り返して一週間が過ぎた。サバイバルは元の世界では経験したことがなかったが、やればできるものだ。


 今では火も起こせる。火打ち石の要領で乾燥させた葉っぱに火花を飛ばせば火を起こせる。起こした火で川魚を焼いたり、額に角を生やしたウサギを焼いて食べた。

 ブラックホールに水を入れて、歩き続ければ人のいる場所に着くと思って、歩いていた結果が冒頭に戻るわけだ。


 確かに人には出会えた。目の前の人物達はどこからどう見ても、盗賊というような格好をしている。


「身ぐるみ置いて去れば命は許してやるよ」


 正面に立っている大柄な男は立派な顎髯を生やしていた。体格も大きく盗賊よりも傭兵でもすればいいのにと思ってしまう。男の言葉とは裏腹に周りを固めている男達は殺す気満々に目をギラギラさせている。

 大方「俺は許したが、部下が殺すのは仕方ない」とか言われるのだろうか?はい、そうですかと殺されたくない。むしろブラックホールを使えば簡単に相手を撃退できるんじゃないかとすら考えてしまう。

 

 でも、人数が多い。正面の男を収納している間に、他の九人同時に攻撃されたらヤバイかもしれない。


 準備しないとな……


「本当に持っている物を全部置いたら助けてくれるのか?」

「ああ、俺は約束を守る男だぜ。信じな」


 正面に立つ、盗賊のリーダーらしき男は黄色い歯を見せてニヤニヤと笑う。自信満々に宣言するが、まったく信用できない。


「いくつか質問してもいいか?」


 アクイは少しでも状況を変えようと話を振る。


「何だ?」

「ここはどこか教えてもらえないか?」

「はぁ~?お前頭おかしいのか?」

「いや、記憶がないんだ。だから、ここがどこかもわからないんだ」


 記憶喪失で可哀相な人を演じることにして、沈痛な表情を作って質問を続ける。


「記憶がないねぇ~ここは精霊と獣人の森エスカトンだぜ」

「精霊?獣人?」

「なんだ、お前。そんなこともわからないのか?ここはベンチャイス連合国の一つ、バンガロウ王国が管理している。精霊と獣人のアース大陸との端にある森って意味だ」


 盗賊のお頭は、だんだんとアクイを不憫な奴だと思ったのか、目つきが変わってきた。他の盗賊達も卑下した笑いを辞めて、可哀相な奴を見る目になってきた。

 なんだか居た堪れない。演技にハマってくれたみたいでありがたいが、こいつらチョレ~。


「ちっ、気分がのらねぇぜ。おい、記憶喪失野郎。もう、行っていいぞ」


 お頭の言葉に他の盗賊達も仕方ないなぁ~みたいな顔している。悪い奴らでもないかもな。魔法の準備をしてたけど、これならいらないな。


「もう一ついいですか?」


 だましたついでに出口も聞いてみる。


「なんだ?まだあるのか」

「出口もわからない……です」


 アクイの一言に、盗賊達は溜息を吐く者まで出てきた。


「仕方ない奴だな……ついてこい」


 お頭は、そういうとアクイの囲いを解いて手招きする。お頭の後に続いて歩くと、すぐに崖に出た。

一瞬落とされるのかと思ってビビったが、お頭は指を差して説明を始めた。


「この崖沿いの道を真っ直ぐ下って行けば崖の先に見えてる街道に出れるから、街道を南に進めばバンガロウ王国の王都に出れる。あとはその道を進めばいいさ」

「親切にありがとうございます」


 アクイは心底助かったと笑顔を作り、頭を下げた。お頭はバツが悪そうに頬を掻いて照れている。改めて顔を見ると、怖い顔をしているが、結構優しそうな目をしている気がする。


「このご恩は忘れません」


 アクイは丁寧にお礼を言って、盗賊達と別れた。教えてもらった通り、崖沿いに山を下って行った。街道に出るのに一時間ほど歩いたが、言われた街道に出ることができた。

 盗賊達の話し通り、さらに南に1日歩いたところに門が見えてきた。


「すみません、街に入りたいのですが?」

「身分証はあるか」


 門番をしている屈強そうな兵士に呼び止められる。


「ないです……ないと入れないんですか?」

「いや、ないなら手続きすれば入れるぞ」

「よかった。じゃ手続きを」

「じゃ銅貨1枚だ」

「えっ?お金いるんですか」

「うん?当たり前だろ。ほら、早く出せ」

「すいません、有り合わせもありません」

「はぁ?銅貨1枚って言ったら平民の子供でも持ってるぞ」


 ちなみに銅貨一枚は100円と同価値らしいので、子供のおこずかいだと言われても仕方ない。屈強そうな兵士さんは呆れた様子で、どうしたものかと考え出す。


「すまないが。金もない、身分も定かではない者を入れるわけにはいかない。どこかの村に行って、ギルド登録をするか、金を用意してきてくれ。ギルド登録にも金がかかるから、どこかで稼ぐしかないが……」


 兵士は申し訳なさそうな顔をする。


「どうしても入るのはダメですか?」

「ダメだ。・・・俺も何か紹介してやりたいが、お前が何者なのかもわからんからな。どうしてやることもできん」


 アクイの顔を見ながら、申し訳なさそうな顔している。彼も仕事なのだ。このまま食い下がっても意味がない。むしろ、この世界に来て思うが、盗賊も兵士も優し過ぎるぐらい親切だった。


「わかりました。困らせてしまってすみません」


 アクイは、そういうと立ち上がって詰所を後にした。宛てもなく他の村に行こうにも、どこに村があるかわからない。村がわかったとしてもお金を稼ぐ方法がわからない。

 困り果てたアクイが目指したのは盗賊達と出会った森だった。



読んでいただきありがとうございます。

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