表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/213

旅立ち

読んでいただいている方がいるので嬉しいです(^^)

 王国滞在三日目


 アリエルの態度が急変した。親切に身の周りの世話をしてくれていたのに、三日目の早朝に突然寝込みを襲われたのだ。


「シゲル様。おはようございます。そしておやすみなさい」


 落ち着いた雰囲気だったアリエルは何かを決意した顔で、ナイフを握り締めている。


「おいおい、穏やかじゃないな、何があった?」

「……状況が変わりました。シゲル様は私達が思っていたよりも聡明で危険な人物のようなので、死んでもらう必要ができました」


 ナイフを片手に持ち、アクイの前に立つアリエルに動揺してしまった。だが、アクイはあらゆることを想定していた。異世界では何が起きても不思議はない。

 最初から王様を信じていなかったので警戒はしていた。だが、いきなり暗殺されるとは思わなかった。


「王の命令か?」

「お答えする事はできません」

「それはもう答えを言ってるようなもんだぜ」


 苦笑いしてアリエルを見るが、アリエルの目に光はなかった。暗殺者というやつなんだろう。人を殺すときに感情はいらないということだ。


「シゲル様には死んでもらうだけです」

「俺はまだ死にたくないな」

「あなたの都合など知りません」

「そうか……じゃ俺もアリエルの都合を考えてやる必要はないな」


 アリエルの目をジッと見る。


「あなたはまだ何もできません。今なら私でもあなたを殺せる。しかし、あなたが力を付けてしまえば、誰も勝てなくなってしまうかもしれない。そのときあなたが味方でいてくれる保証などありません。だからこうするしかないのです。死んでください」


 アリエルは踏み込もうと前傾姿勢で身を屈め足に力を入れるが、足は前に出なかった。


「味方に付ける努力をするとかは考えなかったのか?」

「闇は総じて災いを招き入れると言い伝えがありますので……でっ、どうして私は動けないのですか」

「案外冷静だな……もっと狼狽えるかと思ったんだけどな」

「十分驚いています。ですが、慌てても仕方がないので答えてください」

「暗殺者ってやつはスゴイな。で、なんでこんなことをする」

「答えると思いますか?」

「思わんね。だから反則だけど支配させてもらう」


 昨日マルーモにされたときは、何をされたのかわからなかった。しかし、使ってみてこの魔法を理解した。目を見つめて相手の脳に直接魔力を送りこんで操る。要は支配するってことだ。

 相手を操ったり、状態異常を引き起こすことができるようで、昨日は体を自由に動かせるのかと聞いてマルーモに首を横に振られた。この魔法は、体だけじゃなく全てを支配できる。


 但し限定一名の制約があるようだ。


「もう一度聞く誰の差し金だ?」

「長老二人と王の命です。あとフフリア王女も知っています」


 脳への直接命令で、先ほどの強い反抗心は消えていた。アリエルがスラスラと話し出す。アクイはアリエルの心に命令するのではなく、脳に直接命令しているのだ。


「古より闇の勇者が召喚された際、禍が共に生まれると言われています。そのため闇の勇者は他の勇者と分けて監禁するか、すぐに殺すことになっています。一日目のパーティーで性格を判断して、二日目で能力を見ました。それを踏まえたうえで、闇の勇者は危険だから殺すという結論にいたりました」

「なるほどな」


 虚ろな表情をしたアリエルの話を聞いて、城の中にいるのは危険だとアクイは判断した。


「アリエル、俺が脱出するためにはどうすればいい?」

「シゲル様が脱出するためには代わりの死体を用意して頂くのがよろしいかと思います。私が闇の勇者を殺したと言いふらします」

「身代わりか……身代わりにできる奴なんかいるのか?」

「中庭を見てください。あそこに庭師をしている若者がいます。彼は城に勤めて三日目です。家族も老婆と二人暮らしをしているそうです」

「アリエル、お前は罪もない人間を殺すのか?」

「シゲル様を助けるためには必要なことですから」


 脳に直接命令することで最善手を考えてくれているのだろう。アリエルに感情は介入しないためか、元々アリエルの考えがそうなのか、一人を助けるために身代わりを殺すと言っているのだ。


「俺は人を殺したくない。まだその覚悟はないよ」


 マルーモに質問してみる。


「どうにかできないか?」


 此方を見上げて嬉しそうに首を縦に振る。黒い球体を吐き出して、アクイに黒い球体に入るように促す。黒い球体に入る前にアクイはリリースと念じてアリエルを解放してやる。


「アリエル、色々教えてくれてありがとう。俺は城を出ることにした。二日間だけど世話になったな。もう会うことはないと思う。じゃあな」

「待ちなさい。あなたをここで逃がすわけにはいかないのです」


 アリエルは慌てて手を差し伸べるが黒い球体にアクイは吸い込まれた。


「絶対に逃がしません」


 視界が暗くなるなかで、アクイはアリエルの絶叫が聞こえてきた。


ーーーーーーーーーーーーー


 暗闇が終わって光が差し込んできたので目を開ける。


 そこは森だった。周りには木、木、木、どこかわからない。ルールイス城ではないことは確かだが、周りに建物らしき物が一つもない。


 今の現状を整理する。


 三日前に召喚されて異世界にやってきた。二日前に魔法に触れてマルーモと契約した。今日は朝から魔法と世界情勢を教えてくれていたアリエルに殺されかける。


 なんだこの展開、俺……不憫だ。


「キュ」


 マルーモが元気出せというように声を出している。


「励ましてくれるのか?ありがとうな、マルーモはここがどこだかわかるか?」


 申し訳なさそうに首を横に振る。マルーモもわからないらしい。とにかく、魔法に吸い込まれて気付いたら森にいた。


 転移系の魔法なんだろうな。


「マルーモに使えるってことは俺にも使えるってことだ。練習して使いこなせるよう成れば便利だな。それよりもまずは朝飯だな。今日は起きてすぐに襲われたから何も食べてないや。森だし何かあるだろ、とにかく歩き出すか」


 アクイの冒険は森から始まる。



読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ