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裏切り者になります9

 ドイルは眠りについた兵士達六百人を連れて、何とか王国にたどり着いた。王都を出発してから二日しか経過していなかったが、疲労度は今までのどんな戦いよりも濃いものだった。


「王様、兵士達が戻ってまいりました」


 謁見の間にて、この国の宰相にして内務大臣を務めるミュラー・カーティス・バグドリアが王へ報告にやってきた。バンガロウ王国に二人いる貴族のもう一人だ。


「わかっておる。伝令はすでに来たのだからな」


 謁見の間では、怒りに震えて王座に座る、シシンガー・ルビストス・バンガロウがミュラー宰相を睨みつけた。


「バルツァーはなぜ負けた?帰還した者をここへ連れてこい」


 王の怒りは収まることを知らず、今にも部屋全体が灼熱地獄になるのではないだろうかと言うほどの熱気が醸し出されていた。

 シシンガー・ルビストス・バンガロウもまた火の魔法使いとして高い才能を持ち、バルツァーに比肩する戦闘能力を持つと言われている。バルツァー自身が、自分以上の戦闘センスを持っていると褒めたほどだ。


 連れてこられたのは百人長を務めるドイルだった。この国には十人長が百人、百人長が十人、千人長が二人。万人長が一人、存在していた。

 その中で万人長、千人長、百人長が一人ずつ欠けていた。帰還した者の中では、未だ眠りについている百人長が五人。十人長は四十五人と軍の半分が機能不全状態に陥っていた。唯一報告できる人間は、百人長を務めているドイルしかいなかったのだ。


「お呼びにより参上しました。百人長を務めますドイルでございます」

「前置きはよい。戦闘について報告せよ」


 シシンガー・ルビストス・バンガロウは、ドイルを睨み付けるように見つめる。まるで獅子が獲物を狙うような目に、ドイルは身が縮む思いがした。


「はっ、バルツァー・フエルト・ボードル将軍及び、ラルド千人長は共に敵の捕虜となりました。ボードル将軍の姿は見ていませんが、敵が将軍が愛用している豪槍を所持していたので間違いないかと。ラルド千人長は敵の魔法を受けて捕虜となるのを確認しました」


 ドイルは持ち帰ったバルツァーの豪槍を死シンガーに提出する。


「ドイル百人長。お前はどうしてここにいる?」

「はっ?」

「お前はなぜこの場で報告しているんだと聞いているんだ」


 王の容赦のない威圧に、ドイルの息が詰まる。そんなドイルに宰相が助け舟を出す。


「シシンガー王様、ドイルが居なければ兵は隊を保てず。散り散りになっていたことでしょう。ドイルは指揮官のいなくなった隊をまとめ上げたのです」

「はっ!将軍、副将共に倒れ。右往左往する兵達をまとめるには撤退するしかありませんでした。不甲斐ない我が身を恥じ入るばかりです」


 ドイルは平伏し言葉を発した。


「そうか、もう下がってよいぞ。そなたの武勇に感謝を」


 シシンガー王は興味を失せたとドイルに下がるよう命じた。


「はっ」


 ドイルは急ぎ謁見の間を離れた。


「どいつもこいつも使えん」

「そんなことはありません。今回の戦いで、魔法使いがいることが判明しました。また、将軍二人は失いましたが、兵達の被害は皆無です」

「その将軍を失って誰が指揮を執る?」

「王、自ら執られてみては?」


 王の心中を察したミュラー宰相の言葉に、シシンガー王は久しぶりに笑みを作った。それは獰猛な獣が狩りを楽しむような雰囲気を醸し出す笑みだった。


「よかろう。全てを無に帰してやろう」


 ミュラー宰相は、バンガロウに存在する二大貴族の一つであり初老の男性だ。バルツァーとは幾度となく政治争いをしてきた宿敵でもあった。王の発言を聞いて、ミュラー宰相は笑みを作るのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 戦場の後片付けをしていたゲオルグはアクとサントンの働きに唖然とした。


「本当に勝っちまいやがったよ」


 ゲオルグたちはドイルが兵を連れて帰る姿を門の上から見ていた。


「本当にな」


 隣に立つダントも、信じられないものを見る気持ちだった。アクに王国と戦うと宣言したとき、正直ここまでの事が成せるとは思っていなかった。心意気はあったが、ここまで上手くいくと思っていなかった。


「ダント……俺は本当に決めたよ」

「ゲオルグ……俺もだ」

「お前もか、仕方ない奴だなお前」

「お前に言われたくないぞ」

「そうか。ふははははは」

「そうだ。ははははは」


 二人は二人だけがわかる言葉で笑い合う。唯一二人の雰囲気で、ボルツだけが二人が決めたことをわかっているようだったが何も言わなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シャリスの下に、ラルドとバルツァーが連れてこられた。


「将軍!」


 眠っているラルド、項垂れ力無い表情をしているバルツァー、そんな二人にシャリスは呼びかけるが、二人からの反応はなかった。


「お前達。将軍に何をした」


 グラウスを睨むシャリスに、グラウドは簡潔に答える。


「倒した。それだけだ」


 グラウスの言葉で、将軍達が敗北したのだと理解する。心では納得できなかった。


「ウソだ。将軍達が負けるはずないだろう」

「お前がどう思おうと知らん。事実は変わらんのだからな」


 二人をそれぞれの牢に入れ終えて、グラウスは小屋を後にした。小屋からはシャリスの将軍達の名前を呼ぶ声が聞こえるが、誰も止めようとはしなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サントンは戦いが終わると同時に倒れこんだ。バルツァーとの死闘は、サントンの圧勝に見えたが、実は紙一重だったのだ。サントンが魔法に目覚めていなければ、バルツァーが遊んでいなければ、最初から本気で殺しに来ていれば、後に続く言葉は数えきれない。一つでも違えば、結果は違ったかもしれない。


 確実にバルツァーとの死闘が、サントンを更なる高みへ押し上げた。意識を失い、眠りにつくバカ弟子を見て、ゲイザーは誇らしげな気持ちになった。

 自分が逆立ちしても勝てないバルツァーを、まだ二十歳そこそこの弟子が倒したのだ。しかも、まだまだ魔法について知らず、これからいくらでも鍛える余地があるのだと思うと楽しみで仕方ない。


「お主はどこまで強くなるのだろうな」


 ゲイザーには子共はいない。ロカを本当の娘のように思っているが、血の繋がりがあるわけではない。息子という者が居れば、こういうものかと、倒れたサントンの頭を撫でてみた。自分の行動に恥ずかしくなり鼻の頭を掻き部屋を後にする。


「今は休めよ。我が息子よ」


 ゲイザーの言葉に反応するようにサントンが寝返りを打つ。

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