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閑話 その他の勇者達10

楽しんでいただければ幸いです。

 宴を終えて白雪シラユキ シズクは、お風呂に案内された。お風呂に入るのは久しぶりだったので、喜んで入らせてもらった。お風呂から上がると、用意されていた浴衣に袖を通した。

 雫は実家の神社では、寝巻は昔から両親の趣味で浴衣だったので着慣れていた。どちらかと言うと和服を着た方がしっくりくるぐらいだ。


 浴衣を着終えると用意された部屋に戻る。部屋の中にはアヤメ姫が待っていた。用意された部屋は、アヤメ姫の部屋と続きになっている。アヤメ姫を護衛することと、水の巫女を監視及び護衛するためにはこの部屋が一番良いという家臣団及び姫からの要望を断る理由もなかった。


「ただいま、アヤメちゃん」

「うむ。お帰りなのじゃ。シズク、改めてすまぬ」

「どうしたの急に?」


 雫が白い浴衣を着ているのに対して、黒髪に黒い浴衣が白い肌によく似合うアヤメが雫が帰ってきてすぐに頭を下げる。


「先ほどは取り乱してしまった。お主の大切な人を悪くいったこと、頼みを聞く代わりとはいえ難題をお主に押し付けてしもうたこと、わらわは自分が情けない」


 奥歯を噛み締めたように顔を歪めるアヤメに、雫は優しい顔になって答える。


「ううん。アヤメちゃんは約束してくれたじゃない。私がアヤメちゃんのお願いを成功させれば、土の勇者。金剛コンゴウ マモルに会わしてくれるって。それに、困ってるアヤメちゃんの頼みなら私は断らないよ」


 言葉を聞いたアヤメは、ますます自分が情けなくなる。カブラギ皇国の地には一つの伝説があった。それはカブラギ皇国ができるより前、一匹の魔獣がカブラギ皇国がある地に眠っているとされていた。

 魔獣は七つの首を持ち、それぞれ七つの属性の魔法を使う。体躯は4メートルから5メートルもあり、普通の人では太刀打ちできない。カブラギ皇国を立ち上げる前に、水の勇者と仲間がこれを封印することに成功した。


 しかし近年、村の一つがその怪物に滅ぼされたと報告が入った。アヤメもすぐに調査団を差し向けたが、調査団二十人の精鋭たちが一人しか帰って来なかった。帰ってきた一人も片腕を失い、戦える状態ではなくなってしまっていたのだ。

 ただ帰ってきた者の報告で、間違いなく魔獣であることが判明した。

いつカブラギ皇国を蹂躙してもおかしくない状況に、手立てがなく困り果てているときに水の勇者召喚の報を聞き、何を置いても水の勇者を連れて来させたのだ。


「だが、わしは自分が情けない。今日会ったばかりのシズクに大事を押し付け、城に籠っていることしかできぬ自分が情けない」


 項垂れるアヤメに、そっと雫が近づき抱きしめる。


「アヤメちゃん。私たちはもう友達だよ。だから友達が困ってるなら助けてあげるのが当たり前なんだよ」


 優しい雫の声にとうとうアヤメが泣き出してしまった。アヤメが泣き止むまで、雫は抱きしめ背中を擦ってやる。アヤメは見た目も幼いが、心も幼い。

 どうして彼女が殿なのか、それは二十人の精鋭の中に、アヤメの両親も含まれていたからである。魔獣討伐に失敗し、急遽まだ幼いアヤメ姫が殿となったことで、鎖国を敷いて情報漏洩を防いだ。

 幼い少女は、ずっと一人で我慢し続けてきたのだ。


「よく頑張ったね。これからは私がいるから一緒に頑張ろう?」


 雫は相手の心を感じることができる。アヤメがいかに辛く、大変だったか話している内にアヤメの辛さが伝わってくるのだ。


「すまね。シズクには情けないところばかり見せてしまうな」


 白い肌に頬がほんのりと赤みを帯びる。


「いいんだよ」


 雫は相変わず優しい笑みで笑いかける。アヤメはポツポツと国の話、両親の話をした。雫も元の世界の話、金剛の話をして二人は恋愛の話もした。


「長居をしてしまったな。明日出発じゃ。最高の人材と最高の装備を用意しよう」

「あまり気にしないでね」

「いや、それぐらいはさせてくれ。わらわのせめてもの償いじゃ」


 アヤメは完全には立ち直れていなかったが、雫と触れ合うことで心が癒されていくのを感じた。


「おやすみなのじゃ、シズク」

「お休み。アヤメちゃん」


 アヤメが部屋に帰り、監視されていた気配も消える。監視は怖いものではなく、温かく見守ってくれるような視線だったので、雫は気にしないでいられた。


「お休みなさい。絶貴さん」


 監視をしていた絶貴が、唖然としているのをほったらかしにして雫は眠りについた。朝起きて準備をしていると、アヤメが昨日の晩に言った通り、最強の装備が用意されていた。そこには侍が着るような鎧兜に刀、大きな扇子、そして旗があった。


「どうじゃ我が国最強の装備じゃ。代々の水の勇者が着たとされる装備ぞ」


 自信満々に胸を張るアヤメに、他の人間がため息を吐く。


「アヤメちゃん。私には少し大きいし重たくて動けないわ」

「何っ!」


 まさかっと、驚くアヤメに周囲は呆れてものが言えないと下を向く。それを見かねて雫が大きな扇子に手を伸ばす。扇子だけは紙ではない素材で作られており、雫でも持てそうだと手を伸ばしたのだが、それは雫の為に用意しれたのではないかと思うぐらい手に馴染んだ。

 もともと奉納などで扇子を使い、舞を舞う雫には扇子を持つことで高揚した気持ちが落ち着く。


「これだけもらっておくね。後は絶貴さん達が来ているようなシノビ装束をもらえるとありがたいかな」

「そうか、そんなものでいいのか?」


 扇子しか受け取ってもらえなかったことに、ガックリと肩を落とすアヤメだが今度はと勢いを取り戻す。


「ではでは、お主の護衛を紹介しよう」

「うん」


 話題が変わったことに家老達も安堵して、護衛の者達が呼ばれる。


絶貴ゼツキ玄夢ゲンム紫苑シエンここへ」


 アヤメが声をかけると、三人の人間が部屋に入ってきた。


「絶貴と玄夢はもう知っておるな?この国最強のシノビじゃ」


 青鬼と黒鬼は一礼して腰掛ける。最後に残った紫の肌をして、身長175cmぐらいありそうな長身の女性の鬼が立ちつくしている。

 髪は黒くロングヘアーで腰まで伸びており、顔は切れ長な目元にキツイ意思が見える綺麗な年上のお姉さんという印象を受ける。


「こやつは紫苑。女ながらにシノビの奥義を極めた者じゃ。女性のシズクのサポートもしてくれる。男ばかりではシズクも心落ち着かぬと思ってな」


 アヤメの気づかいはありがたいが、少しタイプの違う雫と、紫苑は話せるのだろうかと周囲が心配していたが、雫の方から近づいた。


「よろしくお願いします。白雪 雫です。シズクと呼んでください」

「はっ!私は紫苑であります。白雪様。護衛の任務つつがなく務めさせていただきます」


 雫の自己紹介をスルーする形で、紫苑が自己紹介する。これには雫の額に青筋が立った。


「シズクと呼んでくださいね」

「はい、白雪様」


 雫と紫苑はしばしにらみ合っていた。間に挟まれたアヤメはオロオロしてしまう。


「こらっ、紫苑。シズクがシズクと呼ぶようにと言うておるでないか、どうしてそんな態度をとるのじゃ」

「これは失礼しました。姫様」


 アヤメに怒られた紫苑は、捨てられた子犬のような顔になり片膝をつく。


「わらわに謝ってもしかたあるまい。謝るのは雫にじゃ」

「はっ申し訳ありません。水の勇者様」


 白雪からさらに呼び名は遠くなった。


「もういいわ。なんとなくあなたの態度の訳が推測できましたから」


 しかし、そんな紫苑の態度に雫の方が折れた。


「はっ」


 紫苑もそれ以上話すことはないと、絶貴たちの横に座る。


「すまぬの~、シズク。紫苑は優秀じゃし、普段は物凄くいいいやつなのじゃが、今日はどうしたのか?」


アヤメは紫苑の態度がわからないと言う感じで、首を捻っていた。雫は紫苑の思いに気付いたので、黙っておくことにした。こうして雫は三人のお供を連れて、魔獣退治となる旅に出た。

惜しむアヤメの頭を撫でていると、もの凄い視線で紫苑に睨まれたが気付かないふりをしておく。

いつも読んで頂きありがとうございます。


アドバイスや感想をいただければ嬉しく思います。

どうぞよろしくお願いします。

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