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裏切り者になります12

 グラウスはアクの依頼により王宮の中枢まで入り込んでいた。


「ここまで我が追い詰められるとはな」


 グラウスは一人の人物をマークしていた。アクからその人物がどういう人物で、何を考え、何を思い、どういう行動を取るのか、できるだけ多くの情報を集めるように頼まれていた。


「我がバンガロウ族に伝わる精霊よ。バンガロウの危機に、この身を捧げる代わりに我の生涯の友として生きることを切に願わん。いでよ」


 召喚の間にて、王であるシシンガーはバンガロウに伝わる精霊を召喚した。本来精霊は魔力が強き者に宿るとされているが、バンガロウ族には古より崇め奉る精霊がいた。精霊は奉られる代わりに、バンガロウ王国が危機に瀕した際、族長に当たる者の祈りにより召喚される。


「我を追い詰めたこと後悔させてくれる」


 未だに三千近い兵を有しているが、圧倒的な優位に立っていてもシシンガーの心は穏やかになることはなかった。バンガロウ史上、アース侵略時にしか封印が解かれなかった精霊が解き放たれた。

 グラウスは召喚の間に入っていくシシンガーを見る事しかできず、どんな精霊が召喚されたかまではわからなかった。

 しかし、シシンガーが召喚の間から出てきたことで、幾度の侵略からもバンガロウ王国を守ってきた精霊を見た。グラウスは身震いした。浮かんでくるのは恐怖だったが、集められるだけの情報をかき集めることに専念した。


 今は風貌も王宮に勤める下郎格好で色々なところに、潜入して聞き耳を立てていた。情報を集めるため同じ下郎同士の会話に参加した。そうすることで、いくつかの王の情報を得ることができた。簡潔な情報だけでもと伝書鳩を用意してアクに送り届けている。後は夜を待ち王宮を抜け出すことで任務完了となる。


「してお前は誰だ?」


 下郎姿で廊下を歩いていると、いつの間にかシシンガーが真後ろにきていた。


「これは陛下。私のような下郎にお声をいただきありがとうございます」

「うむ。下郎か……にしては鍛えられた筋肉だな。無駄のない動き、魔力の流れも感じる。怪しいな」


 シシンガーは精霊を召喚したことで、感覚が研ぎ澄まされていた。


「はっ!昔は奴隷魔法使いをしておりました。今でこそ借金を返してこのように雇っていただける身分になりました」

「そうか。魔法使いか……強いのか?」

「王の武勇には到底及びませぬ。ただ日々を生きるのに必死であっただけです」

「うむ、まぁ良い。お前名前は?」

「グラウスでございます」

「グラウスか、覚えておこう」


 グラウスの油断ない動きに警戒はあったが、シシンガーはこの時気分がよかった。精霊の召喚が上手くいき、先への憂いが減ったので油断を生んだ。


「はっ、では私はまだ仕事がありますので」


 シシンガーに一礼をして足早にグラウスはその場を去った。背中には滝のように冷や汗が溢れ、生きた心地がしなかった。シシンガーを初めて見たときの、印象は武勇を愛し鍛え抜かれた体で短気な側面も見える幼さを残していた。しかし、精霊を召喚したシシンガーは全てが充実していた。魔力が体全体を包み、気性が激しい部分は穏やかになり、心にも余裕が見られように感じられた。

 精霊を召喚したことで、油断ならない人物になっていた。


「これが精霊の力なのか?」


 グラウスは一秒でも早く城を抜け出し、このことをアクに知らせなければならないと思った。最強の将軍を倒し、障害となるのは兵の数だけだと踏んでいた解放軍に、またしても大きな障害が生まれたことになるのだ。

 グラウスは夜の闇に紛れて、陽炎を全力で使い逃げることに専念した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ネズミが紛れ込んでいたようだな、シシンガーは夜に魔力を感じ、外を見る。朝に会ったグラウスが必死の形相で逃げていく姿を見る。


「ふふふ、これで相手も我の力を知ることになるだろう。それでも攻めて来るというなら来るがいい。我は負けぬ。ふははははは」


 夜の月を眺め、シシンガーはベッドで眠る。隣には人形のような整った容姿をして、真っ赤な髪に白いワンピースを着た女性が寝そべっている。シシンガーはその女性の頭を撫でる。


「お前がいれば我は最強だ。なぁ、サラよ」


 彼女こそがバンガロウ王国の精霊サラマンダーであり、それが召喚された姿でもある。精霊は様々な形を取る。召喚する際、召喚者のイメージにより形が作られるからだ。

 シシンガーの精霊に対するイメージは女性だった。シシンガーにとって、女性は神秘なものであると教育されてきたからである。

 頭を撫でられている精霊は目を開き、憂いに満ちた目でシシンガーを見つめる。シシンガーは今にも押し倒したい衝動に駆られるが、精霊を邪険に扱うことはできない。すり寄ってくるサラマンダーを優しく抱きしめ、自身もベッドへ倒れこみ眠りについた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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