閑話 その他の勇者達12
ヴァンパイア城の一室にて、美少年となったヴァンパイア王は女性たちにいいように弄られていた。
「ええい、そろそろやめい。お主らはいつまでここに滞在するつもりだ。勇者であろう。他の魔王を倒しにいかんのか?」
見た目は十二、三歳の少年で、白い肌、銀髪の髪と端正に整った美少年は偉そうに話している。風の勇者である安城 風香に散々に弄ばれ、綺麗な髪は乱れてボサボサになり、タキシードを着ていた上半身は裸にされていた。
「なんやの好きにしてえぇって言うたんは、ヴィクター君やで」
「好きにしてもいいと言ったが、こう毎日毎日いじくりまわされてはかなわん」
「こ~んなに可愛い美少女二人にいじられるんやで、男冥利に尽きるんとちゃうん」
「限度と言うものがあるだろう」
半裸の少年は涙目で訴えるが、一向に聞く耳を持たない相手に効果はない。それを見かねたもう一人が声をかけた。
「そうだな。そろそろ滞在しているのにも飽きてきた。ここを私達の拠点に決定したんだ。あとは侵略していくだけだな」
「そうだそうだ……って、おい!拠点ってどういう意味だ。ここは我の城だぞ」
「お前は私達に負けたんだ。お前の物は私たちの物だ」
「ジャイアニズムどもめ」
ヴィクター少年は恨めしそうに二人の美少女を睨み付けた。拠点と言い放った少女は、火の勇者として召喚された神代 火鉢という。ヴィクターも魔王と言われる存在だ、自分は強いと思っていた。しかし、火鉢により一撃で負けたので少々風香と違う意味で火鉢も苦手だ。
「それで次の魔王がどこにいるのか、お前は知っているのか?」
火鉢がヴィクターの頭を鷲掴みにして聞いてくる。
「知っている。ここは最南端にある我が王国だ。ここから東に行けば獣魔族の集落があり、西に行けばマーメイド族の集落がある」
「北は?」
「北は、我の主にあたる魔人族の魔王がおられる」
「うん?ちょっと待て、主とはなんだ?魔王は十人いて、争い合っているんじゃないのか?」
火鉢の疑問は、ルールイス王国で得たものしか知らない。
「いや。十人というか、二人の大魔王が領土争いをしているだけだ。俺達は大魔王ゾーマ様に仕える者でしかない」
そう、ヴィクターは中ボスでしかない。
「はぁ?じゃ他の獣魔族とかマーメイド族も、その魔人族の大魔王の手下か?」
「そうだ」
「なんだよ。じゃ早速魔王を倒しに行こう」
スリルを求める火鉢としては、ヴィクターと同列の奴に興味がない。さらに上位の者がいるならその者と命の駆け引きをしたい。
「ヒ~ちゃんお願いがあるんやけど?」
「なんだ、フー?」
「私……人魚見てみたい」
「人魚?」
「うん。マーメイドってことは海の魔物やねんやろ?人魚とかいそうやん」
「よく知っているな。確かにマーメイドの魔王は、人魚と呼ばれる種の魔王だ。名前をオットーとかいったな」
風香の言葉にヴィクターが答える。
「うん。人魚やし女の子やんね」
「知らんな、実際はあった事がないからな」
ヴィクターは、期待を持たせる発言をした罰として風香にまたも揉みくちゃされた。
「そうか。では次はマーメイドの集落とやらに行ってみるか、あたし的には大魔王をぶち殺したいんだけどな」
「まぁまぁ、急ぐ旅でもないしな。のんびり行こうや。なっ、ヒ~ちゃん」
「まぁそうだな。フーがそういうならそうしよう」
ヴィクターは強制的に案内役として連れて行かれることが決定した。しかし、ここまで一緒に来ていた、アンジェリカが倒れた。
暗黒大陸の過酷な環境が彼女には合わなかった。ここまでの旅で疲れてていた彼女は、暗黒大陸に入り魔王の圧力に耐えられなかったのだ。
「申し訳ありません。火鉢様、風香様」
「いいのよ、アン。あなたは私達に本当によくしてくれた。だからしっかり休んで体を治してくれ」
「そうや、そうや。アンは私達のお姉さんやねんから、元気になってもらわな困るで」
「お二人共、本当に私がいなくても大丈夫ですか?」
食事やお茶、服の用意など全てアンがしてきた。
「大丈夫大丈夫。心配せんで寝といて」
火鉢と風香の後ろでエルファルトが冷汗を流していた。アンが倒れて三日経つが、二人の世話を交代に近衛兵で行っていたのだ。エルファルト以外のメンバーは、あまりの大変さに今は疲れ果てて寝ている。
二人は元の世界でもお嬢様だったらしく、ほとんど自分のことを自らしようとしない。人に命令してくるので、なんとか三日間なら耐えられたが、旅の間、二人の世話をすると思うと気が気ではない。
「アンは寝ていろ。マーメイド族の集落にちょっと行って帰ってくるだけだ。すぐに戻ってくる」
「わかりました。お二人のご武運を陰ながらお祈りしています」
アンは最後まで申し訳なさそうな顔をしていたが、しぶしぶ折れてくれた。二人はアンがいない大変さも考えずに旅支度を始める。有り合わせの服を鞄に詰め込んで、二人は一番動きやすい服を着ている。
それはパンツにシャツと言うラフなものだが、これには近衛兵達が異議を申し立てて阻止する。それからはレイチェルが火鉢の、サラサが風香の洋服からお茶まで用意するように決まった。
なんとか旅の用意を終えて、旅立つことができたのはさらに三日後だった。
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