裏切り者になります7
新しく評価してくれた方ありがとうございます。
正しく受け止め頑張ります><
暗闇を抜けると森の中にぽっかりと空いた草原に立っていた。
「お膳立てはできたな。じゃ始めさせてらうぞ」
自分に向けられる殺気に振り向けば、二十になったばかりの少年と、見覚えのある初老の男が立っていた。
「ゲイザーか?久しいな」
「ふん。ワシの事を覚えておったか。お前みたいな大物に覚えてもらえるなんぞ。光栄じゃ」
「何、お主は有名じゃったからな。モグラのゲイザーは逃げの名手としてな」
「昔のことじゃ」
「それで、お主がワシを倒すのか?」
「ワシではない。ワシの弟子が相手する」
「おいおい、俺はオッサンの弟子になった覚えはないぞ」
「どちらでもよい。むしろ二人掛かりで来てくれた方が楽しめそうだ」
サントンはいつも通り、背中に二本、腰に二本差した状態で一歩前に出る。
「小僧、お主にワシの相手ができるのか?」
「やってみればわかる」
サントンが腰に刺さっている二本の剣を引き抜く。
「うむ、では試してやろう。受けてみよ」
バルツァーは豪槍を構え直し、突きの姿勢を取る。豪槍が消えたと思った瞬間、サントンの顔の横を通り抜けた。
「どうして避けぬ?」
「殺気が無かったからな。避ける必要はないだろ?」
「ふははは、そうか。では次は当てるぞ」
バルツァーはもう一度豪槍の握りを変える。今度は豪槍が蛇のようにうねり、色々な角度からサントンに襲い掛かる。サントンも向かってくる豪槍を二本の剣で巧みに躱し続ける。
「なかなかのスピードじゃな。ならばこれならばどうじゃ」
槍を振り上げ、目にも止まらぬ速さで振り下ろす。サントンは二本の剣を巧みに使い、受け流すが流し切れずに左の剣が砕け散る。
「ほう、剣一本で済んだか。小僧、名を名乗れ。名を聞いてやろう」
「へへ、将軍に認められるとは光栄だな。俺はシルバーウルフ解放軍リーダーをしているサントンだ」
「こやつは冒険者でもある。別名王殺し(キングスレイヤー)じゃ」
「キングスレイヤーか……大層な二つ名だな」
ゲイザーの余計な一言にバルツァーは感心し、サントンは言わなくてもいいとゲイザーをとがめる。
「別に俺自身が名付けたんじゃねぇ」
「ガハハハ、よいよい。キングスレイヤーサントンよ。我はバンガロウ王国万人長にして軍事最高司令官バルツァー・フエルト・ボードルじゃ。いくぞ」
バルツァー・フエルト・ボードルはまたも持ち方を変える。今まで片手で持っていた槍をゴツイ両腕で持ち直し、槍にとって最もポピミュラーな刺突の一撃を放つ。
サントンは折れた剣を捨てて、腰に巻いている剣の鞘を捨てた。背中の剣を抜き放つ。普通の剣と違い、湾曲しているシャムールと呼ばれる大剣二本を構えなおす。今まで持っていた一本の剣は地面に突き刺した。
サントンは横向きになり左足を前に出す。踵だけを地面につけてつま先は天を見る。両の手に握られたシャムール、右手で握る一本は頭の上に構え、左手に握る一本は左足と平行に構える。
サントンが初めて見せた構えは、大型の魔物が大きな口を開けて獲物を食らうかのような異様な構えだった。
「見たことがない剣だな。面白いぞ、小僧。全力で行かせてもらう」
バルツァー・フエルト・ボードルがそういうと、槍の矛先から青い焔が立ち込める。戦場を走り回っている時に見せた赤い炎ではなく、青い焔は槍の矛先に止まりユラユラと揺れている。
「ワシの最大の奥義じゃ。受けてみよ」
バルツァー・フエルト・ボードルがニヤリと笑った瞬間、馬が走りだす。それに合わせて閉じられていたサントンの目が開かれる。
交差は一瞬。
前のめりに剣を交差させて静止するサントン、馬上から槍を突き、青い焔が揺らめくバルツァー。
サントンの二本の剣が青く揺らめく焔によって溶かされ跡形もなくなる。それと同時にバルツァー・フエルト・ボードルの愛馬がもの凄い音と共に横倒しに倒れた。
「見事!我が愛馬をよくぞ仕留めた。だが我は未だ健在ぞ。どうする?」
「こっちは必殺の一撃だったんだけどな。武器が無くなっちまったよ。本当、あんた化け物だわ」
「くくく、そのワシの連撃も、一撃も、奥義も全て受け切って何を言っておる。お前も十分化け物じゃよ。そろそろ決着を付けねばならん。ワシも部下を待たせているのでな」
「そうだな。俺も約束した奴がいるんだ」
サントンは素早く地面に突き刺していた一本の剣を引き抜く。刀身が隠れるように体を前のめりになり、逆袈裟切りになるように両手で柄を握り右下段に構える。
「また横を向くか……誰に習ったのか、ますます興味を引く。が、それでワシに勝てるか?」
バルツァーは豪槍を軽々と振り回した。どんな攻撃にでも対応するように力を抜いて構える。
「今度こそ決めるぞ」
にらみ合いが続いていたが先に動いたのはバルツァーだった。槍のリーチを活かして突きの連打を放つ。先ほどの攻防でどこか痛めたのか、目にも止まらぬ速度は無くなり、紙一重でサントンは躱していく。
「むぅ~」
バルツァーが呻り声をあげるが、接近するサントンを押し返すのが精いっぱいになっていた。懐にサントンが入り、切り上げる。バルツァーも反応して槍柄で受ける。
「どうしたオッサン。さっきまでのスピードがねぇぞ。そんなんで俺を止められるのか?」
バルツァー自身も自分の槍が思うように動かぬことに苛立ちを覚えていた。サントンの必殺の一撃は、馬と鎧に確かに衝撃を残していた。
それはバルツァーの肋骨に傷をつけるほどに、先ほどから槍を突くたび、払うたび、痛みが走る。それでも気になどしていられない。このままやられるわけにはいかないのだから。
「オッサン、息が上がってきたぞ。もう終わりか?」
「はっ!笑わせるな」
バルツァーは強がりを言うが、サントンのスピードについていくのがやっとになってきていた。未だ奥の手があるが、それも通用するかどうかわからない。
「なんだ、まだなんか有りそうだな。出し惜しみするなよ」
サントンの催促の言葉を聞いて、バルツァーの中で何かが吹っ切れた。
「小僧……いや、サントンと言ったな。ここまでよくワシを追い込んだ。褒めてやるぞ」
「オッサンに褒められても嬉しかねぇよ」
「ふん。正真正銘、次で最後じゃ。見事受けてみよ」
バルツァー・フエルト・ボードルはそういうと、まるで演武を舞うように槍を突き、払い、回して、天を突いたりと奇妙な行動を取りだした。
「サントン、マズイぞ。早く片をつけろ」
それまで傍観を決め込んでいたゲイザーが、大声を上げてサントンに決着を促す。しかし、サントンは動かない。
「黙ってろオッサン。男が最後と言ったんだ。受けるしかねぇだろ」
サントンは一本の剣をダラリと垂らし構えを解く。あえてこれが構えだと言わんばかりの自然体で立ち尽くす。バルツァーの舞いにより次第に槍全体が光り出し、光はバルツァー自身を覆い尽くす。
「いくぞ」
虚ろな目をしたバルツァーはその言葉の後にサントンに襲い掛かる。サントンは先ほどと同じように躱そうとするが、服や防具が次々切り裂かれ、焼かれ、突かれていく。
「くっ、避けているはずなのにどうして?」
サントンも驚きを隠せないでいた。紙一重で躱しても傷がついていくのだ。大きく間合いを開けようとするが、バルツァーは逃がさない。付かず離れずで槍の間合いをキープし続ける。
「オッサン、やっぱあんたスゲ~よ。でもな俺の勝ちだ」
バルツァーの炎に包まれた光り輝く槍を、サントンはあろうことか片手で掴んだ。
「何をしとるんじゃ!?そんなことをしてはお前自身が焼け焦げてしまうぞ」
ゲイザーが慌てて近寄ろうとするが、そこには左手からどんどんと炎を吸収していくサントンの姿があった。
「「なっ!」」
虚ろな目をしていたバルツァーも、弟子だと豪語していたゲイザーも言葉を失った。
「なんでオッサンが馬を下りてから俺の方が速くなったかわかるかい?あんたの青い焔、食わしてもらったぜ」
説明しながらもバルツァーを覆っていた炎は見る見るサントンの左手に吸い込まれ、存在を消滅させた。
「最後だ」
炎を全て食らい、サントンは目にも止まらぬ速さでバルツァーを二十一回切りつける。鎧の繋ぎ目を切られ、手の腱を切られ鎧も槍も地面に落ちていく。
「あんたを捕虜にする」
最後に首に剣を突き付けて、サントンが宣言したことで、バルツァーは両膝をついて項垂れた。
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