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阿久井 重ことアクは、バンガロウ王国を陥落させた後、処理に追われていた。最初こそ抵抗していた武官や文官もいたが、王の死が広まるにつれて、それも鎮圧されていった。
アク達がバンガロウ王を討った時、最初に謁見の間に飛び込んできのは、百人長バルドベルドと十人長グルーだった。王の首が転がっているのを見て、すべてを理解した二人は膝を折る。
「……王は討たれたのか」
バルドベルドの一言で、グルーは跪いて泣いた。バルドベルトは気丈に顔を上げて、王を殺した者達を見る。
「お前たちがやったのか?」
「そうだ。これから、この国は我らシルバーウルフが取り仕切る」
「そんなことができると思うのか?」
「できる。手始めに、このバンガロウ王都を手中に収める。お前たちは抵抗するか?」
「・・・」
バルドベルドは無言でアクを睨み付けた。
「抵抗するか?それは誰のために戦うんだ?王は死にバンガロウ王国は滅んだ。戦争は終わったんだ。これ以上無駄な戦いはするな」
「わかっている。俺にも家族がいる。だが祖国のために戦いたいと思うのは悪い事か?」
バルドベルドはアクを睨み付けて反論を口にする。
「悪くはないが、無駄な戦いになる。俺達はお前が思う祖国の民達のためだと思って戦ったのだ。同じ祖国に住む者なら王の圧政もわかっていたはずだ」
アクの演説のような声に、バルドベルトは考える。
「・・・」
バルドベルドは沈黙し目を瞑る。
「我らと共に来い。この国は今から変わる。良い国を共に作ろう」
「今はまだ決められぬ。だが、戦いが終わったことは……皆に伝えよう」
バルドベルドはドイルやグルーと違い、泣き崩れるのではなく、真っ直ぐ王の亡骸を見つめ、一礼して謁見の間を後にした。バルドベルドの働きがよかったのか、その後の兵士の抵抗は速やかに鎮圧された。
兵士が落ち着くと、逃げ出していた文官達も城に顔を出した。メイドや執事、従者達は元々抵抗せずに従う姿勢を見せた。
そして南門からハッサン率いる解放軍が中に入ることで、王の死は決定づけられ、さらに牢屋に入れられ馬車で引かれてやってきた。シャリス百人長、ランド千人長、バルツァー万人長の姿を見た民衆は、バンガロウ王国終焉を理解した。
王は負けたのだ、民は嫌でも認識するしかなかった。ハッサンはそのまま城まで行進を続けた。城に入る手はずはグラウスとバルドベルドが整えた。
「あいつら上手くやったな」
「そうですね」
ハッサンは、副官としてやってきたダンと共に声をかけて喜びを分かち合った。民衆は戸惑いがあったが、逆らえば殺されてしまうかもしれないと思いで、誰も声を挙げなかった。
バンガロウ王国の旗が下され、シルバーウルフの旗が掲げられる。
数日が経ち、アクは更なる民衆の心を掴むため一つの魔法を披露して回った。
それは戦いに行き、体が痺れて動けないままでいた者や、眠りについて未だに目覚めない者達に白い霧を振り掛け歩いたのだ。
それはまるで神の御業だった。もう助からないと諦めていた人々の心を救い、苦しんでいた本人たちも痺れが取れ、眠りから目覚めていった。
「神官様」
人々からは神の使いとして頭を下げられ、王を倒したのは神の意志という言葉まで広がった。
「ここまで計算していたのか?」
サントンが城の執務室にあるアクの部屋を訪れ質問してくる。
「いや、俺の魔法がいつまで効果が続くのかは知らなかった。だが、一週間も続いていれば家族も不安になり、悲しみに暮れることになるだろう。それを解消してやることで民衆の印象が良くなるなら、いいことじゃないか?」
「つくづくお前は怖い奴だよ」
アクはここまで考えていなかった。いなかったが使えるモノは使っておく。
「そうか、お前ほどじゃないけどな。サントン王」
「王なんてガラじゃねぇよ。それにお前が俺を祭り上げたんだろ」
「さぁ知らないな。悪王を倒した勇者が王になるのが当たり前かと思っただけだ」
「そうかよ、俺には学がねぇ。お前にはたっぷり働いてもらうからな」
サントンは少し嫌味を返して執務室を出て行った。
「異世界にきてこんなことをするとはな」
独り言を呟く、アクは城からの眺めにため息を吐いた。
ーーーーーーーーーーー
未だに二千近い兵は、バンガロウ王国最北のドレーダル街に待機しており、さらにそこには千人長の一人と宰相が逃げ込んでいると予想できた。
未だにバンガロウ全域は手に入れていないが、王都を落としたことで最初の計画である国家崩壊は叶った。ここからは、安定させて外交を行ない他国と渡り合える国を作らなければならない。
良くも悪くもバンガロウ王は他国から恐れられていた。精霊の力を使い、一瞬で国を滅ぼす力を得ることもできたのだから、脅威がなくなった今、他国がどう動くかも考えなければならない。
他国の動きがある以上二千近い兵がいるドレーダル街の将は動くことはできないはずだ。
なんとかこちらに介入できないか?アクはすぐにバルドベルトとドイルの二人を執務室に呼びつけた。二人には今も王国時代からの兵を管理してもらっている。
文官や内務の混乱を避け、税や国の方針は今は変えていない。大きく変えるときは今ではないのだ
「バルドベルト、ドイル参上いたしました」
「入れ」
「はっ」
二人は軍人であり、アク達のことを正しいと思ったからこそ、付き従ってくれている。バルツァーやランドも解放したが、二人は引退をさせてほしいと言ってきた。アクはそれを許し、現在は家で隠居生活を送っている。
シャリスに関しては、軍への帰還を強く促したが、聞き入れられずどこかに姿をくらました。
「二人に聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「ドレーダル街を守護しているボルドとはどういう人物だ?」
「セントハルク千人長ですか?」
ドイルが聞き返す。
「ああ、そうだ」
アクは頷き返すと、二人は顔を見合わせる。
「セントハルク千人長は実直で良い人です」
「良い人?」
「頼まれると断ることができないと言うか、人の頼みを無碍にできない方です」
「なら頼んだらこちらについてくれるか?」
「わかりませんが、可能性はあるかもしれません」
「早速頼んでもいいか?」
「「はい」」
二人の評価を信じ任せてみることにした。
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