裏切り者になります11
朝日が差し込むベッドの中で、隣に眠るエリスの寝顔を見て、嬉しくなり頭を撫でる。勘違いが無いように言っておくが、エリスは服を着ているからな。俺もちゃんと服を着ているぞ。
昨日はロマンチックな雰囲気を作って告白した……誓いのキスまではした。
その先は、まぁあれだ・・・踏ん切りがつかなかった。勢いに任せていけばよかったのだが、ヘタレと呼ぶがいい。そうさヘタレさ、何が悪い。
アクが目覚めてから自問自答していることは放っておいて、久しぶりにクック村には平穏な朝日が差し込んでいた。王国から立て続けに襲撃を受けはしたが、退けることに成功し、一時的だが心穏やかに過ごせる余裕が生まれた。
「アク。どうしたの?」
「起こしたか?すまない」
現在二人は、アクが仮宿にしている宿屋の部屋で寝ていた。エリスが付き合うならば、いつも一緒にいないとダメだと言うのでこうなったのだ。因みにルーにはエリスの部屋で寝てもらっている。
「おはよう。エリス」
「おはよう。アク。なんだか恥ずかしいわね」
頬を赤らめ、シーツを引き寄せるエリスは可愛かった。
「そうだな」
そう言いながらエリスのおでこにキスをする。
「そろそろ起きよう。朝食を食べにいって、みんなに報告しに行こう」
「うん」
二人は朝の支度をしながらも、じゃれ付き合って食堂に向かった。食堂では先に来ていたルーが食事を摂っていた。
「ルー、おはよう」
「「おはよう」」
アクが挨拶してエリスとルーの挨拶が重なる。ルーも自然に宿屋に溶け込めるようになっていた。
「へへへ。二人は仲良しになったんだね」
悪気のないルーの言葉に反応して二人は顔を赤くする。朝食を三人で済ませて、みんなが集まっているギルドの酒場に向かう。
「おう、アク。おはよう」
ギルドに入ってすぐにサントンに声をかけてくる。サントンの横には、ギルドの看板娘のロカが朝食の用意をしていた。
「おはよう、サントン。ロカ」
「おはようございます」
ロカにも挨拶を返されて奥へと向かうと、ゲオルグ達幹部が座っていた。
「お頭。ダントさん。少し話を聞いてもらってもいいですか?」
「おう。なんだ?エリスじゃねぇか。どうしたんだ」
アクとエリスの二人が連れだって歩くのを、見るのが初めてなゲオルグは首を傾げ、グラウスは納得した顔で、ダントは何となく察しているのか、アクを憎々しげに見つめている。
「実はエリスと一緒になろうと思います。それでお頭とダント義父に報告と思いまして」
「なんだ?お前らそういう関係だったのか。めでたいな、王国に勝利した翌日に結婚とはめでたいことが続くな。なぁ~ダント」
「ああ」
ゲオルグに肩を叩かれて同意の言葉を発するが、ダントの表情は全くめでたくなかった。
「アク。男同士の話がある。いいか?」
ダントが立ち上がり、外にくるようにアクに言う。
「はい」
アクは内心びびりまくっていた。戦えば確実にアクが勝てる。しかし、父親になる相手に暴力を使うことはできないから、一方的に殴られるイメージをして顔が青くなる。
「アク?」
エリスが服の袖を掴みアクを止める。アクは「大丈夫」と小声で言って、ダントと一緒にギルドを出て行った。
「がはははは。娘の父親は大変だな」
ゲオルグは楽しそうに笑い、グラウスはエリスの肩に手を置いて一言告げる。
「よかったな」と言葉をかけてギルドから出て行った。
平和な日々を持続させるためにも情報がいる。グラウスの仕事がなくなることはないのだ。
「チキショウ!どうしてアクみたいなひょろい奴がモテるんだ。どうして俺のとこには女が来ない」
ハッサンがアクの発表を聞いてから、震えていたのは悔し涙を流していたからだった。
「お前は誰でも声をかけるから女達に信用されないんだろ。あと顔が悪い」
サントンが、からかい半分、悪口半分で言葉をかける。ますます落ち込むハッサンの出来上がりとなった。
「どうせ俺はモテん」
一人膝を抱えて座り込んだハッサンを慰める者はいなかった。外に出たアクと、ダントを思ってエリスは外を眺め続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ギルドから出ると、ダントは俯きため息を吐く。クールなイメージのダントからは想像できない、父親の顔をしている。
「なぁ、アク。どうしてエリスなんだ?確かにエリスは可愛いくて美しい、それに気立てもいい。目に入れても痛くないほど可愛い俺の娘だ。どこの誰が見てもエリスを選ぶのはわかる。わかるが、どうしてエリスなんだ?」
親バカ全開で何か言っている。ダントに冷静ないつもの感じは全くない。娘の父親とはこういうものかと、アクは内心落ち着くことができた。
「エリスが言ってくれたんです。何があっても私はあなたの味方だと……嬉しかった。異世界人として召喚された自分が、初めて心から気を許してもいいと思える相手をみつけられたことが心から嬉しかった」
アクの言葉を、ダントは黙って聞いていた。
「ダントさん。俺はエリスを大切にしたいと思っています」
拳を握り占めたダントが振り上げた。アクは目を瞑り殴られる覚悟をする。しかし、ダントの拳はアクの頬ではなく、肩に置かれた。
「エリスを頼む。あの子は気難しい子で、誰も相手をしようとしなかった。正直不安もあった。アク、ありがとう。あの子を幸せにしてやってくれ」
ダントはエリスの事を心配していた。そして、アクへの不安半分、エリスの貰い手が決まった事への安堵が半分だったようだ。
「これから俺の事はお義父さんと呼ぶがいい」
今までの知的でダンディーな雰囲気はどこかに消えてしまった。アクを息子扱いするダントの目は少し怖かった。それでも認めてくれた喜びの方が強くて、自分に二人目の父親ができたのは嬉しかった。
「はい・・・お義父さん」
「うんうん。これからよろしく頼む。後で妻にも会ってやってくれ」
「はい」
二人は連れ立ってギルドに戻り、二人の様子にエリスが喜んだことは言うまでもない。
いつも読んで頂きありがとうございます。




