裏切り者になります13
アクはエリスの家族との顔合わせを済ませた。顔合わせと言ってもアクに両親はおらず、ダントとグラウスは仕事で顔を合わしているため、ダントの妻であり、エリスの母親にアクを紹介して、共に食事を摂ったに過ぎない。顔合わせを終えて、アクは宿に用意している自分用の部屋で休んでいた。エリスは親と話をしてくるということで、クック村に用意されているダントの家に泊まっている。
コンコン
朝も早い時間に、アクの部屋の扉がノックされた。
「誰だ?」
「軍師殿」
「グラウスか、こんな時間にどうした」
アクは声と言葉で、グラウスと判断して扉を開ける。そこにはいつも自信満々で、クールに仕事をこなすグラウスではなく、何かに怯えて挙動不審になったグラウスがいた。
「御免」
グラウスは部屋に入り、おかれていた水差しの水を飲み干す。
「いったいどうした。頼んでおいた仕事は済んだのか」
「王は化け物でした……」
「はっ?」
グラウスが一言で王を現したことに驚き、聞き返す。
「いえ、すみません。バンガロウ王国の王シシンガーは、バンガロウ王国に伝わる精霊を召喚して使役しました。その力はとてつもなく強く、我が逃げる際も、ずっと監視されているように感じ、後ろから見られているような恐ろしさがありました」
「そうか。精霊か」
「はい。あれは人間の手に負えるものではない」
グラウスはすっかり怯え、彼本来の冷静さを欠いている。アクはどうにかできないかとマルーモを見る。マルーモは緑の霧を出してグラウスを眠らせた。
「それにしても精霊を召喚しただけで、どうしてこんなに怯える必要がある?」
グラウスをソファーに寝かせ、マルーモを見つめる。
「なぁ、マルーモ。精霊って何かあるのか」
「キュ?」
マルーモが不思議そうな顔をした後、アクに近づいてきた。そのままアクに抱き着くように胸に飛び込み、アクの中に消えていく。
「うおっ!なんだ、マルーモ?」
アクは慌てるが、マルーモの姿は消えて、アクの周りに黒い膜が生まれる。初めてマルーモと契約した時のことを思い出し目を瞑る。体の中心が熱くなり、心の中で語りかけてくる声が聞こえる。
「僕を呼んで」
心の中に聞こえる声に従って言葉を紡ぐ。
「闇に眠る強欲の業火。全てを欲し、全てを食らい、全てを求める。欲するは力、欲するは強さ、我は求める。お前に力を。いでよ アモン」
言葉が終わると、力が体から溢れ出てくるのが分かる。
「アモン?それがお前の名前か?」
「うん。そうだよ」
今まで動物の形をしていたマルーモは、真なる名前で召喚したことで人型になる。
「お前、女だったのか?」
そこには灰色の髪をした少女がいた。肌の色は白く、黒いワンピースがより肌の色を際立たせる。悪戯っぽい笑顔を浮かべたアモンがこちらを見ている。
「う~ん、精霊だから性別とかはないんだけどね。どっちでもいいよ」
「そうか。でもどうして急に人型で話せるようになったんだ」
「それはマスターが僕の名前をちゃんと呼んでくれたからだよ。真の名前を呼べるのは相当の魔力波長が合わないと無理なんだ。でもマスターと僕の相性は最高だからね。いつでも出てこれたんだけど、必要なさそうだったから、力を貸すだけにしてたんだよ」
マルーモは元の姿に戻ったというが、体に漲る魔力は今までよりも遥かに強くなったように感じる。
「今回は相手にも精霊使いが出てきたから出てきてくれたのか?」
「そうだよ。相手は火の精霊だね」
「わかるのか?」
「うん、感じるからね。僕の方が上位の精霊だから心配しなくていいよ。この姿で召喚されたことで、マスターの体は強化されたはずだよ。使える魔法の知識も解放されているよ」
確かに今まで漠然としてしかわからなかった魔法が、どういうものかわかるようになっている。体の方も、今まで感じたことのないぐらい力が漲り充実している。
「異世界に来てからそろそろ一カ月経つが、やっと俺もチートの仲間入りか。魔法は確かに便利だったけど正直地味だと思ってたんだよ。ぐふふ、この力があれば何でもできそうな気がするな」
「マスター?一応言っておくけど僕を召喚していることで、力は強くなってるけど魔力は常に消費状態だからね」
「そうなのか?」
「うん。この体を維持するのにマスターの魔力が必要だからね」
「その体を維持している間は俺は魔法が使えないのか?」
アクは厨二病状態に陥りかけたが、アモンによって現実に引き戻される。
「そんなことはないよ。精々今まで使っていた半分ぐらいになるだけだよ」
「そうか。ブラックホールが50回ぐらいだったのが、25回ぐらいになると言うことか」
「そういうこと。僕の出番はまだ先だと思うけど。相手が同じ精霊使いなら遠慮はいらないだろうしね」
「わかった。助かる」
「うん。これからもよろしくね。マスター」
アモンはそういうと、いつもの定位置になっているベッドの上で眠ろうとする。ハリネズミの時よりも体が大きくなっているので、ベッドを独り占めしてしまう。
「お前用に、もう一部屋用意するか」
力の代償は魔力だけではすまないと理解した。
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