表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/213

裏切り者になります8

祝50話


読んで頂ければ幸いです。

 アクは事後処理に追われていた。四百近い軍勢が、クック村の周囲を固めている。しかし、半数以上の人間が戦線離脱している状況となっていた。

 クック村に現れたバンガロウ王国軍は、西と南の門を突破するべく、破城槌を使うため歩兵隊が門の前に現れた。ゲオルグ率いる西門隊と、ハッサン率いる南門隊は破城槌を持った歩兵を中心に水をかけていく。


「どうしてこんな村如きの門が突破できんのだ」


 百人長であるドイルは、騎馬に乗って歩兵隊に発破をかける。


「しかし、破城槌を使おうにも、向こうから降り注ぐ黄色い水を浴びた者は、悉く立ち上がれなくなります」

「ええい、不甲斐なさすぎるぞ。こうなれば騎馬隊前へ」


 ドイルは最前線を任されている自負があり、騎馬隊に号令をかける。


「騎馬のスピードにより一気に突撃をかける。行くぞ」


 四百騎の騎馬が、それぞれ二百騎ずつに分かれ、門の突撃を仕掛ける。黄色い水は雨のように降り注ぎ、一滴でも肌に当たったものはシビレて、馬から落馬し、また落馬した者により次々と落馬が続く。門まで辿りついた者もいたが、門に近くなればなるほど雨の届かぬところはない。


「くっ、門にたどり着いてもダメか」


 既に四百近い兵が訳もわからぬ黄色い水により身動きが取れぬ状態に陥られ、ドイルは傍観するしかできなくなっていた。イルが手を拱いている間に、バルツァー・フエルト・ボードルの指示の弓隊を前に出すが、望んだ成果を出せないでいる。壁は思いのほか高く。魔法隊に指示が飛ぶ。しかし、魔法が発動することはなかった。


「どういうことだ?」


 ドイルは成果の出せない現状を、ただ見ているしかできない自分に冷静さを失いかけていた。


「将軍が出るぞ!道をあけろ!」


 伝令の大声が響き渡り、炎に包まれたバルツァー・フエルト・ボードルが重騎士達を引き連れて門へ向かっていく。


「将軍!」


 ドイルはその雄姿に涙すら流れた。ドイルが見つめる中、バルツァー・フエルト・ボードルは西門に到達し、破城槌など不要とばかりに豪槍を振り上げ、門へ振り下ろそうとした瞬間にバルツァー・フエルト・ボードルが黒い影に飲み込まれていく。


「将軍!」


 ドイルは涙が止まり、驚きに包まれる。付き従っていたラルド副長も炎が消えた後、緑色い水によって意識を失った。動けず苦しんでいた兵士達に、今度は緑色の水が降り注ぐ。先ほどまでうめいていた者達がどんどんと意識を失っていく。


「どうなっているんだ」


 悪夢を見ているようだった。相手は精々百人程度だと聞いていた。十倍の勢力で挑んだ戦いが、相手に打撃を与えることもできずに無力化されていく。


「あなたが最後の隊長ですね?」


 いつの間にか、ドイルの下に黒いフードを被った男と、白いフードを被った少女が立っていた。


「誰だ貴様は?!どこから現れた?」


 槍を持つ手に力を込める。


「私は解放軍の軍師をしているアクと申します。あなたがここの指揮官で間違いありませんね?」

「貴様が軍師だと?貴様のせいで我々は」


 ドイルはわけのわからない現状を作り出したであろうアクに、怒りがこみあげ槍を振り上げる。


「死人はいませんよ。前回の百人には死人も出さなければ我々の覚悟が分からないと思いましたので、苛烈な策を取らせてもらいました。ですが、今回は死人は出していません。何か問題でもありましか?」

「貴様、ふざけるな。戦いを愚弄しているのか?」

「何故です?あなたは皆殺しにされたかったんですか?」


 アクの問いに対して、ドイルは言葉を詰まらせる。


「いや、そういうわけでは・・・」

「優柔不断な人ですね」

「そういう問題ではないだろ」


 アクと話しているうちに、ドイルは自分が何に憤りを感じているかわからなくなってきた。


「とにかくあなたがここの指揮官で間違いありませんね?」

「ああ」

「そうですか、やっと答えてくれましたね。ではあなたに勧告します。あなた方の大将バルツァー・フエルト・ボードルを捕虜としました。また副隊長らしきラルド殿もこちらで捕虜となりました。あなた達の兵も半分を切ったので、降伏を勧告しにきました」

「なっ、なに!将軍が捕虜だと、何を馬鹿なことを」


 ドイルは信じられないと怒りを取り戻す。


「証拠が必要ですか?彼が持っていた槍ぐらいしかありませんが」


 徐に黒い影が出現して、その中からバルツァー・フエルト・ボードルの豪槍が現れ、地面に落ちる。


「それは将軍の……」

「そうです。これで信じてもらえますか?」

「本当なんだな?捕虜というのは?」

「はい。死んではいません。怪我はそれなりにしていますが」

「そうか……ならばよい」


 ドイルはやっと冷静さを取り戻し、近くの兵に伝令を出させる。それは白い狼煙を上げ、降伏の合図だった。


「これでいいか?それで我々はどうなる?」

「帰ってください。バルツァー将軍とラルド副隊長、ジュナス百人長はお返しすることはできません。ですが、兵の皆さんはお返しします」

「それでいいのか?」

「はい。ここに寝られたままでも困りますので、もし連れて帰らないのあれば一人ずつ邪魔なので殺します」

「それは困る。私の命にかけてすべての兵を連れ帰る」


 ドイルは百人長になって長い。バルツァーや、ラルドよりも若くはあるが、二人と戦ったのも数えられないほどあった。本来であれば冷静な戦術を考える男なのだ。今まで見たこともない戦いに、戸惑いはしたが、本来の自分に戻った。

 先ほどまでのオドオドした男はどこにもいなくなり、アクとの交渉を冷静に終えていく。


「できれば、もうお前とは戦いたくない。お主はどこまで目指す?」

「王国崩壊を……」

「そうか……ならば、また戦場で会うことになるな」

「そうなります」

「次は負けん」


 ドイルは焦り、怒り、嘆いた。この戦場は確実にドイルと言う男を更なる高みに押し上げる場となった。そしてアクとの出会いが、ドイルに新たな道を作りだす。


「では迅速な行動をお願いします」


 アクはそれだけ言うと影の中に消えて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドイルとの交渉を終えたアクにルーが質問を投げかける。


「マスターあんなに教えてよかったの?今回はたまたま勝てただけでしょ?」

「そうだな。正直運がよかった。俺の魔法、サントンの力、ロカやゲイザーさん、みんなの頑張りが無ければ勝てなかった。だから今度はもっと簡単な勝利を勝ち取らなければならない」


 ルーはマスターであるアクを心配していた。今回はルーから見てもギリギリだった。何か一つでも狂えば上手くいかなかった。逆にある物を使い考えられる最善の手が打てたとも言える。

 アクはドイルと名乗る相手の指揮官と話を終えると、クック村の外に倒れている者達を魔法により街道に集めてドイルに届けた。但し、色付き水の効果を消す事無く。

ドイルは眠りについた六百人近い人間を荷馬車や馬などに乗せて、残りの者と手分けして帰路についた。アクとルーは去って行く、ドイルの後ろ姿を見送った。

いつも読んで頂きありがとうございます。


アドバイスや感想をいただければ物凄くうれしいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ