間話 バルツァー・フエルト・ボードルという男
間話です。
読んで頂ければ幸いです。
バルツァー・フエルト・ボードルは若かりし頃より、厳しい父の教えにより槍を振り続けた。槍は、突く、払うの二つの動作を極めることで、幾千通りの手札を得ることができる。
バルツァーは、毎日三千回の素振りを繰り返した。三歳の時から自分よりも大きな槍を使い、修練は体を急速に成長させた。十歳を数える年には、父の周りにいた者達では相手にもならなかった。
「お前ももう十三だ。実戦を経験しても良かろう。冒険者ギルドに登録して、魔物共と生死をかけた戦いをしてこい」
厳格な父の命令は絶対で、十三歳で冒険者になった。当時はアース大陸との小競り合いや、他の連邦軍との衝突が絶えず行われていたので、相手に事欠くことはなかった。
「冒険者に登録したいんだができるか?」
バンガロウ王都の冒険者ギルドに十三歳という若さで、登録申請に来たものを、ギルド職員も先輩ハンターもなんの冗談かと嘲り笑った。
「おいおい。ここはお前みたいなお子様がくるところじゃねぇぞ」
一人の大柄な男がバルツァーの肩に手を置く。
「子供はさっさとお家に帰って、ママのオッパイでも吸ってろよ」
明らかにバルツァーをバカにした言動を聞いても、バルツァーは動じることなどなかった。十年間振り続けてきた槍に自信があったのも確かだが、声をかけてきた男が本当に大したことがない相手で見掛け倒しだということがわかっていた。
「受付できるか?」
「あっ、はっ、はい。ここに名前と年齢、出身地を書いてくれればいいよ。あと字が書けないなら、代筆もできるけど?」
「大丈夫です」
「おいおい、無視するなっての」
男は書いているバルツァーを強引に振り向かせ殴り掛かってくる。バルツァーはほとんど動く事無く首を捻り、拳を躱して槍の柄で男の鳩尾を殴りつけた。
「ガハッ!」
男はもんどり打ちながら地面を転がった。そんなことは気にしない風に、バルツァーは記帳した紙を受付に出す。
「これでいいですか?」
「あっ、はっ、はい」
先ほどの嘲り笑う表情から、緊張した表情になり受付が対応してくれた。
「ギルドの説明をしますか?」
「いえ、ここには実戦を経験しに来ましたので。討伐系の依頼しか受けません。何かありますか?」
「あなたは一番下のランクですので、今行える討伐系はゴブリン五匹の退治ですね」
「ではそれを」
バルツァーは早々に依頼を承諾してギルドを後にした。バルツァーに憎々しげな視線を送っている者がいたが、バルツァーは気にもとめていなかった。
「ゴブリンは街を出て森に入ってすぐか」
父に言われた通り、実戦経験を得るためゴブリンを探すと、すぐに見つかった。水飲み場に三匹のゴブリンが何か獲物を探しにきていた。
バルツァーは迷うことなくゴブリン達の前に出て、槍を構える。子供が突然槍を持って出てきたことにゴブリン達は一瞬驚いたが、バカにするように笑い出し、一匹が片手剣を持ってバルツァーに襲い掛かってきた。
一瞬のことであったが、恐怖らしきモノを感じた。それは命のやり取りを初めて行ったからか、しかしバルツァーは迷うことなく槍をゴブリンの頭に突き刺した。
「キキッ!」
仲間が一撃でやられて、ゴブリンが今度は二人掛かりで襲い掛かってきた。一匹は先ほどと同じ片手剣、もう一人はナイフを持っている。
ゴブリンたちも連携を取り、左右に分かれて襲い掛かって来る。バルツァーは剣を持つゴブリンの方に突きを放ち、ナイフの方には突いた返しで払いをする。しかし、ゴブリンが紙一重で避けた。
ナイフを持ったゴブリンを仕留め損ねる。仲間がまたやられたことで、ヤバイと思ったゴブリンは逃げ出したのだ。バルツァーもゴブリンが逃げたことで追いかけた。
ゴブリンは思いのほか逃げるのが早く、追いついた時には洞窟の前まで来ていた。
「キキ!」
逃げられないと判断したゴブリンは、突然大きな叫び声をあげて、仲間を呼び始めた。すると洞窟からぞろぞろとゴブリン達があふれ出てきた。
さらには森の隙間から弓矢が飛んできて、バルツァーの右足に突き刺さる。
「くっ!」
矢を引き抜き、袖を千切って血止めを行ない、木を背にして立ちすくむ。バルツァーと木を囲むようにゴブリンが迫って来る。
「ブオオオオォォォーーー!!!」
いきなり叫び声が上がり、ゴブリン達も驚いて道を開ける。そこには一際大きなゴブリンが三体、真ん中を歩くゴブリンキング、左右を固めるゴブリンロード、それぞれ大剣を軽々と持ち、バルツァーを睨み付けていた。
だがゴブリン達の中に弓を持つ者はいない。バルツァーは先ほどのギルドで弓を持っていた者の顔を思い出して、苦虫をかみ殺したい思いになる。
ゴブリン達はキングの命令で一斉に襲い掛かってきた。バルツァーは払いを中心に、ゴブリンを寄せ付けず、止めには突き放つ。幾時間それを繰り返していたかわからない。もう腕は重くて上がらない。もうダメなのか、俺はここで死ぬのか、死にたくない、死にたくない。
十三歳の少年は、死にたくない一心で能力を開眼させた。魔法に目覚めたのだ。魔法は重い体に力を注ぎ、ゴブリンの血により威力が下がってきていた槍に炎を纏わせる。
イケる。これならいくらでも、バルツァーは炎の化身となり、ゴブリン達に襲い掛かった。少年は初めての実戦において、実に二百体以上のゴブリンを一人で倒した。なおかつ上位ランクのゴブリンキングを一撃のもとに葬りさった。
初めて使う魔力は長くは持たない。ゴブリンを全て倒し終えた後、力を使い果たして倒れたところに矢が飛んでくる。
魔力に目覚めたバルツァーには、どこから飛んでくるのか感じることができるようになっていた。先ほどの様に纏うことはできないが、槍の先に炎を出現させて矢の飛んできた方に魔法を放つ。
「ギャー!」
先ほどギルドで絡んできていた男が火だるまになって飛び出してくる。それを見てもバルツァー・フエルト・ボードルはつまらないと思うだけだった。
十三歳で衝撃的なデビューを飾ったバルツァー・フエルト・ボードルは、そこから無敗を貫き通した。さらにバンガロウ王国に仕えてからは、更なる伝説を作り続けた。
魔槍使いバルツァー・フエルト・ボードルは三十歳という若さで、バンガロウ王国最強の称号と、万人長という肩書を得ることになった。
いつもよんでいただきありがとうございます。




