表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/213

裏切り者になります10

 勝利の宴が開かれ、いつものドンチャン騒ぎに突入する。ルーの正体を明かしても、解放軍の幹部は誰も何も言ってこなかった。ルー自身も気にしていないという感じで、並べられた料理を片っ端から頬ばっていく。村人たちも勝利の余韻に浸りたいと、今回は村を挙げての祝いとなった。


 アクはある人物を探していた。その人物は子供達に囲まれて、楽しく笑って食事をとっている。その姿は可愛らしさを残しながらも温かみがあり、子供達を見つめる目には慈愛が込められていた。


「エリス。少し話をしてもいいか?」


 アクはエリスに声をかけた。子供達もアクのいつもと違う様子に気付いて黙りこむ。


「ええ。いいわよ」


 エリスは子供に声をかけて、アクのところに来てくれた。


「ねぇねぇ、あれって告白?」

「シィ~~今は黙っておくのが礼儀なの。これだから男は」


 去っていくアク達の後ろで、子供達が何やら話しているのを聞いて、気恥ずかしくなる。


「ついてきてくれ」


 アクは居た堪れなくなり、エリスの手を取り、足早にその場を去った。村を出てすぐ転移を使う。元々アジトにしていた岩場に飛んでから、岩の上に腰を下ろす。


「あっ、という間に移動できるのね」


 転移に驚いたエリスの言葉を聞きながら、アクは空を見る。元の世界とは違い、そこには満天の星空が広がっている。岩場は空を見るのに邪魔な物が何もない、森の中ではここまで満点の星は見えない。


「約束を覚えているか?」

「戦いが終わったら返事をくれるって言ってたことかしら?」


 エリスは少しおどけて答えを返してくれる。


「ああ。質問してもいいか?」

「どうぞ」


 エリスの方が少し余裕があるのか、こちらも見ずに即答で返してくる。アクは緊張していた。十も年下の少女に告白され、自分で本当にいいのだろうかと何度も疑問に思った。

 異世界人の自分でいいのか?自分はまだ結婚はできないのにいいのか?これからさらに大変になっていくことで、エリスをほったらかしにしてしまうかもしれない。それでもいいのか全て聞きたかった。


「エリスはどんなことがあっても俺の味方でいてくれるか?」

「どういう意味?」


 初めて顔を挙げたエリスは月明かりに照らされて、いつも以上に綺麗に見えた。赤い髪に幼さを残した可愛らしい顔、それが今は幻想的に見えて、とても綺麗に映っている。

 アクが見惚れていると、エリスが質問を重ねてくる。


「アク?どうしたの?」

「あっいや。すまない」


 顔を逸らして息を吐き、気持ちを落ち着かせる。


「エリスの申し出を受けたい。だけどこれから俺はどんどん忙しくなるし、大変になっていくと思う。時には汚い仕事もするだろう。人から嫌われるようなこともする。エリスにも嫌われてしまう事をするかもしれない。それでも君は俺の味方でいてくれるか?」


 アクは溜め込んでいた想いを一気に話した。受けて入れてもらえないかもしれないと思いつつ、自分が求めるものは若い少女には酷かもしれない。それでも軽はずみに少女の申し出を受けることはできなかった。


「私を試しているの?」


 ダントに盗賊団の思想について聞いた時と同じ顔をしている。そんなエリスを見て笑ってしまう。


「なに?」


 アクが笑ったことにエリスが驚く。


「いや、少し緊張が解けたよ」

「もう~で、私を試してるの?」

「そうかもしれない。不安なんだ。俺は今から悪い奴になるかもしれない。それでも君が俺の傍にいてくれるのか」

「そう。答えはイエスよ。あなたのことは私が支えてあげる。私はあなたと共に歩んでいきたい。何があっても」


 エリスの言葉にアクは驚いて、エリスの顔を見る。彼女は真っすぐにアクを見つめていた。


「本当にそれでいいのか?後悔しないか?」

「後悔はわからないは。だってこれからするかもしれないもの。でも、そんなことを考えても仕方ないでしょ。でも、今の私はアクと一緒に居たい。もう置いて行かれるのは嫌よ」

「ありがとう。俺もエリスといたい」


 アクはそういうと、エリスに近づきエリスを抱きしめた。


「エリスを離さない」

「アクを守ってあげる」


 月明かりに照らされた二人は、誓いのキスをした。この世界に来て初めて、アクが心から気を許せる相手を得た瞬間になった。

いつも読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ