裏切り者になります10
勝利の宴が開かれ、いつものドンチャン騒ぎに突入する。ルーの正体を明かしても、解放軍の幹部は誰も何も言ってこなかった。ルー自身も気にしていないという感じで、並べられた料理を片っ端から頬ばっていく。村人たちも勝利の余韻に浸りたいと、今回は村を挙げての祝いとなった。
アクはある人物を探していた。その人物は子供達に囲まれて、楽しく笑って食事をとっている。その姿は可愛らしさを残しながらも温かみがあり、子供達を見つめる目には慈愛が込められていた。
「エリス。少し話をしてもいいか?」
アクはエリスに声をかけた。子供達もアクのいつもと違う様子に気付いて黙りこむ。
「ええ。いいわよ」
エリスは子供に声をかけて、アクのところに来てくれた。
「ねぇねぇ、あれって告白?」
「シィ~~今は黙っておくのが礼儀なの。これだから男は」
去っていくアク達の後ろで、子供達が何やら話しているのを聞いて、気恥ずかしくなる。
「ついてきてくれ」
アクは居た堪れなくなり、エリスの手を取り、足早にその場を去った。村を出てすぐ転移を使う。元々アジトにしていた岩場に飛んでから、岩の上に腰を下ろす。
「あっ、という間に移動できるのね」
転移に驚いたエリスの言葉を聞きながら、アクは空を見る。元の世界とは違い、そこには満天の星空が広がっている。岩場は空を見るのに邪魔な物が何もない、森の中ではここまで満点の星は見えない。
「約束を覚えているか?」
「戦いが終わったら返事をくれるって言ってたことかしら?」
エリスは少しおどけて答えを返してくれる。
「ああ。質問してもいいか?」
「どうぞ」
エリスの方が少し余裕があるのか、こちらも見ずに即答で返してくる。アクは緊張していた。十も年下の少女に告白され、自分で本当にいいのだろうかと何度も疑問に思った。
異世界人の自分でいいのか?自分はまだ結婚はできないのにいいのか?これからさらに大変になっていくことで、エリスをほったらかしにしてしまうかもしれない。それでもいいのか全て聞きたかった。
「エリスはどんなことがあっても俺の味方でいてくれるか?」
「どういう意味?」
初めて顔を挙げたエリスは月明かりに照らされて、いつも以上に綺麗に見えた。赤い髪に幼さを残した可愛らしい顔、それが今は幻想的に見えて、とても綺麗に映っている。
アクが見惚れていると、エリスが質問を重ねてくる。
「アク?どうしたの?」
「あっいや。すまない」
顔を逸らして息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
「エリスの申し出を受けたい。だけどこれから俺はどんどん忙しくなるし、大変になっていくと思う。時には汚い仕事もするだろう。人から嫌われるようなこともする。エリスにも嫌われてしまう事をするかもしれない。それでも君は俺の味方でいてくれるか?」
アクは溜め込んでいた想いを一気に話した。受けて入れてもらえないかもしれないと思いつつ、自分が求めるものは若い少女には酷かもしれない。それでも軽はずみに少女の申し出を受けることはできなかった。
「私を試しているの?」
ダントに盗賊団の思想について聞いた時と同じ顔をしている。そんなエリスを見て笑ってしまう。
「なに?」
アクが笑ったことにエリスが驚く。
「いや、少し緊張が解けたよ」
「もう~で、私を試してるの?」
「そうかもしれない。不安なんだ。俺は今から悪い奴になるかもしれない。それでも君が俺の傍にいてくれるのか」
「そう。答えはイエスよ。あなたのことは私が支えてあげる。私はあなたと共に歩んでいきたい。何があっても」
エリスの言葉にアクは驚いて、エリスの顔を見る。彼女は真っすぐにアクを見つめていた。
「本当にそれでいいのか?後悔しないか?」
「後悔はわからないは。だってこれからするかもしれないもの。でも、そんなことを考えても仕方ないでしょ。でも、今の私はアクと一緒に居たい。もう置いて行かれるのは嫌よ」
「ありがとう。俺もエリスといたい」
アクはそういうと、エリスに近づきエリスを抱きしめた。
「エリスを離さない」
「アクを守ってあげる」
月明かりに照らされた二人は、誓いのキスをした。この世界に来て初めて、アクが心から気を許せる相手を得た瞬間になった。
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