裏切り者になります16
仲間達と別れたアクは、エビスの執務室に来ていた。執務室に用意されたフカフカのソファーに、腰を下ろした。
「それでどういうことなんですか、アクさん」
「王都を責めることになった」
「いよいよですか」
エビスは商人であり、アクたちが勝利していることを知っているのだろう。
「あまり驚いていないようだな?」
「無敗将軍が負けたと連絡が入っていますので」
「さすがだな、情報が早い」
「昨日兵達が帰ってきましたので、それに何やら王宮でも不穏な動きがあると情報も入っております」
「そうか、相手の兵力はわかるか?」
エビスの目が商人へ変わり、情報も商売だと言っている。
「それは商売ですか?」
「良き友よ。商人同志の情報提供を求める」
「敵いませんね。良き友よ。王都の兵士は精々千二百ほどです。帰ってきた兵士達は、未だに眠ったまま動けていません。二千近い兵は、元々バンガロウ王国最北のドレーダル街に集められています」
聞きなれない街の名前が出てきて、アクは疑問に思う。ここまで内戦が進み攻め込まれているのにどうしてまだ兵を温存しているのか。
「どうしてドレーダル街に?」
「守備の要ですので、そこから兵を動かすのはアース大陸からの侵攻があったときぐらいでしょう。そしてそこには千人長が守備を務めているはずです」
「そうか、じゃ残る千人の兵を指揮するのは王様自身が執る可能性が高いな」
「そうなります。現在指揮を執れる人間は、ドイル百人長ぐらいのものです。しかし、ドイル百人長は先の戦いで生き残ったことを、王様に疎まれているという噂ですから」
アクは戦場で交渉を行った隊長の名前がドイルであったことを思い出す。
「ドイルか、この間前線指揮を執っていた奴だな。判断力があって良い指揮官だったと思うが、王は無能なのかもな」
「ドイル百人長に会われたと?」
「ああ、撤退を頼んだ相手が、確かドイルだったと思う」
「そうですか、すでに会っていましたか」
「何かあるのか?」
「ドイルと私は親友でしてね。ドイルは、もうこの国では出世できません」
「それは俺達に負けたからか?」
「はい。最高責任者、副責任者が揃って捕まり、責任を取る者がドイルしかいなかったもので」
エビスは親友のことを思ってか沈痛な顔になる。しかし、その話を聞いてアクにはある提案が思い浮かんだ。
「そうか、早急にドイルに会えるか、頼みたいことがあるんだ」
「なんとかしましょう。事情はだいたい把握できました。最後にお聞きしても?」
「なんだ?」
「国を滅ぼした後どうするつもりですか?」
「しばらくはバンガロウを安定させて他の国との外交をする。それが終わったら、個人としてはアース大陸に行こうと思っている」
「そうですか、アース大陸へ行くのでしたら、私から提案があります。もしアク様が王国転覆を果たした暁には、下で捕まえている奴隷達を全て引き取ってもらえませんか?」
「金はないぞ?」
「お金は要りません。その代わりに私との今後も商売をしていただきたい」
エビスは王国転覆後の話をする。それはエビスが協力者になったことを意味しており、これからの商店について切り替わっていた。
「抜け目がないな、わかった。これからもよろしく頼む。良き友よ」
「こちらこそ、良き友よ」
二人は固く握手をしてアクは部屋を出た。
「どうだ、ドイル?」
アクが執務室を後にすると、エビスは隣の部屋にいるドイルに声をかけた。
「戦場であった時よりも狡猾な印象を受けるが、間違いないな」
「どうだ彼の下で仕えてみるのは?」
「騎士が王国を裏切るか、少し考えさせてくれ。これでも一応王国を代表する騎士だ」
「そう時間はないぞ?」
「今夜一晩で考える」
エビスの計らいでドイルはアクを観察していた。
「わかった。一つだけ忠告しておく。あの方を侮るな」
「どういうことだ?」
「現在の商店の形を考えたのはアク様だ。俺はそれに乗っかっただけだ」
「このデパートはあいつの案か」
「そうだ。それにただの盗賊だった者達を使い、今では王国を滅ぼしかねない解放軍にまで押し上げた。それもたった一週間ぐらいでだ」
「とんでもないな」
「ああ、明日朝にお前を紹介する。あの方には何かお前を使っての考えがあるらしい。どうするかはお前次第だが、これはチャンスだと思うぞ」
「わかった。とにかく考えさせてくれ。」
「ああ。そのまま客間を使うといい。俺は自室に戻る。」
エビスはそういうと部屋を出た。一人残されたドイルは、戦場の事を思い出して決心を固めた。
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エビスと別れ部屋に帰ってきたアクは驚いていた。
「なんで?セシリアがいるんだ?」
「あら、アク様。私が居ては不都合でも」
意地の悪い笑みを作り、セシリアがアクを上目遣いにのぞき込んでくる。
「あっいやそういう訳じゃ」
アクは逆に質問で返されたことで、しどろもどろになってしまう。
「ふふふ、別にアク様の不利になるようなことは話していませんわ」
「そう、そうか・・・」
セシリアは悪戯が成功した子供のように楽しそうに笑う。アクはエリスとセシリアの組みわせというだけで気が気でいられない。
「アク、何かやましいことでもあるの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
今度はエリスがアクを責めるように見つめてくる。いつの間にか、結託している二人にタジタジになってしまう。
「アク様が帰っていらっしゃったので、私はそろそろお暇しますね」
そういうとセシリアが立ち上がる。
「セシリア、とても楽しい時間をありがとう。これからも良い友達でいてね」
「もちろんよ、エリス」
女性同士はいつの間に仲良くなるのだろうか、部屋を出ていくセシリアを見送り、アクはやっと一息つく。
「友達ができたみたいでよかったな」
アクはヤレヤレとため息を吐く。
「セシリアに告白されたことがあるんだね」
「なっ!」
気を抜いた瞬間にカウンターパンチを浴びせられた気分になるアクにエリスは楽しそうに笑う。
「ふふふ、セシリアが教えてくれたの。でもセシリアは断って、私は受けてくれたのね。どうして?」
「エリスを初めて見たとき、その時から惚れていたんだと思う」
「ありがとう」
エリスはそういうとアクの胸に飛び込んできた。ここは安宿ではなく、ホテル並みの完備がなされているので、外に声が漏れ聞こえることはない。
「エリス」
アクは抱きしめていたエリスの唇に自分の唇を重ねる、二度目のキスは少し長く、エリスも子供ではないのだ。この後のことを想像して少しはにかんだ。
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